ちびくまスケッチ(10月)


10/1
今日は、今年度転任してこられたS先生が担当する、自閉クラスの初回でした。
自閉症児の数が少ないので、2クラス合同で、L先生とS先生が2週間交代で担当することになっているのです。
大好きな助手のローラさんがいるとはいえ、はじめての先生ではじめての教室なので、本人も不安だろうと思い、前もって付き添いたい旨申し入れしてありました。
やはり、ちびくまは表情も硬く、私が教室に付いて行くのも嫌がりませんでした。(不安な気持ちの時は親の付き添いを嫌がらない)

L先生はどちらかというと、少年のような雰囲気がある人なのですが、S先生は深窓の令嬢のような雰囲気。
まあ、しばらくは先生も生徒も相手の出方を見る、というところでしょう。(笑)

10/4
シアトルの10月には珍しいような、素敵な秋晴れの日が何日か続いています。

外遊びの時間、園庭で嬉しそうに駆け回る子供たちの様子を先生と一緒に眺めていました。
ちびくまはあちらへちょろり、こちらへちょろり、と駆け回っていたかと思うと、フェンスにそって園庭の外周をぐるぐる周る、という、自閉症児に大人気の遊び(笑)をしていることが多いです。
ただ、去年と違うのは、今年は、内側、つまり、他の子供たちが遊んでいる姿をじっと見ながら歩いていることです。「自分から誘う、というのはまだできないんだけど、誘ってくれるのを待ってるのね。とても良い傾向だわ」とL先生は言います。

途中で、シーソーに座り、皆の方をじっと見ているのを見て、L先生がすかさず、「ちびくまが皆、シーソーに乗ろう、って言ってるよ。行っておいで」と子供たちに声をかけます。子供たちがわーっと走っていって、しばらくシーソー遊びができました。

その後、ちびくまはN君がシーソーの所に来る前に遊んでいたボールを拾って、N君に渡してやっていました。
去年の今ごろ、他の子に手をつなごうとされただけで、ひっくり返ってキーキー泣いていたちびくま。
随分ゆっくりだけど、確実に成長しているのがわかる、ひとこまでした。

10/5
L先生の教室に、新しいオモチャが登場しました。
大きなぬいぐるみのヤシの木に、色とりどりのフェルト製のアルファベットがマジックテープで貼り付けてある、というもの。
アメリカでは子供にアルファベットを教えるための絵本として知られる、「チッカチッカブンブン」の玩具版なのです。他の子供たちは、特に気にもしていないようなのですが、ちびくまは教室に入った瞬間から、目が釘付けになってしまいました。
サークルタイムの間も、そちらの方ばかり見ているので、ローラさんが隙を見て隠さなければならないほどでした。

サークルタイムと、「スモール・グループ」(工作やクッキングなど、その日のプロジェクト的なことをやる)が終わると、「プレイ・アンド・ワーク・タイム」と呼ばれる、自由遊びとセラピーセッションを組み合わせた取り組みの時間になります。

ちびくまは迷わずヤシの木の所へ飛んでいきました。高い台の上に載っているので、L先生の手を取り、そちらに向けて投げるような仕草(クレーン現象)をして、「あれを取ってくれ」と要求しています。

L先生はそれを無視したまま言いました。「ねえ、ローラ、これは新しい玩具ね。なんて言う名前かしら?」
「あら、L先生、『ABCココナッツ・ツリー』のことかしら?」ローラさんが答えます。
すると、ちびくま。"Ms.L, I want ABC coconut tree."と言ったのです。
L先生はバッチン、とウインク。ローラさんはガッツポーズ。
"Oh, OK. Here you are."L先生はすぐヤシの木をちびくまに渡します。

「子供が今、一番興味を持っているものを使って、『コミュニケーションしたい』という気持ちを育てる、というL先生のアプローチ、これは毎日何回も見られます。
ちびくまの言葉を育てる上で、私も随分参考にさせてもらっています。

