僕は物心ついたころから鼻がつまっている。鼻にさす薬がなければ、鼻で息ができないのである。もし、人間が鼻でしか息ができない動物だったら真っ先に死んでいたことだろう。簡単な手術で治るとのことなので思い切って手術をした。鼻中隔矯正術、両下甲介切除術、簡単に言えば、鼻の穴を圧迫している鼻の軟骨を削り、鼻の穴の腫れている肉を削り取って鼻の穴を大きくするのである。
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8/10
入院した。「救急ハート治療室」の安西ひろこや「ザ・ドクター」の葉月里緒菜のような看護婦さんなんているはずがない、でもいて欲しい、1人はいるだろう、いるはずだ、いやきっといる、必ずいる、いてもらわないと困る。期待なんてしていなかったが、いやちょっとしていたけど、うそ、かなり期待していたが、期待しまくりだったが、僕の担当看護婦さんは宮前真樹だった。CoCoで一番イけてなかった宮前真樹。現実なんてこんなもんさ。でも僕は看護してもらう身である。ぜいたくなんて言ってられない、いや言ってはいけない、そんな目で見てはいけない。でも、僕も男だし、まだ若いし。
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担当医は太ももの細いスピードスケートの清水。でも「ザ・ドクター」の長島一茂みたいなのじゃなくてよかった。それにしても一茂、演技下手すぎ。とびぬけて浮いている。見ていられん。恥ずかしい。それにしても熱闘甲子園はなんで長島三奈を使うのかねって僕のおかんも言っていた。
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8/11
手術前。「がんばってね」って声をかけられるけど、手術中の「がんばる」のうちの80%が医者だよね。看護婦が15%。僕のがんばりなんて5%だね、痛みに耐えるだけだから。でも、もし医者に魔が差してがんばりが60%になってしまったら、痛みが増えて僕のがんばりの割合が25%に増えてしまう。「お前もがんばれよ、いや、お前ががんばれよ」って医者に言ってやった。(心の中で)
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手術中。めちゃめちゃ痛かった。鼻血がのどに落ちてきて苦しいし。頼んでもないのに部分麻酔。全身麻酔にしてくれ。眠ってるうちに手術してくれ。会話から骨を削る音まで聞こえてくる。目隠しはされてるけど。それにしても手術道具の準備が悪すぎる。「なんちゃらメス」と医者が言う。「え、どれですか」と迷っている看護婦。「それだよ、それ」と医者。「えー、これそんな名前なんですか」と看護婦。「見たとおりじゃないか、ぼくが名付けた」と医者。「そりゃ看護婦に伝わらんわ」と僕。、「なんちゃら鉗子」と医者が言う。「もう全部使っちゃいました」と取りに行く看護婦。「こんど手術道具の整理をしといてよ」と医者。「手術する前に整理しといてよ」と僕。終始笑い声が聞こえてくる。簡単な手術かもしれないけどさ、道具がないって言われたらさ、患者は動揺するさ、めちゃめちゃ不安になるさ。「いいよ、いいよ、これで」ってよくないと思います。あと、僕のおなかの上に手術道具を置くのはやめてほしいです。
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手術後。じんじんする。別に痛くないけど鼻につまってるガーゼのせいで目が刺激されて、涙が止まらない。そこへ宮前真樹、「あらぁ、涙が出るぐらい痛いの」。なんか宮前真樹に弱みを握られた気分だ。気分悪い。
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8/12
鼻の肉を削り取ったわけだから血が出る。縫うわけにもいかないから鼻の穴にガーゼを詰めて止血をする。このガーゼが半端じゃない。鼻の穴から、鼻と口の分かれ目まで鼻腔全体にガーゼがぱんぱんにつまっている。当然、顔なんて洗えない。でもそんな時に朝ご飯は納豆。でも食べた、やめときゃいいのに。口の周りがねばねばする。糸を引いている。顔が洗いたい。でも洗えない。病院の納豆は粉々に砕かれている。たれと混ざりにくい。あんまり糸を引かない。つぶすのはやめて欲しい。
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8/13
点滴が終わったからナースコールを押した。「どうしました」自分の耳を疑った。スピーカーから聞こえてきたのは男の声。そう、この病棟に1人だけ看護士がいる。天然パーマでキャベツ頭、しかも小太り、かなり頼りなさげ。どの看護婦さんがきてくれるんだろう、と、どきどきしながらナースコールを押したのに。いつも楽しみにしてるのに。でも通りがかりの看護婦さんに点滴を抜いてもらった。その看護婦さんは宮前真樹だったけど、男よりはずっとましである。その直後、看護士が現れた。危ない、危ない。
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「明日、1日休んで日曜の朝来ますね」と宮前真樹。ふとんの中で小さくガッツポーズ。決して、宮前真樹が嫌いなわけではない。ちょっと苦手なのだ。小学二年生の時の担任のこわい女の先生とかぶっている。小学二年の時に毎朝お腹が痛くなっていたと、おかんが言っていた
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4人部屋。早く寝た者がち。隣のおやじのいびきがうるさくて眠れん。鼻で息ができないから寝付きも悪い。おやじのいびきが急に止まる。生きてるか心配。このおやじよくしゃべる。どっかの社長らしい。
