お姫様と人形
昔々、ある王国のお城に小さくてかわいらしいお姫様が住んでい
ました。お姫様はたくさんのおもちゃを持っていましたが、なかで
も一番のお気に入りのおもちゃは城下町で一番の腕の人形師につく
らせた自分そっくりのかわいらしい人形でした。お姫様には兄弟が
いなかったので、お姫様はこの人形相手に毎日のようにままごとを
してあそんでいました。ままごとをするときにお姫様はきまって人
形に向かってこう言うのでした。
「私達いつまでもいっしょにいましょうね。」
けれどもお姫様は大きくなるにつれ、だんだんおもちゃからは遠
ざかっていき、いつしかその人形もほかのおもちゃと一緒に捨てら
れてしまいました。
そしてお姫様が16才になったある日。突然隣の国が大軍を率い
てお姫様の国を攻めてきました。お姫様の国の軍もよく戦いました
が、所詮多勢に無勢、お城が落ちるのはもう時間の問題のように思
われました。
王様とお妃様は最後まで城に残って戦うことを決意し、王様はお
姫様に騎士団長と数名の騎士をつれ秘密の抜け穴から城の外へと脱
出するようにと言いました。お姫様は最初私も残りますと必死にな
って王様にお願いしましたが、王様にお前は無事生き延びていつか
この国を再建しておくれと言われ、泣きながら騎士団長に引っ張ら
れるようにして抜け穴を通ってお城の外へ逃げ出しました。しかし
抜け穴の出口の森には敵の軍が待ち伏せしていました。もうだめか
、と一行が思った時、近くの茂みから「姫様、こちらです。」とい
う声がしました。そこにはみなりの貧しい顔も薄汚れたちょうどお
姫様と同い年ぐらいの少女がいました。他にどうしようもなかった
お姫様達はその少女にしたがって森の中を進んでいきました。その
森は深く複雑だったので敵の兵たちはお姫様たちを見失ってしまい
、その森に詳しい少女に導かれたお姫様たちは無事に兵たちを振り
切り、森を抜け出すことができました。皆の身の安全がわかると、
少女は私は両親を隣の国の兵たちに殺された、私も一緒に連れてい
って欲しいとお姫様たちにお願いしました。騎士たちは少女を怪し
んで連れて行くのは危険だと言いましたが、お姫様は少女の目を見
て信用することにし、一緒に行こうといいました。こうしてお姫様
達の逃亡の旅ははじまりました。遠くでは、お姫様のお城から火の
手が上がっており、城のてっぺんには隣国の旗がたてられていまし
た。それを涙目で見ていたお姫様は、必ず自国を再建して見せると
かたく心に誓ったのでした。
そしてまた数年後。お姫様たちは今は隣国の城となってしまった
元自国の城下町にレジスタンスとして地下に潜伏し、反乱の時を待
ち続けていました。時には戦い、時には追われながら今か今かと機
が熟すのを待っていました。そしてお姫様のそばにはいつもあの少
女がたのもしい味方として付き添い、共に戦ってくれているのでし
た。時には守られ、時には守って。今ではかけがえの無い仲間であ
り一番の友達でありました。
そしてその時はやってきました。この国の政治に不満を持ってい
た民衆を味方にすることに成功したお姫様達は、まず城下町で民衆
による革命をおこし、城があわただしくなったところでお姫様たち
の軍が城に突入して敵国の王を倒す計画を秘密裏に立てました。
「いよいよですね。姫様。」
「そうね。必ずあなたと共に勝利を手にしましょう。」
計画実行の日の前日の夜、お姫様と少女はそう言って微笑みあう
のでした。
決戦の日。まず民衆が城下町でいっせいに手に手に武器を持って
立ち上がり、町のあちこちで城が管理している施設を襲いはじめま
した。城の兵たちはそれらの騒ぎを静めようと町のあちこちに向か
いました。手薄になったお城に町人に化けていたお姫様たちは服を
脱ぎ捨て一斉に突入を開始しました。
「今こそ祖国のかたきをうつ時!私に続け!」
お姫様は先頭に立って、あの少女といっしょに城の中へと切り込
んでいきました。
ほとんどの兵を町の反乱の鎮圧へとまわしていた城は抵抗するも
お姫様たちの義勇軍の敵ではなく、お姫様たちはついに最上階の王
の間にたどりつきました。
「ついに見つけたぞ!覚悟!」
しかし王の間にはものすごい数の兵が最後の抵抗だと言わんばか
りにひしめいており、容易に王まではたどり着けそうもありません
。しかしお姫様の軍も負けてはいられぬとばかりに勇猛果敢に戦い
を挑んでいきます。また1人、また1人とお互いの兵が倒れていく