10/6
日本企業の駐在員である以上、いつかは来るとわかっていたことです。
でも、L先生のもとで、すくすくと育って行くちびくまの姿に、どうぞその日が来るのが、1年でも1ヶ月でも遅いように、と祈り続けていたのです。

ついに、来春帰国の内示が出ました。
ちびくまの障害の特殊性、日本の家がある地域では、適切な療育が受けられる見込みは大変薄いことを会社に説明して、せめてプリスクール卒業まで、できればキンダー終了まで、こちらにいさせて欲しい、と嘆願は出して合ったのですが、企業とはやはりそんな甘いものではありませんでした。 「子供の療育を目的にアメリカにやったのではない」と一蹴されたようです。

社長訪米の折りには、ちびくまにも会っていただいたのですが、「なんや、普通の子やないか。こういう子はな、親がたっぷり愛情かけて、きれいな夕焼けでも見せてな、モノに感動するっちゅうことを教えてやったらいいんや」と言われただけでした。
「アメリカに長居したくて、子供をだしに使っている」と思われただけなのかもしれません。

一生懸命頑張って、先生やスタッフとも良い関係ができて、ちびくまもぐんぐん伸びはじめた、さあこれから、と いうときです。今受けている療育をストップするなんて、ちびくまを見殺しにするようなもの。絶対にできない。

涙があふれました。他のことはなんにも考えられなくて、一晩まんじりともしませんでした。
「なんとかしなければ。何とか・・・」

10/7
真っ赤に泣きはらした目で学校に行ったので、L先生はすぐに異変に気が付いたようでした。
「どうして?ここ1、2年が勝負なんだよ。せっかくこんなに伸びてきてるのに・・・。 あなたがここまでたどり着くのに、どれだけ頑張ったか、会社は知ってるの?」
学校では泣くまい、と思っていたのに、「彼らにはちびくまのことなどどうでもいいわけだから・・・」と言うと、また涙がこぼれてしまいました。L先生は目にいっぱい涙を溜めて、抱きしめてくれました。 そして耳元でこう囁きました。。
「ママ、絶対にあきらめては駄目よ。あなたは素晴らしいお母さん。あなたにはちびくまを守れるはずよ。絶対にあきらめてはだめ。まだ時間があるんだから、ちびくまにとって最善の方法を一緒に考えよう。私ができることはなんだってしてあげる。絶対あきらめないで」

いつまでも泣いてばかりいてもしょうがないので、帰国と、アメリカに残ることの2本立てで情報を集め、対策を考えることにしようと思います。海外向けの情報が少ないので加入を見合わせていたニフティサーブにも加入しました。

この夜、変な夢を見ました。大きな蟻地獄のなかに、沢山の子供たちが滑り落ちていこうとしているのです。

その中にちびくまもいます。私は必死でちびくまの腕をつかみました。「大丈夫だよ!お母さんが助けてあげるからね!」肩が抜けそうになりながら、それでもちびくまだけは引き上げてやることができました。

「よかった!もう大丈夫だからね!」ちびくまを抱きしめる私の後ろで、ほかの子供たちが泣きながら蟻地獄に吸い込まれていってしまいました。

そこではっと目が覚めました。まだ真夜中。ちびくまは私の隣ですうすうと寝息をたてて眠っています。日本にはまだ私よりずっと闘っているお母さんが沢山いるのに、わが子だけをアメリカの進んだシステムの中で助けたい、そう思っている私への戒めだったのでしょうか。
私は大きな溜め息をつきました。

10/9
我が家にはちょっとした絵本ライブラリがあります。何年アメリカで過ごすことになるかわからないちびくまのために、渡米前、ちびくまが自閉症であることなど知る由もなく、本屋めぐりをして買い集めたものです。