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8/14
入院した日、宮前真樹に「好き嫌いはありますか」と聞かれた。何かかっこわるいから「特にないです」と答えた。今日の昼食で初めて病院食を残した。酢の物は嫌いなんじゃい。少量の酢の物ならがまんして食べるさ。でも、今日のはるさめのサラダは酢が効きすぎなんじゃ。でも、看護婦さんには「はい、全部食べました」と言っといた。病院食にレーズンなんか出ないよな。トマトジュースが出たら正直に残しましたと言おう。
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テレビ視聴時間40時間突破。テレビカードがあって1000円で40時間テレビが見れる。暇だからぼーっとテレビを見てる。4人部屋だから、イヤホンでテレビを見ている。40時間もイヤホンをつけてるからタコができた。耳にタコができた。同部屋の人は何を見ているかわからないけど、たいがい同じ番組を見ていることが多い。同じタイミングで4人の笑いが起こる。静まりかえった部屋の中で4人同時に笑う。看護婦さん、びっくりだよね。
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点滴の針を刺す瞬間が狙い目である。看護婦さんは僕のベッドの横にすわり、腕に集中している。そして寝てればいいのに、さりげなく体を起こす。そして針を指すのを見る振りして、上からのぞき込む。でも、見えそうで、見えん。ぴしっとしてて隙間がない。看護婦さんの胸元はガードが堅い。きっとさんざんエロおやじに狙われてきたのであろう。
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8/15
今日、鼻に止血のために詰めていたガーゼを抜いた。抜くときがめちゃめちゃ痛い。手術よりも痛い。鼻からガーゼがどんどん出てくる。涙もぼろぼろ出てくる。鼻の奥でガーゼが傷口とくっつている。すんなり出てきてくれない。そのたびに傷口も引っ張られる。「麻酔を打たなかったらもっと痛いんだよ」と涼しい顔した医者が力ずくでどんどんガーゼを引きずり出す。でもその麻酔は腕に打った腕なんかでホントに効くんかい。局部麻酔なら鼻に打ってくれなきゃ信用できないっちゅねん。血と鼻水にまみれたエイリアンが片方の鼻から9匹も這い出てきた。両方合わせて18匹。これはかなりすごい量ですよ。もう吐き気はするし、視界は狭くなるし。ガーゼを抜き終わった後はしばらく痛くて動けない。目も開けられない。治療台から立ち上がり車椅子に移った。何か足下がふらふらしている、眠くなってきた。感覚も鈍くなってきた。ようやく麻酔が効いてきたのか?
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ガーゼは抜いたがまだ鼻血が出てこないように綿球がつめてある。6日間風呂に入ってない。でも気にならない。なぜなら、まだ臭いは全くわからないのだ。毛穴すっきりパックをやったら、毛穴にたまったあぶらがかなりとれそう。
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対角のベッドの青年に医者が説明している。「傷口に黄色ブドウ球菌が入っちゃったから・・・」げ、院内感染だ。メチシリン耐性とは言っていなかったが、どうだか。ホントはMRSAなんじゃないの。でも院内感染なんて、全然珍しくないらしい。後輩の医者の卵が言っていた。
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8/16
入院してからやったら規則的にうんこが出る。しかも朝食直後。いや毎食後。ご飯食べたら、急にうんこがしたくなる。押し出されるかのように。こんなに食べたっけと思うぐらい出てくる。が、ちょっと下り気味。でも全然お腹が痛くない。下っている兆候はない。これは毎食後飲んでいる4種類の抗生物質の副作用なのだろうか。お腹の中にいる善玉菌も死んでしまったのだろうか。なおかつ、ガスもたまる。でも臭いはわからないから自分のガスが気にならない。気軽に放出してしまう。ここは4人部屋。
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「この看護婦さん、顔おっきいな」と思いながら、僕の腕に点滴の針を刺す看護婦さんの横顔をまじまじと見ていたら、気づかれた。「なんでもないです」とごまかした。気があると思われたかな。この看護婦さん、無愛想。
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検温に宮前真樹が来た。37.4℃。「熱があるじゃないの」と宮前に怒られた。毎食後、ちゃんと薬飲んでるのに怒られた。外出もしてないのに怒られた。言いつけも守ってるのに怒られた。宮前真樹、こええ。おとなしく、ふとんに入って寝た。
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入院してから6日目、でも1回も救急車のサイレンを聞いてない。総合病院なのに救急車が来ないわけがない。救急センターと病棟が離れていて聞こえないだけだろうか。そこで宮前真樹に聞いてみた。なんか困った顔して病院の医療体制とか救急の仕組みとか説明してくれたけど覚えてない。でも救急車はたまに来るらしい。このエピソード、落ちはないから。
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病院食、香辛料が効いてない。コショウが欲しい。ドレッシングが欲しい。台湾ラーメンが食べたい。
