自由に夢が見られる装置が開発されてから、カラオケBOXのようなDreamBOXが乱立した。
最初こそ精神への影響への危惧から、年齢制限を課そうとする動きがあったが、
今は形ばかりの規制で老若男女がこの装置を使い夢を見る。
みな自分の願望を投影した夢を見て満足してつまらない日常に戻って行く。
そう、日常はつまらなくてあたりまえ。願望があるなら努力するより夢を見れば良い。
相手を喜ばす為に必要なものはプレゼントや素敵なデートではなく、
より素敵な夢を見るためのアイディアだ。
「わ…こんなプレゼント夢みたい!」
彼女は目を輝かせながら届いた贈り物を見て叫んだ。
自由に夢が見られる装置を彼女にプレゼントした。
大抵の人はDreamBOXに通い夢を見る。
いくら一般に認知されようと、装置自体は安いものではない。
だから装置を手に入れ、自宅に設置できることはこの世界での唯一のステータスだ。
僕にだって簡単に買えるものではなかったが、
最近彼女とあまりうまくいっている状態とは言えずこの誕生日に修復したかった。
「私ずっと見たい夢があったんだ」
彼女には教えなかったがその装置は見ている夢を他人が見ることもできるようだ。
後で教えるつもりではあったが、一度彼女の夢を覗いてみたかった。
じっくり堪能した後、教えてやればいい。
食事をしながらゆっくり夢の話で盛り上がろう。
「これってすぐ使えるの?」
「もちろん。僕が基本設定はしておいたから、後は夢の内容を入力すればいいんだ。簡単だろ?」
そして数分かけて入力を終え眠る彼女。
こっそりとTVと装置をケーブルで繋ぐ。
まだ完全に寝入っていないようで画面は暗い。
彼女はどんな夢を見るんだろうか。
登場人物で僕は出てくるだろうか。デートの夢とか?
この夢を見ることで、彼女の望んでいることが少なからずわかる。
画面が明るくなる。夢が始まった。
ぼんやりと人が…男か?
だんだんとピントが合って鮮明になっていく。それは僕だった。
そして物語は進んで行く。
見覚えのある風景ばかり。いつも行く喫茶店、公園に…僕の部屋。
いつものデートをトレースしている。
登場人物である僕も、美化されていないそのままの僕。
小さな癖も、しゃべり方も、彼女の気遣いに気付かずバツの悪そうな顔をするところまで等身大だ。
気がつくと僕は涙を流していた。
彼女はこんなにも僕との生活を大事にしてくれている。
いったい僕は何をやっていたんだろう?
こんな装置を買い与えるよりも、もっと僕にできることはあるはずだ。
そう、彼女が目覚めたらデートをしよう。
彼女にもっと僕のことを知ってもらうために。そして僕が彼女を理解する為に。
モニターではベッドの上で僕がまどろんでいる。
彼女が僕の髪を撫でる。
しばらくそうしていると思い立ったようにベッドから降りてキッチンへ向かう彼女。
「喉が乾いたでしょう」
そう言って冷蔵庫から持ってきた飲み物を渡してくれる。
いつもと同じ。
「ん?」
同じじゃない。モニターでは何か別のものを持っている。
よく見ると林檎と果物ナイフ。
「いつもと同じ…でも今日はちょっと違うのよ」
そんな些細な違い。でもきっと現実の僕でも喜ぶだろう。
現にモニターの僕も嬉しそうな顔をしている。
「喜んでくれて嬉しいわ。そうじゃなきゃやりがいがないもの」
そう言って彼女は果物ナイフを取ると僕に刺した。
きっと傍から見ていたら笑えるくらいモニターの僕と現実の僕は同じ顔をしていただろう。
唖然とする僕。
彼女の笑顔は変わらない。
「びっくりした? でもね、これで終わりなんて思わないで」
そう言うと彼女は…笑いながら僕をめった刺しにしていた。
どんなに僕がおびえようと、許して欲しいと懇願しようと、その手を止めない。
モニターの中で何度も何度も僕が殺されていく。
僕はモニターと装置のケーブルを外した。
数時間後、彼女は夢から覚めて僕を見た。
「ありがとう。とてもいい夢が見れたわ」
そう言って彼女は僕にキスをして、今まで見たことないような笑顔を見せた。
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