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天下統一を目前にした織田信長が、明智光秀の謀反によって
本能寺に討たれたことから、諸将は再びいろめきたつ。 信長の死後、羽柴秀吉は明智光秀を討つと、信長に代わって天下統一へと進んでいった。 上・信二州に割拠する真田昌幸は、関東の北条、東海の徳川、越後の上杉と対峙しつつ、 己の命運を上田築城に賭けた。 一方、昌幸の二人の子供、兄源三郎信幸と弟の源二郎幸村、そして従兄弟の樋口角兵衛を めぐる真田家の複雑に入り組んだ血筋が、小国の行方に微妙な影を落としてゆく。 ねむり燈台の淡い火影に、仰向いて寝ている女の顔がみえる。 このところ、毎夜、昌幸は熟睡したことがない。 これからの真田家を、 (どこへ、どのように持ち行くのがよいのか?) 思い惑っていた。 方法は、いくらもある。 だが、失敗はゆるされぬ。 女は、前に上州・沼田の城で昌幸の伽をしていた、お徳であった。 「むうん・・・・」 微かにうなったが、すぐにまた、健康そうな寝息がきこえはじめた。 屋敷は、真田の庄の近くにある。 昌幸は、眼を閉じたが、眠りは来ない。 このごろは折にふれて、 (去年のいまごろは、何があったのだろうか?) そのことばかりを思い起そうとしている自分に気ずくのだ。 去年のいまごろは・・・。 甲州攻めに大勝利を得た織田信長が、徳川家康の先導により、 意気揚々と東海道を安土へ凱旋しつつあった。 それから二ヶ月もたたぬうち、中国出陣を目前にひかえ、 京都の本能寺で信長は死んだ。 そして、主信長・信忠父子を討った明智日向守光秀も、すでに、この世の 人ではない。 あれから、一年目の夏が、間もなくやって来ようとしていた。 昌幸は、織田信長を知らぬ。 声もきかず、顔も見たこともない。 激烈な性格のもちぬしで、癇癖が強く、おのれに逆らうものに 対しては苛酷きわまる処罰をあたえ、一片の情も見せぬという 風評をきいている。 (だが、このおれの眼でたしかめぬことには・・・) 何もわからぬと、昌幸はおもう。 (こうなってみると、ぜひとも、信長に会うておきたかった・・・) このごろの昌幸は、そこまで、おもいつめている。 一度でも、信長を見ておれば、織田家の家風も知れよう。家臣団の 構成ものみこめたろう。 すると、いま、真田昌幸が当面している困難に、進むべき手がかりが つかめたのではないか。 予想される、そうした波乱の中で、真田昌幸が、 「どう生きるか・・・」 であった。 「城だ!」 と、昌幸は夢の中で叫んでいる。 |