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2002年3月7日
第22回日本社会精神医学会(千葉)にて口演発表

オーストラリア在住邦人のQOLとメンタルヘルス
− 一般人口集団調査の方法論と初期解析結果

高田浩一 1) 2)
1) 長崎県離島医療圏組合対馬いづはら病院精神科
2) オーストラリア国立大学精神保健研究所

抄録

【目的】住民基本台帳や選挙人名簿等が利用できない海外で一般人口集団調査を実施するため、対象集団を抽出・特定する実際的な方法を開発し、QOLと精神的健康度の関係について、一時滞在者・永住者など背景因子の異なる対象者群間の比較を可能にする。
【対象】シドニーおよびメルボルン在住の一般邦人。
【方法】1) 日本人の姓上位1000種(人口の71%に相当)をローマ字表記889種に変換し、現地の電子的個人別電話帳から検索、2) 無作為抽出、郵送法自己記入式調査票による横断的調査を実施。
【結果】1) 868種(97.6%)の姓が日本人世帯の識別に有用であった。同定された887世帯の地理的分布は豪州の国勢調査とほぼ一致した。2) 有効回答470を解析した結果、GHQ-12高得点群(精神的健康が低い)は低得点群より、QOL得点(WHOQOL-26)が有意に低く、カルチャーショック度(CSQ)が有意に高かった。永住者では滞在者より、CSQが有意に低かった。GHQ-12はWHOQOL- 26と負の相関(r= -.49, p<.001)を、CSQと正の相関(r=.40, p<.001)を示した。
【考察】1) 本抽出法は疑陽性が少なく特異性が高く、海外在住邦人の対象者抽出法として実用性が高い。2) QOLと精神的健康度の詳しい関係については、さらに、性、年令、滞在期間等の交絡因子を考慮した解析が必要である。


本文

 海外では住民基本台帳や選挙人名簿等が利用できないため、一般人口集団調査の実施は容易ではない。

 メルボルンの日本人コミュニティーを一例に挙げると、図のように日本人会や日本クラブに属していない日本人のほうが、むしろ多数を占めている。したがって、このような会の会員のみを調査対象とした場合は一般人口を代表しているとはいいがたい。そこで、一般人口から対象集団を抽出するため、現地の電子的電話帳から日本人の姓の者を効率よく検索する方法を開発することにした。

 日本人の姓は最も多い鈴木や佐藤でさえ、人口に占める割合がわずか2%と、一般に低頻度であるが、上位1000種の姓を用いれば、累積では人口の約7割に達することがわかっている。このグラフでは、1,000種の姓をローマ字表記に変換した後、同音異綴りなどのため、889種にまとめなおして、表示している。なお、現地では日本人以外にも多く見られる姓があり、これを除外して、868種(97.6%)の姓が日本人世帯の特定に有用であった。

 【結果】この方法で、同定した「日本人姓」を持つ世帯の分布を右に示す。左は、オーストラリアの国勢調査における「日本生まれの人」の人口分布である。「日本生まれ」は、文字どおり日本生まれではあるが日本人ではない者を含み、逆に日本生まれでない日本人が含まれていない。しかしながら、他の資料からこれが日本人の人口学的指標の代わりとして有用であることが明らかになっている。「日本人姓の世帯」と「日本生まれ」の分布はかなり似たパターンを示している。

 折れ線は、メルボルン市の総人口の地区別の分布である。白い棒線で示した「日本生まれの人」の分布はこれとはかなり異なっており、数カ所多い地区があることがわかる。オレンジ色の棒線で示した「日本人姓」の世帯の分布も、これに非常に近似した分布パターンを示した。抽出した887世帯に対し、自己記入式のQOLとメンタルヘルスに関する調査票を郵送した。有効送付数中、49.5%から回答を得、そのうち88.4%が邦人世帯であった。
 【考察】この方法は、日本人姓でない者を抽出できない欠点があるものの、日本人姓だが日本人でないfalse positiveが少なく特異性が高い、選択バイアスが少ないなど、population-based surveyの対象者抽出法として実用性が高いと思われる。


 さて、シドニーにおいても同様の方法を用いて調査を行っており、メルボルン調査の回答者とその属性に大差がないことから、以下、両者をまとめた有効回答470例について、QOLと精神的健康度の関係についての初期解析結果を報告する。

 population-based surveyとして実施した「オーストラリア在住邦人のQOLとメンタルヘルスに関する研究」では、種種の質問票を用いて、対象者の主観的QOL,カルチャーショックや文化変容の影響,精神的健康状態,精神症状の有症率,精神保健意識,精神保健サービスに対する態度や利用等の項目を含む包括的な横断調査を実施した。今日はその中からスライドに示す3つの尺度の結果について報告する。カルチャーショック尺度は、英国のMumfordが開発したもので、12項目からなり、点数の多い方がカルチャーショック度が高いことを示す。精神的健康度の尺度としてはGHQ-12を用いた。これも点数の高い方が、精神的不健康を表す。とくに、4点以上では何らかの精神的問題を抱えていることが多いとされている。主観的QOLの尺度としては、WHOが開発したWHOQOL-26を用いた。身体・心理・社会・環境・全般の5領域からなっており、これは点数の高い方がQOLがよいことを示す。以下の解析では、5領域の平均スコアを用いた。

 【結果】性別による比較では、カルチャーショックとGHQで女性のスコアが高いが、対象者の中ではもともと女性のほうが男性より年齢が低く、大卒率が低く、就労率も低いなどの差があることを考慮する必要がある。

 GHQ4点未満の低得点群と4点以上の高得点群を比較すると、高得点者群では、低得点群に比べ、有意にカルチャーショック度が高く、QOLは有意に低い。なお、高得点群は低得点群に比べ、年齢が低く、滞在年数も短く、就労率が低いといった属性の違いがある。

 滞在者か永住者かという分け方で見ると、当然、年齢や滞在年数に差があり、大卒率や就労率にも差がみられるが、GHQとQOLについては、両群間に有意な差は見られなかった。カルチャーショック度は、永住者のほうが低かった。

 【尺度間の相関】カルチャーショック度と、GHQ-12、WHOQOL- 26、この3つの尺度の相関はスライドに示すようになり、3者が互いに関係しあっている。
 【考察】今回の初期解析結果で、精神的健康度が低い群で、カルチャーショック度が高く、QOLが低いという所見は、ある程度予測されたものであろう。一方、永住者と滞在者の間で、精神的健康度やQOLの得点に差が無かったことは着目すべき点であると思われる。一般に、短期の滞在者には不適応などの問題が多く、精神的健康度やQOLが低いのではないか、逆に滞在期間が長くなり、あるいは永住しているとなればこれらは良くなるものではないかと思われがちだが、実際には、永住者と滞在者間に差がない。ただし、既に触れたように、例えば、女性、若年齢、就労率の低さには関係があるので、実際には、QOLや精神的健康度、その他の因子の関係は単純ではない。今後は、さらに、これら、性、年令、滞在期間といった交絡因子を考慮した解析が必要である。

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