でも、ちびくまは、2才くらいまでの間にお気に入りになったものの他は、新しい絵本はすべて拒否するのです。 新しい本を出してやっても、自分で「ないない、ないない」といいながら、しまいにいってしまいます。それで、せっかく持ってきた絵本の山も80%は段ボール箱に入ったまま、部屋の隅に積んであります。

一方、以前からのお気に入りだった本たちは、すべて音読できるようになりました。
アクセントやイントネーションが変で、外国人が習いたての日本語を読んでいるような感じですが、一応きちんと読んでいます。そこそこ長さのあるものでも読むことができ、当人もこれを随分自慢に思っているようです。

ここ数日、「ぐりとぐら」を毎日読んでいるので、それなら、と思い、「ぐりとぐらのおきゃくさま」という本を出してきてみました。
ちびくまはさっと警戒の表情になって、「ないない」と言いかけましたが、絵をみせて、「ほら、ぐりとぐらだよ」と言うと、じっと絵を見ています。
ちびくまを膝に抱いて読んでやると、最後までじっと聞いてはいました。でも、読み終わるやいなや、「ぐりとぐら、ないない」と言ってしまってしまいました。「やっぱり駄目か」ちょっとがっかりしました。

ところが、その夜、夫が帰ってくると、ちびくまは「ぐりとぐらのおきゃくさま」を出してきて、「おとうさん、よんでください」と言ったのです。「あれ?新しい本?」驚く夫に「とにかく読んでやって」と言いました。
ちびくまは夫の膝で最後まで読んでもらうと、夫の手から本を取りました。「やっぱりしまうのか」と思って見ていたら、ちびくまはいきなり題名を読み上げました。「ぐりとぐらのおきやくさま」
そして、目を丸くする私たちの前で、最初から最後まで音読したのです。

「すっごおおおおいっ!天才っ!お利口っ!」親馬鹿夫婦の絶賛の中、ちびくまは「イエーイ!」と言いながら(このへん、すごくアメリカナイズされているかも(^^;; )飛び跳ねて、ご機嫌そのものでした。

その後、「ぐりとぐらのおきゃくさま」は「ちびくまライブラリ」への加入を許されました(笑)。
でも、やっぱりその他の本は「ないない」と言って拒否されてしまうのです。(^^;;

10/12
「おひさまのへや」の今の学習テーマは「クモ」です。
クモの絵本、クモのぬいぐるみ、虫かごのなかのホンモノのクモ、クモの絵、クモの工作、教室のあちこちに綿で作ったクモの巣とゴム製のクモ、もうクモだらけです。

サークルタイムで歌う歌も、勿論クモの歌。有名な物に"Itsy Witsy Spider"というのがあります。(「静かな湖畔の・・・」のメロディで歌う)
ちびくまはテープで既にこの歌を覚えていましたが、今日幼稚園に行くと、なんと歌詞カードが用意されていたのです。「まず文字からはいる」ちびくまがこれに狂喜したのは言うまでもありません。今まで、「音で」漠然と覚えていたものが、「文字」を与えられたことで、確固たるものになったのです。

おかげでこの後数日は一日中この歌を聞かされた母でした。

10/13
朝、キッチンでトーストを焼いていると、ちびくまがお皿をもってやってきました。
"I want noodle."
なんと、昨夜のおかずのマカロニサラダが欲しい、ということらしいのです。
残念ながらマカロニサラダは残っていなかったので、しばらくちびくま氏の癇癪をなだめるのに苦労しましたが(^^;; 、「言葉と場面を一般化して自分の要求を伝えようとしている」、なかなか良い傾向が出てきています。

10/14
学校の駐車場に付いた時、L先生が教室の入り口でコーディネータのJ先生と話している姿が見えました。
ちびくまを認めたL先生が、「ハーイ、ちびくま!」と声をかけます。
ちびくまが先生の方へ走りだそうとした瞬間、今度は後ろから、「ヘイ、ちびくま!」と声がかかりました。
助手のローラさんとカレンさんがバスの発着場へ迎えにいった他の子供たちが、教室に向かって歩いてくるところだったのです。「待てよ、一緒に行こう!」N君が叫びます。