うち、いつしか敵の王も手に剣をもって戦わざるをえない状況にな
ってきました。お姫様の兵たちが押しているのです。そしていよい
よお姫様の剣が王に届かんとしたまさにその時・・・
「!!」
息も絶え絶えのまさに絶命しかかっていた敵の兵がふいにお姫様
の両足をつかんだのです。バランスを崩したお姫様はたまらず床に
うつ伏せに倒れ込んでしまいました。王はそこへすかさず剣を振り
下ろしてきました。お姫様にせまる剣・・・
”やられる・・・”
そうお姫様が思った瞬間、なにかがお姫様の上に覆い被さりまし
た。そして続けてザシュ!という肉を切る音。何があったのかと顔
を上げたお姫様の頬にポタっと赤いぬめった液体が垂れてきました
。その液体の流れているもとは・・・
あの少女がお姫様の上に仰向けにかぶさり、王の剣を胸で受け止
めて両手でがっしりとつかんでいたのです。そして胸と腕からはお
びただしい量の血が流れ出しています。王は少女から剣を放そうと
必死でしたが、その細い体からは想像もできないような力で剣を押
さえられ、たまらず剣を手放してうめきながら後ずさってしまいま
した。
お姫様は足をつかんでいる死体の手をはがし、少女を抱き寄せま
した。
「しっかり! しっかりしなさい!」
「姫様・・・」
「約束をわすれたの!?共に勝利を手にすると誓い合ったでしょう
!!」
「申し訳ございません・・・ 私はもう・・・」
そして少女は・・・最後に
「私達はいつまでもいっしょです・・・」
そういってにっこり笑うとガクッと首をうなだれました。
「・・・・!!」
お姫様はしばらくその格好のままで方膝をついていましたが、や
がて静かに血まみれの少女の身体を床に置くと、お姫様は剣を構え
、王の方に向き直りました。
「父上の・・・母上の・・・そして、私のかけがえの無い友の仇!
かくごせよ!!」
お姫様は王に駆け寄ると一閃!王を切り捨てました。
王は声も発せずに崩れ落ちました。
こうしてお姫様は祖国の仇をとることができたのです。
お姫様はしばらく肩で息をしながらその場で立ち尽くしていまし
た。
「終わったのね・・・」
その肩の震えは段々と鳴咽のそれに変わります。
涙をいっぱいに溜めた目で少女の方へと向き直ると。
そこには少女の亡骸はありませんでした。
その代わりに小さな女の子の人形が仰向けになって転がっていま
した。そしてその女の子の人形にお姫様は見覚えがありました。小
さいころよくいっしょにままごとをして遊んだあの人形・・・
”私達いつまでもいっしょにいましょうね”
そういって遊んでいたあの人形。しかし成長するにつれその言葉
も忘れてしまい、いつしか人形もどこかへ捨ててしまった。でもこ
の人形は・・・ 人形はその言葉を忘れず、常に私といてくれたの
ね・・・ 私は忘れていたのに・・・ ”彼女”は・・・
そう思うと、なおたくさんの涙があふれてきました。お姫様はそ
の胸に大きな傷の有る人形の側に歩み寄ると、そっと胸元にだきよ
せました。
「あなたのおかげで・・・祖国の仇をとることができました・・・
」
お姫様は泣きながら口元に微笑みを浮かべ小さいころの自分にそ
っくりの人形の顔を見つめていましたが、ぎゅっと人形を強く抱き
寄せるとなおたくさんの涙をぼろぼろとこぼしながらつぶやきまし
た。
「でも・・・あなたがいなければ・・・
あなたがいなければ・・・
勝利なんて意味がないの・・・」
城の外では民衆たちの勝ち誇った歓喜の声が上がっていました。
お城の窓からは赤い夕日がさしこんでいました。お姫様は人形をぎ
ゅっとだきしめたままいつまでもいつまでも夕日の中に立ち尽くし
ていました・・・・・・
数日後。お姫様はこの国の正当な継承者として王の座につくこと
になりました。そしてお姫様、いえ女王様は誉れ高い王として後の
世まで語り継がれることになります。
後世の歴史学者達は彼女のことを「双子女王」と呼ぶこともあり
ます。それは、女王が王座にあるとき、その横には常にちいさな王
座に座ったぼろぼろの、女王様によく似た小さな女の子の人形が置
かれていたためだともいわれています。
昔々の、ちょっと不思議でちょっと悲しいお話はここまで・・・
(1943年 フォワード書院刊 H・P・エイキルネス著
「中世の昔語り考と王の存在・その伝説化について」(折口信夫訳)より抄録)
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