A Shot of Fight
〜お中元戦争〜

Short Story #2

by Ryosuke MATSUMURA
2001.07.02


 「ええ?リポD?何でまたこんなものを……」
 我が家に【リポビタンD】が届いた。それも箱入りのやつだ。水不足が予想されそうな陽気の、もはや初夏とは言えない7月のある日のことである。カラフルな紙で丁寧に包装された箱のおもてには、白い紙が堂々と貼られ、「お中元」と書いてある。思わずつぶやいてしまった。
 「差出人は誰?」
 キッチンで鼻歌を歌っていた妻が聞いてきた。一緒になって10年にもなるが、さすがに妻もこんなお中元は初めてだったのだろう。私はキッチンへ歩きながら、差出人欄を見る。
 「え……っと、ああ、T課長だ」
 「へえ、小さな会社だと課長が部下にお中元をくれるのね。イイ会社だこと」
 「でも、勤めて15年くらいになるんだぜ?初めてだよ、課長からお中元をもらったのなんて」
 最近会社は景気がよくない。確かに、お世辞にも大きいとは言えない会社である。まあ、このご時世に景気のいい会社なんてそうはないと思うが、それでも課長クラスになると部下にお中元をくれるくらいの金はあるのだろうか。下っ端の社員のボーナスは少ないっていうのに。段々腹が立ってきた。
 「きっと、『コレ飲んでもっと働け!』って意味なんだぜ、まったく」
 「考えすぎだってば。『夏バテしないように体に気をつけて』って、部下の身を気遣ってくれるのよ」
 「いいや、絶対『働け!』だね。最近こき使われてるような気がしてたんだ」
 「何でそう悲観的になるのかなあ。あなたが倒れたら私だって困るわ。気にすることじゃないわよ」
 「おまえ、楽観的すぎるよ。課長を知らないからそんなことが言えるんだ」
 「あなたが悲観的すぎるのよ。この間だって、ちょっと地震があったくらいで『家が崩れる!』とか騒ぎ出しちゃってさ」
 それは事実だ。しかし、それをズバズバ言われると無性に腹立たしい。妻は楽観的すぎるのだ。
 「うるさいな!そんなことどうだっていいじゃないか。おまえは戦争が起こったって、『あら、これで地球の人口が減って環境にイイわね』って言うタイプだよ。何でそういう考え方しかできないんだ!」
 「言ったわね!」
 「やるか!」
 カーン。妻が投げたボールペンが金属のボウルに当たって乾いた音を立てる。それをゴングに、家の中では、おたまだとか、テレビのリモコンだとか、ハサミだとか、色々なものが飛び交う戦場と化した。

 ファイト一発。





 誰も待っていないショートストーリィ第2弾である。前回の『黒田な遊撃手・須藤リー』よりはまともなものが出来たと思ったから載せた。クイズ研究会会報『RADAR』に載せるかどうかは未定だ。このホームページに載せるのが先だと、後から会報に載せる意味もないだろうと思っていたりもする。

 これを書いた時期、ちょうどお中元の贈答をする季節だった。我が家でも、親父T氏がお中元の選択に頭を悩ませていたのだが、何を考えたか「オロナミンCを贈ろう。なかなかないアイディアだろ?」と言い出した。確かになかなかないとは思うが、松村は「それをもらって『これを飲んでもっと働け!』って意味に受け取られたらどうする?」と反対した。

 そんなことを、某予備校の内定者研修の帰りの京浜東北線の中で『ミステリーの書き方』という本を読んでいたときに思い出した。「【オロナミンC】を【リポビタンD】に変えたら何か書けそうだな」と思ったから変えてみた。変えてみたらストーリィが固まったので、書いてみた。書いてみたら書けたので、ここに発表してみたというわけだ。ミステリィではなく、ショートショートになってしまったが。

 一番苦労したのは、主人公とその妻の「楽観的」「悲観的」という性格を裏付けるためのエピソードだ。完成品も満足はしていない。しかし、他に思いつかなかったのだから仕方ない。誰かがここの部分だけ直してくれたら、それだけでもっとレベルは上の位置にあるはずであろう。

 今回はクイズ研を意識しなかったので、クイズネタ的なコンテンツは何も入れなかった。適当に思いついたことをそのまま文章にした。タイトルも、【リポビタンD】がカギなので「ファイト一発」を適当に英語にした。邦題の『お中元戦争』は、「お中元商戦」とか「夫婦喧嘩」とか色々な意味を持たせられるので、なかなかイイ単語を思いついたと思う(と自分では思っている)。




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