私はちびくまがどうするかな、と思って、黙って見守りました。
すると、ちびくまはその場でN君たちが来るのを待ち、皆が来ると、N君と手をつないで、教室の方へ駆け出しました。「走っちゃ駄目よ。学校の中は歩くんだったでしょう」たしなめながらも、先生たちもみな満足そうに見ていました。

「まあちびくまの成長したこと!」ローラさんがウインクします。「去年の今ごろなら、羽交い締めにしたって待ったりしなかったよねえ」

「うちの子はゆっくりだけど、確実に進歩しているから、障害児ではない」という親御さんがいます。そういう人たちに教えてあげたい。「障害がある子だって、確実に進歩するのよ。障害を正しく理解して、適切な療育が受けられれば、もっともっと進歩するのよ」と。

10/18
今日はIEPミーティングでした。昨年度と取り組むスタッフが同じだし、私もしょっちゅう教室にいて、セラピーの様子や教室でのパフォーマンスは知っているわけだから、再検査はせず、話し合いで現状の確認と、指導目標の作成をしましょう、ということになりました。

去年はIEPの何たるかもよくわからない状態で、スタッフの原案にそのまま「お願いします」とサインしただけでしたが、「今年はあなたにも能動的に参加してもらいます。あなたと、学校側スタッフの立場は対等なのだということを忘れないで、ママオリジナルのIEPの目標を考えてきてちょうだい」とL先生から念を押されていましたので、改めてネットや本などで情報を集め、私なりに現状の問題点、スタッフへの要望をまとめていきました。

実は、私は他人と交渉する、ということが大の苦手です。就職の時も、就職活動のやりとりが嫌で、試験で入れる公務員を選んだほど。それでも、今回は相手が「私の要望を聞いて、できるだけそれに沿って」と思ってくれているのがわかるので、さほど苦痛ではありません。同じ事を日本の専門家たちに説明する方が、ずっとエネルギーがいるでしょう。それを考えると、また気持ちが落ち込みます。

予定された1時間の間、ブロークンイングリッシュではあれど、一生懸命説明しました。特に、ちびくまはハイパーレクシアという特殊なラーニングスタイルを持っている(この数ヶ月、その傾向がはっきりしてきました)し、加えてバイリンガル、という二重苦(?)を背負っているので、親の方から積極的に情報提供して援助を仰がないと、ちびくまに必要な援助が受けられないことになってしまいます。

言語療法士は、先月の私の説明を文章化してきて、「あなたが言っていたのはこういうことだろうか」と確認し、「あなたたち(L先生と私)はほんとうにちびくまのことを良くわかっているから、あなたたちの考える目標と方法を、私の知識で裏付けしてIEPを作成する、という方法をとりたい」と言ってくれました。

向うが(時間外に図書館巡りなどをして探してくれた)資料と、こちらの集めた資料なども交換し、とても内容の濃いIEPミーティングになりました。

あちこちの掲示板で、日本の学校側と親との話し合いの様子を読むと、この10分の一でも学校側が歩みよっているだろうか、と憤然としてしまうことが多いです。日本の先生は大変、雑用が忙しくて勉強なんかできない、と言うけれど、ワーキングマザーでありながら自分の時間を割いて勉強し、「いやー、私はプロなんだからこれくらいして当たり前」と涼しく笑い、逆に親から「たまには休んだら?」と気遣われているアメリカ人の先生たちを見て、同じ言い訳ができますか?と聞いてみたくなるのです。