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8/17
今日から点滴がなくなった。で、ナースコールを押す回数が極端に減ってしまった。今まで点滴は2種類。看護婦さんが来る。点滴の針を刺す。1つ目の点滴が終わる。ナースコールを押す。看護婦さんが来る。2つ目の点滴のセッティング。2つ目の点滴が終わる。ナースコールを押す。看護婦さんが来る。点滴の針を抜く。「強く押さえておいて下さいね」と言って去っていく。これが朝晩2回。1日、6回も看護婦さんと触れ合う機会がなくなってしまった。もっとかまってほしい。最近、血圧も測ってくれない。
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隣のよくしゃべるおじさんは足が悪い。だからおじさんのお膳を片づけてあげる。だってこのおじさん、みかんをくれるから。今日はお見舞いでもらったお菓子をくれた。だから今日もお膳をかたづけてあげる。おじさん、桃がたべたいな。
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消灯は9時30分。眠れるわけがない。10時からが面白い番組があるのに。入院当初は一応テレビは消していた。でも最近、テレビを見ていても何も言われないことがわかった。最近は11時ぐらいまでテレビを見ている。どうせもうすぐ退院だし、怒られても気にしないし。でも夜中も宮前真樹がいるときは、びびってテレビを消してしまう。こええ、宮前。
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8/18
宮前真樹の白衣のポケットには黒いシミがある。けっこう、にじんでいる。ふたをするのを忘れたマジックをそのままポケットに入れたのであろう。ちょっとどじなところがかわいい。
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確か手術の時に鼻の中を縫ったような気がする。手術して一週間、抜糸について看護婦さんは一言も触れない。だから僕も触れない。解けてなくなる糸を使ったのかと思っていた。いやそう思いこもうとしていた。いや、そうに違いないと決めつけていた。もう鼻の中をいじくり回されたくない。でもやっぱりその日は来た。検診の時に「じゃ抜糸をします」と言われた。ガーゼを抜いたときの激痛がよみがえる。自然に肩に力が入る。鼻の穴を広げられと条件反射で涙が出てくる。鈴の音を聞くとよだれを垂らす犬のように。「抜糸はすぐ終わるから」と言われたけど、なんか手こずっている。どうやら糸がかさぶたに埋もれているらしい。かさぶたを強引にはがされた。糸はすっと抜けた。これで退院できる。
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隣のおじさんテレビを見ながらよくでかい声で笑う。その度におじさんの見ている番組が気になってしまい、ついついチャンネルを変えてしまう。でもたいがいおじさんの笑いと、若者の笑いは合わない。とはいうものの気になって変えてしまう。このおじさんはドラファン。僕はおじさんのテレビで中日巨人戦を音無しで見ながら自分のテレビでお笑い番組を見ている。
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8/19
今日、ようやく退院。最後の検診で頼んでないのにかさぶたをはがされた。無理しなくてもいいのに。でかいかさぶたがでてきた。同時に血もたれてきた。今日退院なのに。
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病室を後にするとき最後に宮前真樹にしっかりお礼を言った。鼻で息ができるようになったのも宮前真樹のおかげである、15%ぐらい。そして別れ際に、「ほんとは宮前真樹やろ」と言って逃げてきた。言ってしまった。
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退院と言うのに家族の者は誰も迎えに来てくれない。しょうがないから1人でタクシーで帰った。タクシーについて前から疑問に思っていたことがあった。なぜ、8月8日はタクシーの日なのであろう。思い切って運転手さんに聞いてみた。「さあね、なんでかね」だと。冷たい対応にがっかりした。8月7日は鼻の日。3月3日は耳の日。これはわかりやすい。
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病院生活の総括
毎朝、6時に看護婦さんに起こされる。起きて早々「昨日、トイレには何回行きましたか?お通じはありましたか?体温はかって下さい」トイレの回数なんて覚えてない。いつも適当に8回と数える振りして答えていた。食事が終わったらやってきて、「ごはんは全部食べましたか?体温はかって下さい」トイレの回数も毎日チェック、うんこが出たかも毎日チェック、食事の量も毎食後チェック、体温も1日三回もチェック。病院で10日間暮らしたが全然、悶々とこない。看護婦さんを見ても悶々と来ない、10日間も溜まってるのに。僕の体のことを全て感情ではなく、データで管理しているような女性にHな感情は沸かないね。細かく干渉してくるひとは好かんのだ。別に看護婦さんがみんなかわいくない、と言ってるわけではない、きれいな人もけっこういる。好みの看護婦さんも1人いた。でもやっぱ、看護婦さんはHな対象としては見れないねっていうのが入院生活の感想。
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