「人間消失」






事件前夜 秋鳴荘の伝説

「いらっしゃいませ。」

秋鳴荘のオーナー、田鍋は丁寧な口調で客を迎え入れた。

「夜分すみません、取材の許可をもらってきた、山根です。」

フリーライターの山根は名刺を出しながら答える。

「はい、ありがとうございます。こちらの宿泊者名簿にご記入ください。」

「ハイ・・・あ、私、携帯電話しか持っていないんですけど、いいですかね?」

山根は住所記入欄でペンを止める。

「構いませんよ。」田鍋は帽子をかぶりなおしながら答える。

「では、お部屋に案内します。」

田鍋はスタスタと山根の前を歩き、部屋へと向かう。

「こちらです。」

「どうもありがとう。」

「では、夕食ができましたら、室内電話でお呼びしますので。」

山根は部屋でパソコンを開き、自分が見た秋鳴荘の印象を一気に書き上げる。

時間を忘れ、山根がパソコンに向かっていると、夕食を知らせる室内電話が鳴った。

PM8:06

山根が食堂へ向かうと、カップルらしい男女が隅のほうに見えた。

他に、男が2人、別々に席に座ってコーヒーを飲んでいる。

カップルの反対側の隅に山根が座ると、田鍋が料理を持って近づいてきた。

「オーナーは一人でこのホテルをキリモリしているんですか?」

「ええ、お客さんは5人までしか泊まることのできない小さなホテルですから。」

「でも、あれだけ夜景がきれいだと注目されたら、小さくても大変でしょう?」

「それでも、好きなことですから。・・・それでは、ごゆっくり。」

山根は田鍋の言葉にほのぼのしながら、目の前の夕食を楽しんだ。

PM9:26

山根は夜景が見える場所で記事用の写真を撮っていた。

この場所からは、A町の街が一望できる上、

遙か向こうには、灯台の明かりで照らされる海がほんの少し顔をのぞかせているのが見える。

「ホントにきれいだな。」

この場所が夜景の見える絶好のポイントとして話題になったのは、

今から18年ほど前、あるカップルがそこで小さな結婚式を行ったことから始まっている。

ある噂では、結婚式というより、身内のものが二人を祝福しただけという話もあるが、

とにかく、そのカップルに憧れた若者が後を絶たなかった。

元々、秋鳴荘の作りが小さいこともあって、

今では完全予約制のホテルになっている。

美しい夜景を後にして、ホテルへと向かう山根は、

まさか自分がこの後、信じられない光景を目の当たりにするとは予想もしていなかった。






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インターローグでした。
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