闇が空を支配していた。AM:11:50。昼間だというのに空は闇に包まれていた。
大地は、光というものを忘れてしまったのか、道には雑草の一本も生えていなかった。
ただ、闇が支配している。かつて、笑いや活気が絶えなかった、ここドゥーハンは今や、
静けさだけが残っていた。入国手続きを済ませ、町を歩いていると、
前方から一人の男がこちらに近寄ってきた。髪はボサボサ、服は所々やぶけ、
血走った目は焦点が合っておらず、顔は緊張でこわばっている。
目の前まで男が近づいてくると、男は興奮した様子で話しかけてきた。
「なあ、あんたは知ってるんだろ?へへへ・・・隠したって無駄無駄。
俺は知ってるんだぜ。神様がいることをよぉ。なぁ、教えてくれよぉ!!」
「はい!?」
突然、話しかけられ言葉がみつからない。
「そういえば、あれは愉快だったなぁ。勝てやしない者におびえる仲間たち。
必死に抵抗して、泣き寝入りまでしたんだぜ。馬鹿だぜあいつら。
でも、そんなことをしても無駄無駄。あいつら、それを知らないから、
頭からガブッと食べられちまいやがった。ムシャムシャって感じでよぉ。」
男はおどけたかっこうをしながら、何度もかぶりつく真似をして見せた。
「第一、人間があいつに勝つことが無理なんだよ。それなのに仲間のやつら
゛あきらめるな!”だってよ。あいつらイカレてるぜ!!ハハハハハ!!」
男は興奮のあまり目に涙を浮かべ、よだれを滴り落としているのも気づかない。
「シムゾンさん!!そんなところでなにをされてるんですか!?」
背後から女の人の声が聞こえた。振り返るとそこにはシスターが駆け足でこちらに近づいてきた。
「シムゾンさん、早く寺院に戻ってください。みんなが心配していますよ。」
シムゾンと呼ばれた男はシスターの言葉を聞くとすんなり、寺院の方へ帰っていった。
さっきまでの興奮はどこにいったのだろう・・・
「本当はあんな人じゃなかったんです・・・」
シスターはシムゾンの背中を見ながら話しかけてきた。
「え?それはどういうことですか?」
冷たい風がふく・・・
「シムゾンさん、手馴れた傭兵だったんです。そんな彼がつい最近迷宮に潜ったんですよ、
仲間を連れて。何日か経って、彼が帰ってきたんです。
それが、悲惨でした。帰ってきたのはシムゾンさんだけ。
他の仲間たちは全滅。唯一生き残ったシムゾンさんも今はあの状態・・・
一体、何が彼をここまで変えてしまったんでしょう・・・」
シスターの目に涙が溜まっているように見えた。
「すいません、話が長くなってしまって。私、サレム寺院のシスターをしている、
エーリカ・フローレスというものです。」
エーリカは、こちらにむかってお辞儀をした。
「俺は、戦士をしている、リカルド・スレッグっていうもんです。
今さっき、ここに来ました。」
リカルドも、エーリカに習ってお辞儀をする。
「そうですか。それで、リカルドさんも迷宮に潜るために来たのですか?」
「はい、友達を探すためにきました。」
エーリカの表情が曇る。
「やはり、迷宮に潜りに来たのですか・・・。
こちらの話ですが、迷宮から傷ついた兵士たちが次々と寺院に運ばれてくるんです。
死にそうな体験をしてきてるのに、兵士たちや冒険者たちは迷宮にまた潜っていきます。
そういう人達は命が怖くないのでしょうか・・・。それに、何故あそこまで迷宮にこだわるんでしょう。」
話し終えると、彼女は何か思い出したのか。突然あわてだした。
「いけない!早く、寺院に戻らないと。すいません、リカルドさん。私はこれで。」
エーリカは、慌てた様子でリカルドの前を去っていった。
「命が怖くない・・・か。」