一かけ二かけ三かけて
四かけて五かけて橋かけて
橋の欄干 腰かけて
想いをかけて 命がけ
私たちは洗脳されてる。
それはたとえば、小さい頃から学校で、「ケンカはいけない」「話し合いで解決しましょう」とか言われ続けて、「じゃあどうしてまだ世の中には戦争があるの」って素朴な疑問に誰も答えてくれないこと。
それはたとえば、小さい頃からテレビドラマやポップスで、「恋ってステキ」「ドラマみたいな」「愛してる」とか聞かされ続けてて、何のドラマもない平凡な日常でも、「いつか、私だって」と夢見ちゃうこと。
―――諦めなきゃ。そろそろ諦めなきゃ。と思うのに、中学、高校と入学の時にはいつも、今度こそ、と期待する。まだ見ない向こうの世界には、きっと「ある」んだ、とか。
「不安と(ブレス)期待で(ブレス)胸をいっぱいにして」って、小学校の卒業式の答辞、みんなと叫んだように。
―――諦めなきゃ。そろそろ悟らなきゃ。期待はいつも裏切られる。結局、自分から何かしなきゃ、踏み出さなきゃ、どっかで妥協しなきゃ、夢が向こうから近づいてくることはない。
白馬の王子様は、私以上に出不精だ。
『1+1は2になるから…』
と、コマの中、ぺらっと二次元のヒロインはうっとりとモノローグ。
『だからね、一緒にいようよ。一人よりは二人の方が、満たされる』
「――――――――うそつけ」
教室で、ぶっとい漫画雑誌片手に、行儀悪い姿勢でお菓子を食べていた。美由が、私の読んでるページを覗き込んで笑った。
「まぁったまた。なぁんで嘘って言えるの。この、カレシいない歴17年が」
「1+1は2だから、だぁ!?ああ虫唾が走るっ!!ざけんなばーろー!そんな証明があるかっ、理系女を舐めんじゃない!!」
口が悪いのは自分でも分かってるから、突っ込まないで欲しい。これでも内面は、キラキラ清純オトメなのだ。
「1+1は二進法じゃ10だろ!?ブール代数じゃ1だ!標数二の体じゃ0なんだよっ!なぁんで世の中全部十進法だよっ!初デート前のどきどきしてるときは思考回路六十進法なくせにっ!!」
ばんばんと雑誌を机に叩きつけると、(本は大事に扱いましょう)スナック菓子の屑が散らばった。
「ちょっと、汚いよ、あんた。それだから…」
「それだからオトコが出来ないとかいう台詞は聞き飽きたっ!」
夕暮れには少し間がある時間帯。廊下を一人先生が通り過ぎていったけれど、ちらっとこちらを見ただけで何も言わない。生物科男性教諭52歳。彼に限らず、この学校の大人は放任主義が多い。
「くそぉ…どっかに落ちてないか私好みのイイオトコはっ」
「そういうのはすでに拾われ済みでしょ。だいたい、何?四六時中オトコオトコって…飢えてんの?発情期?」
笑い上戸の美由はけらけら笑う。…自分は、この春ゲットした部活の後輩とラブラブだからって…何さ。
私は、私はぁ…別にクラブも何もやってないし、普段は派手目だけど、別に外で遊んでるわけでもなし、クラスの男子とかには付き合いいい奴って思われてるみたいだけど、それだけ。ホント、それだけ。
趣味もない。打ち込む何かも目標もない。
なぁぁぁぁぁんにも、ない。
誰かの一番になりたいとか、それくらい望むのはゴーマンかい?
別に……―――したいわけじゃない。だから言ってるけど、私だってキラキラ乙女。
ドラマなんか望まないよ。そんな高望み。
ただね、「――――――」。
こんな言葉、それこそ少女漫画。口には出せない。億面なく言える奴って、きっと頭のどっか、ぶっ飛んでんだよ。
「檜山はどーよ?3組の。好みなんでしょ?」
美由がフォローのつもりか一つの名前を挙げた。
「顔は好きだーっ!…でもそんだけだーっ!…だって性格知らんもん」
「とりあえずコクって付き合っちゃえ」
「……好きでもないのに好きだなんて言えーん!そんなの出鱈目だ、インチキだっ!がーっ!!」
「吠えなさんなって。唸りなさんな。噛み付くな。こら」
「――――………さびしーよぉ…」
へなへなに――なっちゃう。
駄目だ、今の私は駄目駄目。
好かれたいだけなのか?そうなのか?じゃあ誰でもいいのか?それはちょっとどうよ。いや別に構わんけど。
後輩クンが美由を教室まで迎えに来た。
美由、さすがに気まずそうに、でも嬉しそうに、行っちゃった。
私は一人になってちょっと泣く。
―――「ケンカはいけない」。
これは刷り込まれた概念。だから反発する人間も必ず出る。出てしまう。
だけど、正しい。きっと正しいから教えないわけにはいかない。
教え込むと、必ず一人や二人、反発する。
必要悪を認めてしまっては絶対にいけないけど――
全体としては、仕方ない。
「恋はステキ」。これもきっと同じこと。
愛されることはスバラシイ。――ほんと?ね、ほんと?
じゃ、愛されないのは、不幸?
違うよね、違う。
私は今ちっとも不幸じゃない。
―――でもね、淋しい。
1+1=2
そんなの一概には言い切れないのに、
でもやっぱり、一つのしんり。
「……がーーっ!!」
私は一声、誰もいない教室で吠えて。
それから、出てった。
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