ちびくまスケッチ(9月)


9/2
お風呂に入ろうとしていたちびくまが、しゃがみこんで「わあ、てんとう虫だ。かわいいなあ」と言うのです。見ると、そこにはクモが・・・。(^^;;

実は先の台詞は、ちびくまの好きな「こんなこいるかな」の絵本に出てくるのです。
こういう風に、以前聞いたことのある文をそっくりそのままかなり時間がたってから繰り返すことを「遅延エコラリア」といいます。
これは、普通より優れた聴覚記憶と普通より劣る言語発達、というアンバランスから生まれるのだそうです。

そして、このエコラリアがその場面で意味を持つか持たないかで、「機能的遅延エコラリア」と「非機能的遅延エコラリア」に分けられます。

「機能的遅延エコラリア」が多い、これもHYPERLEXIAの子の特徴だと言われます。
絵本やビデオの台詞をそのまま暗記していて、実際の場面にあてはめて使うのです。

つまり、ちびくまは「自分が虫を見つけた」のはわかっているんだけど、それをどう言葉にしていいかわからないので、記憶にある「虫を見つける」場面の台詞をあてはめて使ったんですね。「おかあさん、虫がいるよ!」のちびくま語というわけです。(笑)。

「ほんとうだ、クモがいたねえ」と言ってやると、とっても嬉しそうにニッコリ。
クモをつまんで、「わあ、カブトムシ!すごいつのだなあ」と感嘆し、放したクモを見送りながら「でも、このあり、どこへいくんだろう?」とのたまいました。(これも同じ絵本から)
日本語に訳すと(^^;; 、「わあ、クモだ。おもしろいなあ」「クモ、どこへ行くんだろうね」ということなのでしょう。

ちびくまの絵本やビデオの内容をきちんと把握しておくと(これが結構大変だったりしますが(^^;;;)、結構これでちびくまの気持ちがわかります。ほとんど喋れなくて、泣いたり怒ったりしかなかった頃のことを考えると、随分成長したな、と思うのです。

9/7
今日から新学期です。アメリカの小学校は入学式も始業式もないので、日本人の親にはなんだか物足りないです(笑)。
そりゃ、親も子供もドキドキなのは日本と一緒だろうと思うのですが。

ちびくまのクラスも、去年のメンバーは殆ど皆がキンダーに進級し、新入生を迎えて、メンバーががらっと変わりました。
ちびくまはいささか面食らった様子。それまでニコニコしていたのが、皆揃うと緊張の面持ちになってしまいました。
いつもなら、集合場所で「おかさん、バイバイ」と言うちびくまが、私の手をしっかり握って放しません。「やっぱりビックリしてますね」と言うと、「そりゃ、初日ですもん。ママも時間が大丈夫だったら一緒にいらっしゃいよ」とL先生。

他の園なら「さあ、お母さんはお帰りくださいね」と言われて、後ろ髪ひかれながら帰るところでしょうが、L先生は「子供には大変な冒険よ。ママは心配で当然。見に来たければ、いつ来てくれても、どれだけ長くいてくれてもいいのよ」とおっしゃいます。

男の子ばかり5人のクラス。途中で「マミ〜」と泣き出したり、玩具の取り合いでケンカしたり。
これからの1年でこの子達がどれだけ成長するのか、楽しみです。

9/10
今年度はじめての自閉クラスでした。
「今年は自閉が少なそうだな〜」とは思っていたのですが、案の定、普段は隣のクラスにいるT君とちびくまだけです。
これに先生と助手1人がつくので、事実上マンツーマンです。
今日も一日見学させてもらいました。T君はとてもおとなしいタイプなので、教室はひっそり静か。
今年は2人とも「他の子供と関係を持つ」ことを重点に指導するとのことで、2人で交代にパズルをするとか、キャッチボールをするとか、同じ玩具で仲良く遊ぶ、という場面が多く設定されています。
このような小人数クラスの長所は、先生と1対1での時間がたっぷりとれること、短所は遊びにダイナミックさがないのと、他の子に引きずられて何かをする、という機会が減ることでしょうか。

今年度から転任してきて、来月から隔週でこのクラスを担当することになっているS先生も参加しておられました。
この先生も「父兄の参加は歓迎」とのことでほっとしました。
今年は私も再々教室に足を運んで、先生のテクを盗まなければ(笑)。

9/13
今日もクラスを半分見学してきました。
ちびくまはクラスの最初のサークルタイムでは、新しく入った子をリードして、カレンダーの読み方を教えたり、率先して歌を歌ったりしています。

ちびくまの今の課題の第一はおむつはずし。
アメリカはかなり大きいサイズの紙おむつまで普通に市販されているので、まだ助かるんですが、でも、来年キンダーにはいるまでにはとっておかないと、本人の自尊心にも影響しそう(笑)。