10/20
「おひさまのへや」に仲間が増えました。それも、東洋系色白美人の女の子です。
今日は初日とあって、ご両親が付き添ってきていました。
発語はほとんどありません。ちびくまよりやや重度の自閉症のような感じです。(プライバシーがあるので、教えてはもらえないのですが、自閉傾向のあるなしは、だいたい見てわかるのです。経験とはえらいものです(笑)。)
やはりサークルタイムには座っていることができず、ローラさんがかかりっきりになっていました。

ところが面白いことに、いつものやんちゃ坊主たちの態度が明らかに違うのです(笑)。
なんだか大人しいし、妙にぎこちない。
スモールグループの席とりでも、いつもなら先生に近い方から埋まって行くのに、今日は彼女Mちゃんの隣から埋って行くのです(笑)。絵筆を強奪されても、いつもなら口より先にゲンコを飛ばすN君が、「えー、それ、ぼくの筆なんだけど・・・」とくちごもっているし、先生に口をすっぱくして「サンキュー」と言うことを教えられているD君が、Mちゃんが投げてきた絵の具のお皿を受け取って「サンキュー」と言ってたり・・・(爆笑)。

Mちゃんの両親をはじめ、先生も私ももうオオウケでした。
来年の春までにはMちゃんは「おひさまのへや」のプリンセスとして、君臨することでありましょう。(笑)
誰が教えたわけでもないのに「障害のある新入生」ではなく、「新しく来た女の子」として男の子達に恭しく迎えられたMちゃんを見て、ご両親の心配も吹っ飛んだようでした。

ところで、唯一、異性を意識していない態度のちびくまでしたが、この日の帰宅後、一番につづった単語は、なんとMちゃんの名前でした。
これでまた私は大笑いしてしまったのでした。

10/21
今週私はおやつを差し入れする当番にあたっています。
先生のリクエストで今日は教室で巻寿司を作りました。 楽しかったです。
書いてみたらあまり長くなったので、「落書き帳」に移しました。

10/26
スコラスティックという会社があります。日本の「キンダーブック」や「こどものとも」のようなもので、絵本やカセットなどが、学校を通じて安く買えるのです。
毎月もらってくる申込書に今まで目もくれなかったちびくまなのですが、今月は申込書を指差して、「おかあさん、これこれ」という仕草を何度もしていました。見ると、学校でお気に入りの「チカチカブンブン」、それに、クモの単元の時に使った、「イッチビッチスパイダー」の本があります。よっぽど気に入ったんだな、と思って申し込んでおきました。

その本が今日届いたらしく、大きな袋を提げて帰ってきました。途中で開けられないよう、先生が工夫してくれているのですが、ちびくまは中身がちゃんとわかっているようで、バスを降りるなり、「チカチカブンブン!」と言って「袋を開けろ」と催促してきます。

開けてやると、迷いもなく「チカチカブンブン」を取り出し、「チカチカブーンブーン♪」と歌い踊りながらアパートまで帰ったのでした。そのあとも寝るまで「チカチカブーンブン♪」が続いたのは言うまでもありません。(笑)

10/27
月曜から熱を出して欠席していたMちゃんが、やっと登園してきました。
やはりじっとしていることが難しくて、ローラさんがかかりきりになっています。
去年は、ちびくまもこうして専属のようにお世話になったのです。
ところが、サークルタイムの時、ちびくまの様子がいつもと違うのに気が付きました。ローラさんの隣に座っているのですが、奇声をあげたり、立ち上がったり、明らかに落ち着きがありません。そのうち、ローラさんの膝に座ろうとしたり、抱き付いたりしはじめました。L先生に注意されてもやめません。
サークルタイムが終わって、スモールグループで工作が始まりましたが、ちびくまはまったく先生の指示に従おうとせず、暴れたり、泣いたりします。

私にはピンとくるものがありました。ちびくまは今までクラスで一番障害が重くて、皆から注目される存在でした。それが、Mちゃんが入ってきたことで、その地位が脅かされているのです。

