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茶色のゴキブリが這い回る夢を見た。
体の要を壊した。
銀の入れ物が落ちて外れた。
全て闇月の始まりのできごと。
何の前触れもなく訪れた冷気が心の臓に張り手を飛ばした。
荒れた丘のくぼみをつたって、
星屑は見栄っ張りの女のスカートに吸い込まれていく。
「何でそんなに無視するの」
泡のような言葉は、立ち去る風に吸い込まれた。
全部を真空パックに吹き込んで、パンパンにして飛ばしてやりたい。
何を言うの?
何があるの?
もう何もないでしょう。
とぼけたふりしてのぼせ上がったわた飴を放っておいたのは、
エゴイストの女。
逃げた。
自分の過ちが侘びしくてカバンを持って駆け抜けた。
通りから出るバスに飛び乗った。
バスで泣いていた髪の長い女が蘇る。
はらした頬の上に安物のサングラスをそっと重ねて
街の女豹に舞い戻る。
負った傷とたれた尻尾をしまい忘れて
駅のホームで柱に寄り添った。
不思議なもので吐き気がする
キリキリするのは はあと で
胃は簡単に腹から飛び出た
光を発するものの側で光を盗みたがる女。
崩した階段をさらに下っていく女。
夢にまぎれて空(くう)を追い
浮いたガラスを小突いてツルツルの感触を楽しむ女。
知らない味のお酒を覚えて日ごと香りが濃くなる女。
懺悔のつもりでつけた腕の傷が増える一方の女。
妖しい手並みのグラスさばきからぎこちなさも取れ
独りで街を歩く姿にはじけたパンプスが似合う女。
4日ぶりにたどりついた寝所で
タオルケットにくるまって
自分の匂いを確かめて
誰でもない自分に回帰する。
冷えきった脚を抱きしめて。
どこにいてももう温まることのない
震える背中をなでている。
女。
愛しき女。
我、愛す、女。
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