L先生は、クラス全員に「おしっこに行く時にはちびくまを一緒に連れていって、おしっこのしかたを教えること」というルールを作りました。それで、誰もがおしっこに行く時に「ちびくま、おしっこに行くぞ!」と呼びに来るのです。ちびくまはちびくまで大人しくトイレに一緒に入って、他の子がおしっこするのをじっと見ています。時々は便座をあげたり、水を流してやったりのサービス付きです(笑)。
閉めたドアの外から聞き耳を立てていると、「いいか、良く見てな。おしっこってのはこうするんだぞ」といっぱしに講義している子もいて、笑えます。

「うちの子が、家で『ぼくは学校でちびくまにおしっこを教えている』って言うから、何かと思ったら、こういうことだったのね」もう1人見学に来たお母さんも笑っていました。
こうやって、ちびくまも、健常の子供たちも成長していきます。

9/14
今日も見学。いい加減しつこい親(笑)。 8月いっぱい家にいて、だらだら過ごさせてしまったせいか、ちびくまは少し退歩しているところがあり、 課題への取り組みもどこかだらけることがあります。
先生は「自閉の子が構造化されていない環境にいると、ある程度退歩するのは当たり前」とおっしゃってくださるのですが、ちょっと反省。(^^;;;
でも、ゲシュタルト言語のほうはいろいろ増えているので、見ていると面白い。

課題のゲームをやりながら
「こんなゲームつまんないよ。それよりおやつ食べようよ。」
先生に叱られて
「わあ、どうしよう。きっとおばけだ。こわいよう。」
おやつが配られる時に
「『わあ、おいしそう。』みんなはめをまるくして感心しました。」
玩具を片づけながら
「ぺロはせっせとおもちゃをかたづけました。」
(ちなみに、上の台詞はすべて絵本からの抜粋です)

「状況と台詞が合っているのは、理解ができている証拠」とL先生はおっしゃいます。
おもしろいけど、怪しすぎる・・・(笑)。

9/15
L先生が普通の子も含めてまず取り組むのが「自分の名前の読み書き」。

ちびくまの場合は読みもつづりも問題なしですが、ペンやクレヨンが持てず、筆圧も大変弱いので、字を書くことができません。
うまく手を添えて、手のコントロールを手伝ってやると、なんとか書けるのですが、今年は、補助無しで字が書けるようになるのが目標です。

そのために、書くための道具や、紙の質など、毎日少しずつ手を変え品を変え、という感じで取り組みが行われています。
L先生は「日本の子なんだから」とこれをひらがなでやってくれているのです。本当に頭が下がります。

今日もちびくまが課題(先生の補助でかく、なぞりがきなど)で何回か練習したあと、先生は「ここに自分で書いてごらん」と紙とマーカーを渡しました。ちびくまは自分ではうまくできないことがわかっているので、何度も抵抗して、先生に手伝ってもらおうとします。

先生は「私っていじわる」と言いながら、頑強にそれを拒否して、自分で書くように促しました。
するとどうでしょう。ちびくまが瀕死のみみずのはったような線ではあるけれど、はっきりとひらがなで自分の名前を書いたのです。

「やった!ママ、今の見た?ローラ、ローラ、見た?ちびくまが書いた!書いたよ!」
ちびくまが生まれて初めて、誰の手も借りずに自分の名前を書いたのです。
L先生の目から涙がこぼれおちました。「おやおや、大変(笑)」助手のローラさんがティッシュを手渡します。
「だから、私、特殊の先生やめられないのよ!こんなに努力が報われる職業って、他にある?」

L先生はちびくまが名前を書いた紙に日付を記入して、すぐ教室の壁に張りました。
「ママ、これは、学年末にはあなたに返します。でも、それまでは預からせてね。私のご褒美だから」

ちびくまは本当に先生に恵まれた、と思います。どんなにアメリカのシステムが優れていても、子供を愛してくれない先生なら、そんなもの何になるでしょう?

