ちびくまスケッチ(2000年7月)


7/2
パパに留守を頼んで、ちびくまを置いて近くのスーパーへ買い物に行きました。
帰ってきて、飛びついてきたちびくまの顔がなんだか変。あっ、前歯がない!
少し前からぐらぐらしていた乳歯が、留守中に抜けていたのでした。
「ちびくまくん、抜けた歯はどうしたの?」の問いに、ちびくまはなぜかはっきり「たべた」。
ええ〜〜っ!?第一、「食べた」なんて言葉、君の語彙にはなかったんじゃないの?
でも、何度訊いても、答えは「たべた」。
本当に食べちゃったんなら・・・う○ちの中からでてくるのかなあ。(~_~メ)
・・・と思っていましたが、幸い、和室の畳の上に落ちていました。
あの、「たべた」はなんだったんだろう?

7/4
今日はマンションのあるP市の就学相談会でした。
就学相談で嫌な思いをした、という体験談は嫌と言うほど聞いているので、 かなりプレッシャーがかかっていました。
案内された会議室には、相談員を勤める先生方が3人と、教育委員会の幹部(教職)のかたが待っていました。

最初に、教育委員会の側から、
「昔の就学相談、というのは、あなたのお子さんはここへ行きなさい、と半強制的に行き先を決めるようなものだったんですが、5年ほど前から性格が変わって、今は、まず親御さんのご希望が優先されます。ですから、今日は今後お子さんをサポートしていく上での、顔合わせと、親御さんのお考えを聞かせていただく機会、ということですので、どうぞリラックスしてお話ください」
と言われたので、ちょっと安心します。

まず、簡単な生育暦を話したあと、相談員の先生から質問が出ました。
「就学相談とは直接関係なくて、個人的興味なので申し訳ないんですが、その、アメリカの就学前プログラムというのは、どういったものですか?」
そこで、私はChildfindの判定の様子、「おひさまの部屋」のプログラムについて、かいつまんでお話しました。

話終わると、3人の就学相談委員さんたちが、皆下を向いてしまっています。
質問をした、一番若手の先生がやっとのことで口を開きました。
「正直、ものすごいショックです。僕たちも、この市でやっていることはまだまだだとは思っていました。 でも、ここまで差があるとは・・・。
そういう充実した教育を受けてきたお母さんとちびくまくんに、いったい自分たちがどんな場を用意してあげられるのか、どう相談にのるというのか、考えたら、恥ずかしくなってしまって、言うべき言葉が見つかりません」

こういう反応は予測していなかったので、少し驚きました。
「お母さん、アメリカはアメリカ。ここは日本なんだから、アメリカと同じように考えてもらっては困りますよ。第一、日本にもいいところがいっぱいあるんだから」
日本の「専門家」と呼ばれる人たちからは、今まではこういう言葉が返ってくるものだったのです。
こういう風に、日本の障害児教育の遅れを、素直に、謙虚に受け入れてくださる先生もいるのだなあ、とちょっと明るい気持ちになりました。

結局、ちびくまを普通学級に入れたいとは思っていないこと、学区にも特にこだわらず、ちびくまにとって最もよい環境を用意してもらえそうな学校に入れたいと思っていることを話して、ひとまず終わりとなりました。
これから最終決定まで、いろいろ考えることになりそうです。

7/5
きょうは、M学園の個人懇談がありました。
担任の先生は3人いらっしゃるので、個人懇談も3対1です。
部屋に入ると、まず、大きな通知票のようなものを渡されました。
開いてみると、対人面、身辺自立、情緒面などに分けて、ちびくまの今の状態が ことこまかに書き込まれています。

アメリカのIEPのように具体的な目標は掲げていないけれど、 それなりに先生が日々のささいな進歩に目は向けてくださっていることが よくわかりました。

入園して1ヶ月、ちびくまに特に劇的な変化があったわけではありません。
M学園は「おひさまの部屋」のように、専門の教育を受けた先生が、きちんとしたプログラムをもとに積極的・集中的に療育アプローチをしているところではないので、こどもの「伸びる力」を支えることはできても、積極的に引き出すとか後押しすることはなかなか難しいのかもしれません。
でも、ちびくまが新しい環境のなかで、ありのままに受け入れられて、だんだんに 心理的にほぐれてきているのは、私にもはっきり感じ取れます。

