調査D.理解していないのは「解法」それとも「問題の意味」

<目的>
 タンザニアにおけるSecondaryの授業は英語で行われているが,実際に授業を進めていくうちに「理解していないのは「問題の解法」ではなく「英語による問題の意味自体」なのでは?」と言う疑問を持つようになった.
 ここでは,その疑問が事実なのかを調べるために,Primaryレベルの簡単な問題を英語とスワヒリ語で出題し,その正解率を比較し解析を行った.
 また,昨年来の疑問だった「定規を使って指定された長さの線分を正しく描けるか?」の調査も行った.

<対象>
  ・Mkwakwani Secondary School(政府校)2001年度Form1 158名(男子85名,女子73名)

<内容>
   Form1の4クラスを2クラスずつに分け(5)参照)以下の問題を英語とスワヒリ語で出題してその正解率の比較と誤答内容の解析を行った.
     [問題1]
        日本語  :3辺の長さの和が30cmの正三角形がある.1辺の長さを求めなさい.
        英語    :The perimeter of equilateral triangle is 30cm. Find its length of each side.
        スワヒリ語:Mzingo wa pembetatu sawa ni sm30. Utafute urefu wa kila upande.

     [問題2]
        日本語  :定規を用いて6cmの線分ABを描き,それを3等分しなさい.
        英語    :Draw line segment AB 6cm and divide it 3 equal parts by ruler.
        スワヒリ語:Uchore mstari AB wenye urefu wa sm6 na ugawanye katika sehemu 3 zilizo sawa kwa rula.

<結論>
数学の学力が低い原因は「英語による問題の意味自体を理解していない」事も大きなそれと言え,
  生徒の理解度を上げるためにはSecondaryの授業はスワヒリ語にする必要がある.
      (それぞれの言語における正解率は「英語/スワヒリ語=約60%/約90%」)

定規を使って指定された長さの線分を正確に描けない生徒が60%もいる事から,Primaryにおける数学教育の充実化を至急図る必要がある.

<それぞれの問題の結果と考察>
<クラス分け方法>
 まずは対象になった4クラスの数学能力を表す指標として,過去のテストと基礎計算テストの結果をTable.D-1に示す.

Table.D-1 各クラスの出題言語と数学能力
出題言語 クラス 人数※1 テスト※2 計算力※3
英語 A 20/18 52.0 (1) 42.0 (1)
C 22/18 48.7 (3) 41.2 (2)
スワヒリ語 B 23/19 45.5 (4) 39.0 (4)
D 20/18 49.0 (2) 40.8 (3)
                                    ※1:男子/女子
                                    ※2:1st term4回のテストの平均.( )はランク
                                    ※3:基礎計算テスト結果(調査A)48点満点.( )はランク

 当然の事ながら過去のテストは全て英語による出題なので,それが本当の意味での数学能力を表しているかはわからないが,タンザニアのSecondaryにおける数学評価方法に準ずる事にすると,数学能力はA>C=D>Bとなっている事がわかる.
 ここでAとB,CとDとグループ分けする方法もあるが,今回は出題言語による影響をよりわかり易くするために,数学能力が高い2クラスを英語,低い2クラスをスワヒリ語とした.
 言い換えると「数学能力が低い2クラスが出題言語をスワヒリ語にするだけで,それが高い2クラスを上回る事が出来るか?」を確認するためのクラス分けを行った.

a)問題1
<問題と正解>
   日本:3辺の長さの和が30cmの正三角形がある.1辺の長さを求めなさい.
   英語:The perimeter of equilateral triangle is 30cm. Find its length of each side.
   スワ:Mzingo wa pembetatu sawa ni sm30. Utafute urefu wa kila upande.

<結果>
 まずは,文章読解力を調べる問題.
 正三角形の定義「三辺の長さが等しい三角形」がわかっていれば,特に難しい公式などを使う事無く簡単に求まる問題である.
 それぞれの出題言語における正解率を表D-2に示す.

Table.D-2 出題言語と正解率
出題言語 人数 平均正解率 クラス 正解率
英語 78 (42/36) 61.7% A 65.8%
C 57.5%
スワヒリ語 80 (43/37) 93.8% B 92.9%
D 94.7%
※:男女計(男子/女子)

 数学能力が明らかに劣っているBでさえもスワヒリ語を使用すれば正解率が90%を超えており,一方で優れているAは出題が英語のためかそれが66%にとどまっている.
 ここから「英語で出題されると解法以前に問題の意味を把握できていない」事がわかる.

b)問題2
<問題と正解>
   日本:定規を用いて6cmの線分ABを描き,それを3等分しなさい.
   英語:Draw line segment AB 6cm and divide it 3 equal parts by ruler.
   スワ:Uchore mstari AB wenye urefu wa sm6 na ugawanye katika sehemu 3 zilizo sawa kwa rula.

<結果>
 この問題では,文章読解力も然る事ながら,昨年授業をしていて気に掛かった「定規を使って指定した長さの線分を描けるか?」と言う能力も必要となってくる.
 まずは,上図のような回答のみを正解とした場合の正解率をTable.D-3に示す.