9/16
今日のちびくまは大荒れでした。課題をするのが嫌で、私に助けを求めたのに無視されたのに腹を立て、椅子をひっくり返す、玩具を床に投げつける、と癇癪を起こしはじめたのです。

いつもは大人しいちびくまが荒れ狂うのを、子供たちはあっけにとられて見ているのですが、L先生は「ちびくまは今癇癪を起こしているの。でも、癇癪を起こして乱暴をする子はね、誰とも遊んでもらえないものなのよ。みんな、ちびくまが癇癪をおさめるまで、ちびくまを見てはだめよ」と指示しました。

ちびくまの荒れはさらにエスカレートします。でも、注意して見ていると、走り回っていても、他の子供たちの手や足は踏まないように気を付けているし、叩いたり蹴ったり、という乱暴をはたらくこともありません。ひたすらモノにあたっているので、ちょっと安心します。

母親の私に助け船を出してほしくて、暴れているのがわかるので、私はそこで退散しました。

このあと、ちびくまは更にエスカレートし、教室の玩具をほとんど床にぶちまけて暴れたそうです。
そこで、L先生は他の子供たちを外で遊ばせ、自分たちも外に出て、ちびくまを教室に一人にして様子を見ていたとのこと。

すると、誰もいなくなって騒いでもしょうがないことに気付いたちびくまが、いかにもがっかりした、という顔で、自分が散らかした玩具を片づけはじめたのだそうです。こういうことはしてはいけない、と重々わかっていてやったことなんでしょう。結局、ちびくまはすべての玩具を自分で片づけました。

先生たちは、その様子を窓から覗いて、オオウケしていたそうです。
きちんと玩具を片づけて、矛を収めたちびくまを、L先生は褒めて、他の子供たちと一緒に芝生の斜面を転がって遊ばせました。

「こうするとね、ちびくまは癇癪を起こすことでは自分の不満を解決できないことを学ぶし、他の子も、玩具をなげたりすると、自分も友達から無視されるのだ、とわかるから乱暴をしなくなる。でも、悪いのは乱暴をすることで、その子供ではないことをきちんと教えないとね」

L先生にあげる勲章が欲しい私です。

9/17
今日は自閉クラスなので、また一日参加させてもらいました。
個々の課題への取り組みは、自閉クラスのほうが外部の雑音がないため、パフォーマンスがよくなりますが、やはり自閉の子しかいない環境というのは、余りに活気にかけ、不健康な感じです。

言葉で自己主張をする、ということのないちびくまに慣れている私には、普通の4才児が数人寄ると、「阿鼻叫喚」という感じがしますが、やはりそれが人間が育って行く過程で通るべき状態なら、ちびくまをそこから隔離することはちびくまのためにならない、と思うのです。

ところで、今日はちびくまにとって、記念すべき日でもありました。
なんと、生まれて初めて、トイレでウ○チができたのです。
外遊びの時に、なんだかもぞもぞとおしりを触りながら私の所に寄ってきたのを見たL先生が、ちびくまを抱いてトイレに駆け込んだのです。間もなく、「ママ、来て〜!早く早く!」と叫ぶ声。
行ってみると、今にも泣きそうな顔で座っているちびくまと得意満面のL先生。
L先生に「ちびくま、立って見てごらん」と言われて、ちびくまは便器の中を覗きこみます。
すると、そこにはちっちゃなウ○チがぽっかり。

ちびくまは不思議そうな顔でしばらく見ていましたが(笑)、きちんと水を流していました。
「今週はこの子にとって、すごい進歩の週だったわ。この子はこちらが働きかけた分だけ、きちんと返してくれる。教師にとっては、すごいやりがいのある子よ。こんな子を受け容れられない教師には、教師と名乗って欲しくない」

こんなに正面からちびくまに向き合ってくれる人がいるのに、親がぼやぼやしていられない、ずぼらな母親の私にとっては、ちょっぴりプレッシャーでもあります。(笑)アメリカでは、真の障害児教育は親の教育も含むと言われています。その意味では、私たちが受けているのは、真の障害児教育でしょう。

9/20
今週から、クラスのメンバーが1人増えました。健常の男の子です。
ここのプリスクールでは、「障害児を健常児と一緒に教育する」ことに重きを置いているため、健常児の勧誘に力を入れています。

小人数制で、先生がホンモノのプロで、躾も思いやりを育てる環境もバッチリ、お絵描きと体育と音楽と読み聞かせには専門の先生までついて、私立の幼稚園の半額、誰にだってお薦めの幼稚園だと思うのですが、11時50分から2時半まで、という中途半端な時間帯のせいか、なかなか子供が集まりません。
もう少し、健常の子が増えてくれると、活気づいていいんですが。

9/22
学校でちびくまのスピーチセラピーを担当しているSLPのKさんから、次回IEPの作成に先立って一度話がしたい、と言われ、学校へ出向きました。

ちびくまの日本語は、最近ほとんど伸びていません。そのわりに絵本はどんどん読めるようになっていくし、教えていないカタカナも少し読めるようになっています。

Kさんの話では、英語の語彙はここ半年ほどでぐんと伸びたそう。「頭いいんですよね。L(先生)は日本語わかると知ってるから日本語も使うけど、私には英語で話しかけてくるんです」