「言葉も文化も違う国に帰って、退行するのはあたりまえ。でも、心理的につまづいたり しなければ、この子はまた進歩し始めるわ。新しい先生には、ちびくまがとても いい子で、頭もいいのだということをわかってほしい。ちびくまは、人間関係を基礎に発達していくタイプなの。新しい先生との関係がしっかりできるといいのだけど」
そういって心配してくれたL先生に、
「とりあえずは大丈夫」
そう、報告できそうです。

7/12
今日は学園のプール開きでした。
ちびくまは水遊びが大好き。
アメリカで過ごした3度の夏も、アパートの敷地内にあるプールで、毎日のように泳いで過ごしたのです。

環境が変わったのでどうかな〜と案じていましたが、やはり大喜びで飛び込んで、元気いっぱい遊んでいましたよ、と連絡帳に書いてありました。
これで、ちびくま、また一つ学園に行く楽しみが増えたようです。

7/12
今年になってから、パソコンに強い興味を示しているちびくま。
帰国後、新しいPCを買ったのを機に、今まで使っていたPCをちびくま専用として与えたことで、それに拍車がかかっています。
毎日、起きるとすぐにPCを立ち上げ、背景を変えたり、デザインを変えたり、教育ソフトで遊んだり・・・。
教えたわけでもないのに、CD-ROMの入れ替えから、ショートカットの利用、ESCキーでいらない前置きを飛ばすなど、親も気づかなかった裏技を使っていたりして、びっくりさせられます。

そんななかでいつの間にか、色の明度(light,dark)や微妙な色の名前(ペパミントグリーン、スカイブルーなど)、簡単な数列、英単語、日本語の挨拶表現など、いろいろな知識を得ていっているようです。
ちびくまに知識的なことを説明するのは難しいのに、パソコンで遊んでいると、すうっとちびくまの脳にすいこまれていくようなのです。
ローマ字入力ではなく、画面をクリックする形のワープロを与えると、学園で先生が言った言葉をうちこんだりもしています。
英語に日本語、音楽にお絵かき、算数に生活・・・パソコンは実に魔法の箱です。

7/17
ちびくまが家で遊んでいるときに、ぽろぽろと学園の先生や子供たちの名前を口にするようになりました。
おもちゃのバスをバックさせながら、
「ピンポーン、バックします。ピーピーピー、○○先生、レッドバスのります」
「△△ちゃん、お部屋いきますよ。Let's go to classroom.」
「ちびくまく〜ん、おててあらいましょうか」
試しに、クラスのお友達の名前がいえるかどうかやってみると、先生3人、クラスのお友達8人の名前がすべてフルネームで言えました。

やっとちびくまが新しい学園を「自分のいる場所」として認め始めたのかなあ、とうれしくなりました。
7/20
MBS(大阪ローカルのTV局・TBS系)で平日の午後やっている「ちちんぷいぷい」という番組、この最後にでてくる血液型占いが最近のちびくまのお気に入りです。
このコーナーでは、「明日のあなたのラッキー度」が星1つ〜5つであらわされるのですが、その星がでてくる様子がいたく気に入ったようです。

今日もちびくまはニコニコしながら、そのコーナーを見ていました。
「明日のB型さんは・・・」1、2、3・・・とでてくる星をちびくまが指を折って数えようとしています。
その手を見ていた私ははっとしました。
ちびくまは「1」(指さしの形)は片手でできるのだけれど、「2」(Vサインの形)以降は、反対側の手で無理矢理指を折って数えているのです。
コーナーが終わった後、もう一度「ちびくまくん、B型さんは・・・?」
ちびくま「1つ、2つ、3つ・・・」でもやっぱり反対の手の助けがなければ指が動きません。

「指の動かし方がわかっていないんだ」
ちびくまは自分の体がつかめていないのではないか、今までそう漠然と感じていたのですが、やはりそうだったのだ、と愕然とする思いでした。
Vサインもできない手では、鉛筆やお箸がもてなくても全く不思議はないでしょう。
「やり方や意味は十分に分かっているはずなのに」
そう思っていたちびくまの謎が、またひとつ解けました。

