「幼児の就寝時刻の実態と影響する要因について」

                             姶良伊佐鹿児島郡地域保健活動連絡協議会

はじめに

保健婦が行う育児支援事業で、保育士・幼稚園教諭と連携をとる中で、保育現場から子どもの朝食抜き・遅寝遅起き等の生活リズムの乱れを指摘する声が聞かれるようになった。また健診会場でも「朝起きない」「夜寝ない」という母親からの相談を受けることが多い。
平成7年乳幼児栄養調査によると全国的にも遅寝遅起きの子どもが多くなっているという報告がある。
そこで当地区における幼児の就寝時刻の実態を調査し、また就寝時刻に影響を及ぼしている要因及び就寝時刻が影響を及ぼしていると考えられる要因について検討したので報告する。
調査対象・方法

平成12年10〜11月に当地区で行われた3歳児健診の対象者474名を対象に表1の仮説を基に記述式調査票を作成し、事前に配布・当日回収(回収時に記入内容を確認)する方法で調査を実施した。
「いつも22時までに就寝する」群(以下、A群)「いつも22時以降に就寝する」群(以下、B群)の2群に分けて13個の要因(表1参照)について、現代数学社:HALWINでカイ二乗検定等を行った。

表1. 

就寝時刻に影響を及ぼしていると考えられる要因 就寝時刻が影響していると考えられる要因
@ 子どもの通園の有無
A 母の就労の有無
B 遅寝遅起きに対する問題意識の有無
C 現状の正しい認識の有無
D 子どもの夕食時刻
E子どもの昼寝の有無
F 父の就寝時刻
G 母の就寝時刻
H子どもの朝食時間
I子どもの目覚め
J子どもの起床時刻
K子どもの排泄習慣
L子どもの昼寝の有無 


結果

 1.対象者474名中378名から調査の協力が得られた(回収率79.7%)。
 2.集計の結果、A群188名(49.7%)、B群は136名(36.0%)であり、
   それ以外は「特に決まっていない」54名(14.3%)であった。
 3.就寝時刻に影響に影響を及ぼしていると考えられる要因(@〜G)について
   (表2、表3、 表4、表5参照)
   ・ 通園していない子どもにはA群が多い。
   ・ 母が就労していない子どもにはA群が多い。
   ・ 子どもの遅寝遅起きを問題だと思う親の群にA群が多い。
   ・ 自分の子どもの現状(早寝遅寝)の認識により、A群、B群の出現頻度に差 はみられない。
   ・ 昼寝をしない子どもにはA群が多い。
   ・ 子どもの夕食時刻はA群、B群とも19時が最も多く、19時までに夕食を摂取する割合はA群で79.3
    %、B群で60.7%であった。
   ・ 父母の就寝時刻はA群、B群とも23時が最も多く、ついで22時、24時と、同様の傾向がみられた
 4.就寝時刻が影響していると考えられる要因(表6参照)
   ・ A群の方がB群より子どもの朝食時間がきまっているものが多い。
   ・ A群の方がB群より子どもが朝、自分で起きるものが多い。
   ・ A群の方がB群より午前8時以前に起床するものが多い。
   ・ A群、B群とも子どもの毎日の排泄の有無の状況に差は見られない。
   ・ B群の方がA群より昼寝をする子どもが多い。

表2.就寝時刻に影響を及ぼしていると考えられる要因

A群 B群 有意確率
@子どもの通園の有無 なし 63.6% 36.4% オッズ比 1.634
(110名/173名) (63名/173名) 95%信頼区間
あり 51.7% 48.3% (1.022〜2.614)
(78名/151名) (73名/151名) p<0.05
A母の就労の有無 なし 63.8% 36.2% オッズ比 1.736
(118名/185名) (67名/185名) 95%信頼区間
あり 50.3% 49.7% (1.082〜2.786)
(70名/139名) (69名/139名) p<0.05
B遅寝遅起きに対する問題 あり 61.5% 38.5% オッズ比 3.195
意識の有無 (139名/226名) (87名/226名) 95%信頼区間
なし 33.3% 66.7% (1.064〜9.970)
(6名/18名) (12名/18名) p<0.05
C現状の正しい認識の有無 あり 56.6% 43.4% オッズ比 0.768
(145名/256名) (111名/256名) 95%信頼区間
なし 63.0% 37.0% (0.401〜1.485)
(34名/54名) (20名/54名) n.s
D子どもの昼寝 なし 78.3% 21.7% オッズ比 3.487
(65名/83名) (18名/83名) 95%信頼区間
あり 50.9% 49.1% (1.879〜6.525)
(116名/228名) (112名/228名) p<0.01
表3.E子どもの夕食時刻
時刻 A群 B群
17 1 1
17.5 2 0
18 24 8
18.5 26 12
19 93 58
19.5 28 25
20 10 23
20.5 0 2
21 0 1
表4.F父の就寝時刻
時刻 A群 B群
20 1 0
20.5 0 2
21 12 2
21.5 5 2
22 22 17
22.5 3 5
23 44 28
23.5 4 4
24 18 15
24.5 0 2
25 2 2
25.5 0 1
30 1 0
表5.G母の就寝時刻
時刻 A群 B群
20 0 0
20.5 0 0
21 10 0
21.5 7 0
22 27 18
22.5 4 2
23 48 42
23.5 6 11
24 21 18
24.5 0 0
25 1 0
25.5 2 1
26.5 0 1