でも、ちびくまのスペルからはいる語彙の獲得の仕方は、子供の言語発達としては、やはり特異なスタイルではあるそうです。普通の子が母国語を身につけるのと、殆ど逆のプロセスで言葉を獲得していっているらしい。
単語のスペルと文法からはいる日本の英語教育を受けた私には、結構よく理解できるんですが、アメリカ人で英語を母語とするKさんに、その辺のことを説明するのは、かなり難しかったです。(単に私の英語力の問題、という声も(^_^; )

外国語を習うように日本語と英語を覚えているちびくま。でも、彼にはその基礎となる母国語がありません。
言葉の代りに、ずば抜けた記憶力と識字力でそれを補っている、ということらしいです。
「専門家の私がいうのも何ですけど、ほんとに変わってますよね(笑)」とKさん。
「伝統的な言語獲得の理論が役にたたないんだから、私たちにとっては、チャレンジですよ。でも、ハイパーレクシアの子は、一般に予後が良いような気がします。6年前にLのクラスにやっぱりハイパーレクシアの子がいたんですが、今、普通クラスに在籍してよくやっています。ちびくまもきっとそうなりますよ」
ちょっと嬉しいような、複雑な気分。未来が見える鏡が欲しい。

9/23
今日学校で何度もくしゃみをしているな〜、って思って見ていたけど、帰ってきてからどんどん悪くなって、鼻水ずるずる状態になってしまいました。

鼻が気持ち悪いのか、カーペットに顔をこすり付けて怒ってます。
ちびくまは意識的に息を吐き出す、ということが理解できなくて、まだラッパやシャボン玉も 吹けないのです。当然、鼻はかめません。
赤ちゃんのように、口をあてて吸ってやるんですが、粘度が高いのか、吸い出してやることができません。
あんまり強く吸い過ぎると、耳が心配だし。
ちびくまは私の手をとって、自分の鼻に当て、「何とかしろ!」と言わんばかり。

夜も1時間おきくらいに目を覚まして、怒り泣きしていました。
自分でもなんだかわからなくて、いらいらするんだろうな〜。
普通の4才児なら、「風邪ひいちゃったね。お薬飲もうね」って説明することもできるし、「おかあさん、頭痛い。鼻が気持ち悪い」と言葉で訴えることもできるのにな、と思ったら、ちょっと悲しくなりました。

子供は元気が一番。病気をされる度に、そう思います。

9/28
夕食の用意をしているところへ、ちびくまがやってきました。
ペンと紙を差し出すので、「な〜に?」と聞くと、"I want big M."
大文字のMを書け、ということなんですね。
おおおぉ〜っ、でも、ちゃんとセンテンスになっているではないの。

Mを書いてやると、今度は"I want small m."
おおおぉ〜っ、目的語が代ってる。ゲシュタルトじゃないんだわ。
これはL先生に報告しなければ。(笑)

思わず「スゴイ!えっら〜い!ちゃんと"I want"て言えたね〜」と誉めちぎってしまいました。
その後私が小文字のZまで残らず書かされたことは言うまでもありますまい。(^_^;

9/29
スピーチセラピーのため、5分ほど遅刻して学校へ。すぐサークルが始まったので、そのまま見学していました。
教室の電子レンジでおやつを用意していたローラさんが、「うわっ!」と大声をあげました。
耐熱プラスチックのお皿が、溶けていたのです。教室にはなんとも言えない、ひどい匂いが立ち込めはじめます。

「みんな、今すぐ、外へ出なさい!」
L先生はすぐに子供たちを園庭に出しました。
今日はシアトルの9月末とは信じられないほど、暖かくて良い天気。
ちょうど小学校の昼休みと重なって、園庭では、小学生たちも遊んでいます。
男の子が寄ってきて、「かわい〜。この子達、プリスクール?」
「そうよ。お天気が良いから出てきたの。遊んでやってくれる?」先生が言うと、「いいよ!」と言って、友達と一緒にチビスケたちを誘ってくれました。
普段は接触のない、小学生のお兄ちゃんたちと、鬼ごっこをしたり、シーソーで遊んだり、チビスケたちは大喜びです。

大きい子も、小さい子も、障害のある子も、ない子も、組んづほぐれつ。
背景に限りなく済んだ青空と、シアトルダウンタウンのシルエット。
映画の1場面のような、いい光景です。
「ねえ、あれ、わざとやったのよ。私」
ローラさんが笑いながら言います。「今度こんなお天気の日は、カレン、あんたの番よ」
アメリカ人ってのは、ホントにジョークが好き。(笑)

換気扇のついていない教室は、ついに終日使えず、子供たちは1日戸外で遊んで過ごしました。
この日の夜、ちびくまは晩御飯も食べずに眠ってしまいました。


ちびくまファミリーのホームページへ戻る「ちびくまスケッチ」目次へ戻る