冬のとある恋の話


あるところに青年が住んでいました。
青年は悪魔召喚士でした。表向きは黒魔術の研究家で通っています
が、裏では王室の官僚に頼まれては悪魔を召喚し、要人を暗殺して
いく暗殺者・・・ それが青年の素顔でした。小さいころに両親に
先立たれ、身寄りもなく途方に暮れていた時に黒魔術の師にひろわ
れ、召喚術を習い、師が実は暗殺者であることを知り、恩返しの意
味も含めて亡くなった師の後を継いで自分自身も暗殺者になり・・
・ そして今にいたっていました。そして最近・・・ この年にな
るまで抱いたことのなかった感情・・・ 青年はその胸を締め付け
られるような感情に苦しめられていました。
恋心。
青年自信がその感情がそうなのだと気づいたのはごく最近です。そ
してその相手とは・・・
表向きの顔である黒魔術の研究家・・・ その研究室に家政婦とし
てやとった貧しい家の少女・・・ 青年の恋の対象はけなげで笑顔
を絶やさないごく身近な女性だったのです。
青年の専門が黒魔術なら、悩みの解決方法もまた黒魔術によってで
した。彼は願いをかなえてくれる悪魔を召喚し、少女への恋を実ら
せてもらおうと考えたのです。しかしその召喚はとても難しく、成
功はいつになるかわからないような状態でした。

クリスマスを数日後に控えたある日。青年はいつものごとく例の悪
魔を召喚するための魔法陣の作成にいそしみ、少女はいつものごと
く研究室の掃除や食事づくりに追われていました。
そして一息ついて食事をしていた時、少女が青年に尋ねました。
「先生、クリスマスはどうすごされるんです?」
「私は変わらず研究だろうね。」
「先生、クリスマスぐらい女性の方とすごされたらいかがですか?」
青年の想いを知らない少女は笑顔を見せながらそう言いました。
「・・・君はどうすごすんだ?」
動揺を必死に隠しながら青年はどうにかそう尋ねかえしました。
「え・・ うんと・・・ 私は・・・」
そこで少女が頬を赤らめながら話した内容は青年の心をさらに大き
く動揺させるものでした。
少女には幼いころから想いを寄せていた幼なじみがおり、今度クリ
スマスの日に町の中央広場の「希望の木」の前で会う約束をその少
年とすることが出来たのだそうです。そして、少女はその時に少年
に自分の想いを伝えるつもりだとも・・・
「やっと・・・ 伝える決心がついたんです・・・」
ちょっとうつむいて頬を赤らめながら浮かべた少女の笑顔は、彼女
がここで働くようになってから1度もみせたことのない笑顔でした。
その少女の様子は青年に一刻も早く祈願成就の悪魔の召喚を成功さ
せねばという決意を促すのに十分でした。

そしてとうとうクリスマスの日がやってきました。青年はいまだ悪
魔の召喚には成功していませんでした。でも完成までは後少しです
。刻一刻と時間がすぎ、ついに夕刻になってしまいました。
「では先生、私今日はこの辺で・・・」
「あ・・・ ああ、うん・・・」
そして戸口へむかう少女の背中に、青年は自分でも驚くような言葉
をかけたのです。
「願いがつうじるといいね。」
言ってから青年はハッとしました。自分は何を言っているんだろう
・・・ そんなことを望んでいるはずではないのに・・・
少女は振り返り、天使のような笑顔を見せて言いました。
「・・・はい!」
そして足早に研究室を出て行きました。
青年は先ほどの疑問を打ち消すかのように召喚の手続きを急ぎまし
た。早く・・・ 早くしないと彼女は・・・
そしてついに魔法陣は完成しました。あとは短い呪文詠唱だけで召
喚できるはずです・・・ この恐ろしく複雑な魔法陣が間違えてな
ければ。
「イム・ウク・トゥエル・ゲルス・ハウア・ゲファウルト・・・」
徐々に魔法陣に光がともります。そしてその光は天井に向かってま
っすぐ立ち、まばゆく収束し、そして光がうすらいできた後には肌
の黒いはげ頭の人間大の悪魔が中に浮いていました。成功です!
「悪魔・・・ ガウラトスだな?」
「いかにも。我は祈願を成す悪魔なり。貴様の願いをかなえてやろ
う。その身体の一部とひきかえにな。さあ、願いを言うがいい。そ
の代償はその後に相応の所をいただくとしよう。」
青年はそんなもの恐くありませんでした。この胸のもやもやがとれ
、そして少女の心を自分に向けることができるのなら・・・
青年は口を開きました。
「私の願いは・・・」
そのとき・・・ 青年の胸に少女の笑顔が浮かびました。クリスマ
スの予定を照れながら嬉しそうに話していた彼女。幼なじみへの長
年の想いをかみ締めるように少しうつむいて笑顔を浮かべていた彼
女・・・
ふと青年は悟りました。そうか・・・ さっき彼女が行く時にかけ
た言葉はそういう気持ちからでた言葉だったのか・・・ 私の本当
の願いとは・・・
青年は心を決め、悪魔に言いました。
「私の願いは、・・・・・・」