まして、大好きなローラさんがMちゃんにとられてしまった。何とか取り戻そうとして、わざと「不適切な行動」をしたり、ローラさんの愛情を確かめにいっているのでしょう。下に赤ちゃんができると上の子が赤ちゃんがえりをする、という、あれですね。ちびくまはもともと甘えん坊なやつですが、ここまで先生たちとの間に心の繋がりができているのだなあ、と嬉しくなりました。

L先生は「ふむ、誰かさんには焼きもちの虫がついたと見える」と言うと、ちびくまを抱いて、教室の隅に連れて行きました。そこで、2人だけで課題を仕上げ、帰ってきたときには、ちびくまはもう大分落ち着いていました。

でも反対に今度はMちゃんの癇癪が始まり、L先生はひとりでMちゃんと格闘する羽目になりました。自閉傾向のある子にとって、新しい環境というのは物凄いストレスです。通園3回目にして、爆発したというところでしょう。Mちゃんは力が強いので、L先生はみるみるうちに汗だくになっていきます。

自閉の子なら、誰もが通る道。あと1ヶ月もすれば、彼女も見違えるようになるはずです。 いつも体当たりで子供に付き合ってくれるL先生やスタッフたちに囲まれて・・・。

10/29
今日は自閉クラス。本体の小学校の方は今ハロウィーンで、子供たちがみんな仮装してきています。
先生までのりにのって仮装しているところは、さすがアメリカ、という感じがします。
もうひとつ、アメリカらしいな、と思うのは「ノー・ウェポン・ポリシー」。
たとえハロウィーンの仮装であっても、どんなにちゃちな作り物であっても、銃剣の類は一切持ち込み禁止なのです。だから、スターウォーズのキャラクターも、西部劇のガンマンも、武器なしです。

せっかくの全校あげての仮装大会ですが、ちびくまたちは参加しません。
いつも同じ環境にあることにこだわる自閉症児たちにとって、いつもと違う服を着て、変な格好をした人間がたくさんいるなかに入る、というのは、ものすごいストレスになるからです。

このお祭りが来て、子供たちの楽しそうな笑顔を見る度に、その楽しさをまだ当分理解できないであろうちびくまのことを思って、ちょっと胸が痛くなります。

でも、S先生から良い話を教えてもらいました。
S先生のクラスに、E君という子がいます。きちんと言葉でやりとりもでき、自閉ではない、という診断なのだけど、どうしてもクラスの他の子と交わろうとしない、と言うのです。
学年が始まってもうすぐ2ヶ月、S先生がどう働きかけても、他の子と遊ぼうとしない。

この間園庭でL先生のクラスと一緒になった時も、その子だけ、ぽつねんと一人でいたそうです。ところが、 S先生が「今日は何をして遊ぶのかな?」と訊ねると、E君が初めて、「あの子と遊びたい」と指差します。 その指の先には、1人でニコニコしながら園庭の周囲を周っているちびくまがいたのです。

S先生が「あの子はちびくまというのよ。一緒に遊ぼうって誘ってごらん」と言うと、E君は素直にちびくまのところに行って、「ちびくま、一緒に遊ぼう」と言い、差し出されたその手をとったちびくまと2人で、ニコニコしながら園庭をぐるぐる周っていたのだそうです。

次の日も、やっぱり「ちびくまと遊ぶ。」今度は「ちびくまを誘ってシーソーに乗ってごらん」と言うと、2人でニコニコとシーソーに乗っていたそうです。

お互いのどこが気に入ったのかわからないけれど、「なぜかあの2人には心が通じ合うみたいなの。私たちがどんなに頑張っても開けなかったEくんの心が、ちびくまには簡単に開けるのよね。ほんとうに不思議な子だわ。」

ふっふっふ(笑)。それはちびくまの魔法と呼ばせていただきましょう。本人の口から説明してもらえないのが残念だけど、この子達には私たちの見えないものが見え、聞こえない音が聞こえ、感じられないものが感じられるのだ、と私は信じているのですよ、S先生。


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