表6.就寝時刻が影響していると考えられる要因

G子どもの朝食時刻 決まっている 決まっていない 有意確率
A群 95.7% 4.3% オッズ比 2.937
(177名/185名) (8名/185名) 95%信頼区間
B群 88.3% 11.7% (1.125〜7.849)
(113名/128名) (15名/128名) p<0.05
H子どもの目覚め 自分で起きる 起きない 有意確率
A群 83.0% 17.0% オッズ比 4.198
(156名/188名) (32名/188名) 95%信頼区間
B群 53.7% 46.3% (2446〜7.227)
(72名/134名) (62名/134名) p<0.01
I子どもの起床時刻 午前8時以前 午前8時以降 有意確率
A群 85.1% 14.9% オッズ比 3.580
(160名/188名) (28名/188名) 95%信頼区間
B群 61.5% 38.5% (2.040〜6.306)
(83名/135名) (52名/135名) p<0.01
J子どもの排泄習慣 毎日出る 出ない 有意確率
A群 84.4% 15.6% オッズ比 1.112
(157名/186名) (29名/186名) 95%信頼区間
B群 83.0% 17.0% (0.588〜2.106)
(112名/135名) (23名/135名) n.s
K子どもの昼寝の有無 する しない 有意確率
B群 83.0% 13.8% オッズ比 3.487
(112名/130名) (18名/130名) 95%信頼区間
A群 64.1% 35.9% (1.879〜6.525)
(116名/181名) (65名/181名) p<0.01
考 察
体温、血圧などの自律神経系やホルモン分泌といった人間の生体リズムは夜に眠って、昼間には活動するようにプログラムされている。特に成長ホルモンは思春期になると昼間でも分泌するが、幼児期は寝ているときだけ分泌するといわれる。現代人の生活は夜型になってきているといわれているが、この自然に逆らった生活リズムが大人も子どももからだやこころにアンバランスをひきおこすといわれている。
 今回の調査結果、就寝時刻を遅くしている要因として「子どもの通園」「母の就労」があげられたが入浴・夕食・家族の団欒といった一連の生活リズムが、通園も母の就労もない子どもたちよりは時間的な余裕がなく、結果的に就寝時刻の遅延につながるのではないかと思われる。
「子どもの遅寝遅起き」に対する親の問題意識が高いほど実生活でも子どもの就寝時刻が早いことから、親の意識が子どもの就寝に与える影響が強いことがわかる。
「子どもの昼寝」が就寝時刻を遅くするという結果ではあるが、乳幼児期の昼寝は午前中の疲れを取るためにも必要である。しかし最近は、昼寝の時間が長い子どもや、午後3時以降も寝ている子どももおり、昼寝そのものというより、時間や時刻が就寝時刻を遅くしているのではないかと考えられる。
今回の調査で22時以前に寝る子どもの平均睡眠時間が10時間、22時以降に寝る子どもの平均睡眠時間が9.4時間という結果から、今後は子どもの慢性的な寝不足の影響も考える必要がある。 
 就寝時刻が子どもの生活リズムに及ぼす影響として、早寝の場合、「午前8時までに起きる」「子どもが自分で起きる」「朝食を決まった時間に食べる」など朝方のリズムを形成する傾向にあることがわかった。
 以上のことより、

 遅 寝⇒睡眠時間の短縮 ⇒寝不足・自分で起きない⇒朝食を食べない⇒昼間の活動低下⇒昼寝の延長⇒夜なかなか寝つけない⇒ 遅寝
 
といった悪循環を、

 早 寝⇒十分な睡眠の確保⇒さわやかな目覚め⇒朝食をきちんと食べる⇒昼間の活発な活動 ⇒適切な昼寝⇒寝つきがよい⇒早寝

といった望ましい循環に変えてゆく必要があると思われる。    
 最近は、核家族化や母親の社会での孤立、父子関係の希薄化によって、育児への不安や心理的負担が増加し、そのストレスが子育てに影響していると言われている。日頃から育児中の母親が声をかけてもらったり、子育てについて悩みを気軽に話せたりできる地域づくり・人づくりが求められている。
 そこで、保護者に対して、子どもの睡眠の必要性をより具体的に啓発するために別紙のようにパンフレットを作成した。今後の乳幼児健診などでの教育の場、広報誌等への掲載等、育児支援活動に役立てていきたい。 
 また、子どもを取り巻く様々な世代への啓発として、高齢者グループ・女性団体のグループ・学校保健関係者・保育関係者等へ働きかけ、子どもの生活リズム形成の必要性を訴えていきたい。

おわりに
最後にこの研究にあたりまして、アンケートにご協力いただいた市町村、ご助言いただいた先生に深く感謝いたします。

参考文献
子どもの生体リズム体内リズム:食べもの文化編集部編,芽ばえ社
解説版それでいいよだいじょうぶ:厚生省,財団法人母子衛生研究会
かごしま子ども白書そだつ・まなぶ・つながる:かごしま子ども白書編集委員会,南方新社
統計科学入門:池田貞雄著,内田老鶴圃,1995年発行

参考資料
睡眠についてのパンフレット
(http://www.tmd.ac.jp/med/ped/nemuri.pdf):東京医科歯科大学医学部小児科学教室,神山 潤