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町にクリスマスムードがあふれはじめた12月上旬のある日、6月に検査の申し込みをした、地元の大学病院の小児発達クリニックから突然の電話がありました。検査申込のための書類を郵送した後、検査日はいつ頃になるのか、費用はどの程度かかるのか、と何度も電話やメールで問い合わせたのですがなしのつぶてで、始まったばかりのちびくまの療育にすっかり気を取られていたこともあって、検査を申し込んだことすら、記憶の片隅に押しやられていました。
「こちらのクリニックにお子さんの検査の申し込みをなさったのを覚えておられますか?」コーディネータと名乗る彼女は言います。(覚えているか、とはまた悠長な)と思いながら、「はい、その後何度問い合わせてもお返事がないので、もう諦めかけていたのですが」と答えると、「突然で申し訳ないのですが、来週月・火の8時半からの検査に空きが出ました。もしいらっしゃれるのでしたら、予約をお取りしますが。ご都合が悪いようなら、残念ですがもう少しお待ちいただくことになりそうです」障害の発見は1ヶ月でも早い方が良い、というアメリカで、検査を待ち続けてもう半年です。これ以上一日だって待ってやるものか。私は即答しました。「来週の月・火、朝8時半からですね。わかりました。子供を連れて行きます」「よかった。本当に急なことですみません。案内の手紙も郵送していると間にあわないと思いますので、FAXさせていただきますね」 さっそく、夫の会社に電話をして、事情を説明しました。すると、「その日は日本から出張者が来るので休めない」と言うのです。我が家から大学病院に行くには高速を通るしかなく、運転が大の苦手の私には超難関。そこで、自宅近くから大学まで行くバスに乗ることにしました。 前日の日曜日に、ちびくまをパパに預けて、下見にでかけると、大学病院の真ん前にあるバス停まで一本で、片道20分ほどで行けることがわかりました。でも、もう何年も乗合バスに乗ったことのないちびくまをつれて、通勤通学時間帯のバスに無事乗れるかどうか、とても心配でした。ショッピングモールに連れて行っただけで、パニックを起こして駆け回ったり、泣き叫んだりするちびくまです。バスの中で暴れたり、大泣きしたりしたらどうしよう。
月曜日の朝、私はちびくまのおしめと着替え、お腹がすいてぐずった時のためのおにぎりとジュースを詰めた大きなマザーリュックを背負って、バスに乗りました。大学行きのバスだけに乗客は若い学生が殆ど、子連れおばさんの私は嫌でも目立ちます。おまけに試験の時期なのか、誰も彼も一生懸命ノートや教科書とにらめっこしています。こんなところでちびくまが騒ごうものなら、どんな冷たい視線を浴びるかわかりません。ヒヤヒヤしながら乗り込んだのですが、意外なことにちびくまは座席におとなしく座って、窓の外を眺めています。結局、高速を通って大学病院に着くまで、全く問題無く過ごせました。これはどうも、この1ヶ月ほど前から始めたバス下校のお蔭だったようです。多動で、他の時にはちっともじっとしていられないちびくまですが、大好きなスクールバスに乗れるのが嬉しくて嬉しくて、余程のことがない限りオリコウに座っているとは聞いていたのです。親の知らないちびくまの成長ぶりに、ちょっとホッとした一幕でした。
大学病院の受け付けで手続きを済ませて、ボランティアのおじいさん(こちらが歩くのに手を貸さないといけないのではないかと思うくらいよたよたのおじいさん)の案内で、別棟にある小児発達クリニック(CHDD)につきました。まず最初は発達診断専門の小児科のドクターの問診と診察(約1時間)がありました。ここでは以前問診表で提出してあったものと合わせて、家族の病歴や妊娠中の経過、分娩時の異常の有無、出生後の病歴、発達の様子などを詳細に聞かれました。私はこれを予想して、母子手帳を持参してそれを見ながら答えていたのですが、ドクターはそれに感心して「随分きちんと記録をつけておられるんですね」と言うので、「日本では妊娠すると皆この手帳をもらって、就学までこれに記録をつけるのが普通なんですよ」と言うと、「アメリカでも是非見習うべきですね。大変良い制度だと思います」と何度も繰り返していました。 つぎに、OT(作業療法士)とソーシャルワーカーに会います。ここではOTがちびくまと遊びながら観察をする傍らで、ソーシャルワーカーから、今困っていることなどについての聞き取りと簡単なアドバイスがあり、その後OTも交えて、ちびくまの生活やできることできないことについてのききとりがありました(約2時間)。ここで何度も念を押すように言われたのは、「いただいた資料と、お子さんを観察した結果、確かに障害はあるようですが、原因は、お母さんの育て方や生活環境によるものではないですよ。むしろ、あなたはとてもよくやっていらっしゃると思います。アメリカでは、犯罪的に子供を虐待でもしない限り、親の接し方だけで子供の言葉の発達に遅れが出るようなことはないと考えられているのですよ」ということでした。日本で、子供の言葉の発達が遅いと相談に行くと、必ずと言っていいほど、「お母さんの関わりかたがよくないのでは」「お母さんがもっと話しかけてあげて」と言われるのとは全く対照的だと思いました。 この日は帰宅時にOTから、家で記入してきて欲しい、と 質問票を渡されました。これは主に、感覚刺激にたいする子供の 反応についてのものでした。 2日目はまず、聴力検査をしました。これはスクールディストリクトでやったのと同じようなものでしたが、助手の方が一緒にブースに入り、ちびくまの反応を近くから確かめていました。この検査は終了後すぐに結果の説明があり、スクールディストリクトでの聴力検査の結果と合わせると、聴力自体に問題はないと考えられる、ということでした。次に、SLP(言語療法士)とのセッションです。この日検査に参加したのはメインのSLPと、その助手のインターンと思われる女性でした。まず、マジックミラーの あるプレイルームに子供と助手が入り、そこにあるおもちゃで一緒に遊びます。そして、マジックミラーの裏の観察室のほうに私とSLPが入って、ちびくまの行動についての質問をされたり、ちびくまが奇声をあげたり、言葉を口にしたときに、何を言っているのか、 どういう意味があるのか、などを説明するよう求められました。 全部で1時間ちょっとくらいでしょうか。 最後に、心理学者との面接がありました。今回疲れていたのか、ちびくまは全くテストに応じようとせず、私は正直あせってしまいましたが、「心配なさらなくていいですよ。スクールディストリクトでのテストはかなり正確に行われていますし、レポートには詳細な報告がありますので、これだけでも十分と言っていいほどです」と言われ、ホッとしました。それでこのセッションはもっぱら私が子供に ついての質問(主に子供とのコミュニケーションについてや、 ある状況におかれたときに子供がどうするか、といった質問) に答えるという面接方式になりましたが、その間も心理学者はちびくまの動きや、私との関わり方を観察していたようです。これも1時間ちょっとでした。 あと、染色体異常の可能性排除のため、血液検査を受けることになり、 採血を受けて終わりでした。ちびくまは血管がとても細いので、下手な人では何回も失敗するので心配でしたが、ちびくまを押さえる人、ちびくまの気を逸らす人、採血する人のチームワークがとても良く、簡単にすみました。 結果は1週間後にクリニックで担当者が集まって口頭で説明し、その後書面にしたレポートを郵送します、とのことでした。レポートまで込みで合計約1700ドル(我が家は保険がカバーしてくれたので25%程度の負担ですみましたが)、これを高いとみるか、安いとみるかは意見の分かれるところでしょう。 |