はあっ、はあっ・・・
少女は走っていました。先生のところで張り切って仕事をがんばり
すぎたせいでちょっと約束の時間に遅れそうです。今日は大切な日
なのに・・・ お願い、間に合って・・・
その時、走ったせいで火照る少女の頬に、なにか冷たいものがひら
りと落ちました。小さなそれは、手に取るとすぐに水にかわってし
まいました。
「雪・・・?」
少女は思わず立ち止まって上を見上げました。小さな白い粒が、ゆ
っくりと左右に揺れながら無数に降りてきていました。その幻想的
な、何度見ても感動を憶えるその光景に、少女は急いでいたことを
忘れ、しばし見入ります。手のひらを広げると、そこへも白い天使
が舞い下り、そして肌に触れると天使がその足跡を残して消えるか
のように雪は冷たい小さな水溜まりへと姿を変えます。
「クリスマスに雪かあ・・・ まるで・・・」
そこで少女はハッと我に帰りました。
「いけない!遅れちゃう!」
もう遠くの方に中央公園が見え始めていました。その真ん中に立つ
”希望の木” その元に待っている幼なじみの姿を思い浮かべて、
少女は嬉しそうに駆けていくのでした。

青年は研究室の窓から空を見上げていました。
そして雪が見る見るうちに積もっていくのを見て、満足そうに微笑
むのでした。どうやら悪魔は青年の願いを聞いてくれたようです。
彼女の幸せを思う青年の願いを・・・
「代償がこれなら・・・ 安いもん・・・ だろうか?」
青年は微笑んだまま右手で左手の手首あたりをさすりました。青年
の左手の手首から先は失われていました。青年の願いと代償に、悪
魔は”二度と両手で雪を受け止めることができないように”と左の
手を求めたのでした。青年の願いをかなえ終わった悪魔は去り際に
こう言いました。
「お前のような願いを持つ者ばかりならば、代償など求める必要は
ないのであろうな・・・」
そこで青年は笑って、
「こんなことで呼ばれるお前も大変だろうけどね・・・」
と言うと、悪魔は消えました。消える瞬間、悪魔が微笑んだように
見えたのは気のせいだったのでしょうか?
雪はもう足首ぐらいにまで積もっていました。まだまだやむ気配は
ありません。
あの子は少年にあえたのだろうか・・・
青年は少女があの笑顔で公園の木のもとに駆け寄っていく場面を想
像し、また笑顔を浮かべました。そしてここからは見えないがたぶ
ん今もあの笑顔を浮かべているであろう少女にむかって、青年はつ
ぶやくのでした。
「たくさんの白い天使たちの祝福が、君たちにありますように・・
・」
お前たちがきっと彼女の願いをかなえてくれると信じているよ・・
・ 終わることなく降ってくる雪にそう心でささやきながら。

悪魔召喚士で暗殺者の自分が「天使」という言葉を使ったことに我
ながら変だとおもいながらも、青年は笑顔を浮べたままいつまでも
いつまでも白さを増していく町を眺めていました。

〜Merry Xmas〜



「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」より「夜曲」

ネタバレコーナーへ

戻る


このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