7/26
今日はまた月に1度の母子保育の日でした。
今月の企画は「おばけやしき」。
広い多目的室に、遊具や画用紙を使って、先生たちがお化け屋敷を造って、そこをお母さんと一緒に探検するのです。
お化け屋敷に入る前から、暗闇をいやがって泣き叫ぶ子、入ってすぐに絶叫しながら逃げ出す子、先生が脅かそうとしてもこんにゃくをぺたんと貼られても、まったく意に介せず一目散に前進する子、お面の下の先生のにおいをちゃんとかぎ分けて、だっこされに行ってしまう子。
それはそれは十人十色の反応、とても「普通の子」の反応の比ではありません。

さて、ちびくまはと言うと、最初こそおっかなびっくりだったけれど、すぐにニコニコの笑顔になって、何度も行ったり来たりを繰り返しました。
暗闇も、こんにゃくの感触も、先生の仮装も、すべて楽しんでいる様子。 つくりもののおばけなんかよりもっと怖いものが、日常生活の中にたくさんあるちびくまにとっては、お化け屋敷など「少し毛色の変わった遊び」くらいだったのかもしれません。
それにしても、先生たちには「お疲れさま」と言いたくなりました。

7/27
学園から帰ったちびくまは、機嫌よく一人遊びをしていました。
同じ部屋でおじいちゃんがTVをみていたので、私はその場をまかせて、おばあちゃんと別室にいたのですが・・・

「あーっ、なんだこれ!べちゃべちゃじゃないか!」
おじいちゃんの大声にびっくりして飛んでいくと、座布団がびしょぬれになっています。
においをかぐと、それはおしっこでした。ちびくまのおしっこが多すぎて、おむつから漏れてしまったようです。
ちびくまはニコニコしながら、座布団を指さして、「べちゃべちゃ」と言います。
おじいちゃんの発した言葉の語感が気に入ったのか、うれしそうです。
「ほーんと、お座布団、べちゃべちゃだね。ちびくまくん、これ、だれのおしっこかなあ?」
そう訊いた私に、ちびくまは、ちょっと考えてから答えたのでした。
「おじいちゃんかな?」

ちびくまの言語理解は、ゆっくりながら少しずつよくなっているようですが、発語のほうは自分の要求と、自分の興味を他人と分け合うための(ジョイント・アテンション)言葉しかまだ使えなくて、普段はまだ会話や問答はできません。
それなのに、どういうはずみか、このようにひょっこりと会話のつじつまが合うことがあるのです。
英語の本では"Open Window"(窓の開く瞬間)と呼ばれる現象で、単なるタイミングの良い偶然と考える方も多いようですが、少なくとも親にとっては、我が子とちゃんとやりとりができた、というとてつもない勝利感をもたらしてくれる、楽しいできごとです。

当然ながら、我が家は大爆笑の嵐となりました。
ちびくまだけが、「なぜ笑うのかわからない」という、きょとんとした顔をしていました。

7/30
ちびくまを連れて、「東条湖ランド」という遊園地へ行きました。
人混みが大嫌い、うるさいのもイヤ、モーター音大嫌い、列に並んで待つなんてとんでもない、というちびくまには、遊園地は楽しいどころか苦痛な場所らしいと気づいた後、しばらく遊園地には足が向いていなかったのですが、この遊園地にはさわって遊べるおもちゃ館ができたとTVでやっていたので、ひょっとしたら、と思い、足を延ばしてみたのでした。

まだ暑い日が続いていることもあり、プールもあるこの遊園地は大変にぎわっています。
ちびくまは割におとなしく、手をつないであるいて行きました。
「おもちゃ王国」なんていう名前がついているので、どんなものかとおもったら、いくつかの建物におもちゃがたくさんおいてあって、その一部は実際にさわって遊べる、という程度のもの、普通の5歳ならあまり喜ばないんじゃないのかなあ、という感じだったのですが、ちびくまは結構大喜び。

特に、大好きなTVゲーム、字や数字のはいった教育玩具、なによりも大規模なプラレールの展示には心をひかれたようで、何周も何周もぐるぐるまわって(ここがとても自閉っぽい)眺めていました。

その後、のりものにも初挑戦。レールの上をゆっくり走るクラシック・カーに乗ったちびくまは、とても嬉しそうにハンドルを回してニコニコしています。 やっと、遊園地を「楽しむ」ことができた、その思いで、親のほうが嬉しくなりました。


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