Table.D-3 出題言語と正解率
出題言語 人数 平均正解率 クラス 正解率
英語 78 (42/36) 39.7% A 39.5%
C 40.0%
スワヒリ語 80 (43/37) 58.7% B 59.5%
D 57.9%
※:男女計(男子/女子)

 前問同様,やはりスワヒリ語による出題の正解率が高くなっているが,スワヒリ語でも60%弱とそれ自体はかなり低いものとなっており,文章読解力以外の要素が絡んできている可能性がある事がわかる.
 ここで,それが何かを調べるために誤答内容を詳しく見ていくことにする.
 この問題で正答を得るためには
   @ 6cmの線分を描く.
   A 6cmの線分を3等分する.
の2つの課題をクリアしなくてはならない.
 それらを考慮に入れて誤答内容をTable.D-4にまとめた.

Table.D-4 誤答内容解析結果
記号 6cmの線分が 3等分が 該当人数 (割合) 備考
英語 スワ
AB 正しく描けている 正確にされている 31 (40%) 47 (59%) 正解
AF 正確にされていない 7 ( 9%) 2 ( 3%) 問題内容理解
AG 2等分している 4 ( 5%) 0 ( 0%) ---
AH 分割意思無し 2 ( 3%) 0 ( 0%)---
AX それ以外の間違え 2 ( 3%) 2 ( 3%) ---
EB 正しく描けていない 正確にされている 0 ( 0%) 2 ( 3%) 問題内容理解
EF 正確にされていない 9 (12%) 19 (24%) 問題内容理解
EG 2等分している 7 ( 9%) 1 ( 1%) ---
EH 分割意思無し 6 ( 8%) 0 ( 0%) ---
EX それ以外の間違え 2 ( 3%) 4 ( 5%) ---
S 三角形を描いている --- 6 ( 8%) 3 ( 4%) ---

 ここで便宜上,以下の記号を用いて議論していく.
    A:6cmの線分が正しく描けている.
    E:6cmの線分が正しく描けていない.
    B:3等分が正しくされている.
    F:3等分が正しくされていない.
    H:分割意思無し
    X:その他
 既に述べたように,正解率(ABが正解)は英語,スワヒリ語でそれぞれ40%,60%弱となっているが,ここで「問題の意味自体を理解しているか?」と言うことに焦点を当てて考えてみることにする.
 前述のこの問題の課題@,Aから,問題の意味を完全に理解しているのは,AB,AF,EB,EFの4つのタイプの生徒であり,それらを合計すると英語:61.8%,スワヒリ語:87.5%問題1のそれとほぼ同じになる.
 ここから,やはり英語によって出題されると解法以前に問題の意味自体を理解していないと言える.

 次に「定規を使って指定された長さの線分を正しく描けるか?」という点に焦点を当て,実際に描かれた線分の長さを測定し,その人数との関係をFig.D-1に示した.
 なお誤答内容から,英語・スワヒリ語共にS(三角形を描いた)を答とした生徒以外は「6cmの線を描く意思があった」ものとみなした.


Fig.D-1 6cmとして描いた線分の実際の長さとその人数

 正確に6cmの線を描いた生徒はなんとわずか40%
 ±1mmを正解としたとしても5.9〜6.1cm(図中の灰色)その正解率は63%にしかならなかった.
 ここで誤答内容を詳しく見ていくと,5〜5.2cm(図中の黒)の線分を描いた生徒が19%とそこだけが突出していることがわかる.
 これは普段の授業でも見られたのだが,下図の様に0cmではなく1cmを基準にして6cmまでを測りそれを6cmの線分の長さとしているためである.


Fig.D-2 誤答として多かった6cmの測り方

 確かに全員が定規を持っているわけではないのだが,このテスト中は貸し借りをしていたのでそれを使って測っているはずなのである.
 それにもかかわらず,上記のような例を含め60%弱が間違え,5cm未満の線分を描いた生徒が2名,7cm以上の線分を描いた生徒が6名もいるのである.
 線分の長さの測り方は当然Primaryで習ってきているものだと思っていたのでわざわざ教えなかったのだが,改めてPrimaryでの数学教育のひどさを痛感した.

c)まとめ
 以上の結果をTable.D-5にまとめた.

Table.D-5 各問題の内容理解度
出題言語 人数 理解度
問題1 問題2
英語 78 (42/36) 61.7% 61.8%
スワヒリ語 80 (43/37) 93.8% 87.5%
※:男女計(男子/女子)


 なお,ここでは「出題言語による問題の理解度」を比較するのが目的なので,問題1の理解度はその正解率,問題2の理解度は正解率ではなく,AB,AF,EB,EFの合計を用いた
 この調査前に出題言語によって理解力に差があると思っていたが,結果は英語/スワヒリ語=約60%/約90%と予想以上に大きなものだった.

 この調査から,数学の学力が低い原因として「解法自体を理解していない」事も然る事ながら「英語による問題の意味自体を理解していない」事も挙げられる事が数値として把握することが出来た.
 また,定規を使って指定された線分の長さの線分を描けない生徒が60%もいる事から「Primaryにおける数学教育の充実化」を至急促す必要がある事もわかった.



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