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2003年3月5日
第23回日本社会精神医学会(盛岡)にて口演発表

滞在期間が長くなれば、精神的不健康は減るか?
質問紙法による海外在住邦人の横断的一般人口集団調査

高田浩一 1) 2)
1) 長崎県離島医療圏組合対馬いづはら病院精神科
2) オーストラリア国立大学精神保健研究所

抄録

【目的】性・年令・学歴・滞在/永住の別・滞在年数・就労・文化変容・カルチャーショック・ストレスフルな出来事と、精神健康度、QOLとの関係を調べる。
【対象】シドニーおよびメルボルン在住の一般邦人人口から無作為抽出し、回答を得た140名と330名。
【方法】現地の電子的個人別電話帳から日本人の姓をethnic identifierとして検索、シドニーでは414世帯、メルボルンでは887世帯を無作為抽出し、自己記入式調査票を送付した。文化変容尺度はMinasらに準拠、カルチャーショック度はCulture Shock Questionnaire (CSQ) (Mumford)、精神健康度はGHQ-12 (Goldberg)、QOLはWHOQOL-BREF (WHO)を用いて測定した。
【結果】シドニーで37.3%、メルボルンで40.4%の回答率を得た。二都市の回答者の属性(性比、年齢、滞在年数、永住者の割合、大学卒者の割合、就労率)に有意差が無く、以後の解析は全回答者470をまとめた。性別、年齢を独立変数とし、教育水準、就労の有無、永住/滞在の別、滞在年数、文化変容度、CSQ、ストレスフルな出来事を従属変数として、重回帰分析を行った。GHQへ寄与率が高い変数は、CSQ(β=.313, r=.397, 寄与率12.4%)、ストレスフルな出来事(β=.141, r=.268, 寄与率3.8%)、QOLへ寄与率が高い変数は、CSQ(β=−.374, r=−.556, 寄与率20.8%)、GHQ(β=−.337, r=−.488, 寄与率16.4%)であり、教育歴、永住/滞在の別、滞在年数、就労などは、β<.05あるいは寄与率が0.1%未満であった。
【考察】二者間の比較では、女性は男性よりCSQとGHQが有意に高く、滞在者は永住者より有意にCSQが高い所見が得られていたが、性、年令、永住/滞在の別、滞在年数等の交互作用を考慮した解析により、これらが見かけの相関であることが判明した。精神健康度やQOLには、性別や滞在年数よりも、カルチャーショック度やストレスフルな出来事のほうが大きく関与していると考えられる。


本文

【緒言】
 一般に、海外在住邦人の精神保健上の問題と言えばまず思い起こされるのは、初期カルチャーショックに代表されるような不適応反応であろうか。渡航してまだ間もない時期、まだ日常生活が不安定な時期に、異文化との接触にとまどいを受ける人は多いと思われる。滞在期間が比較的短い、留学生や研究者、企業の駐在員、官公庁からの派遣者などにとって、このような精神保健上の問題は重要であると考えられている。しかし、では逆に、滞在期間が長くなれば、あるいは永住している人であれば、異文化との接触にももう慣れており、このような問題は生じないのであろうか?

【目的】
 海外在住邦人の一般人口集団を対象に、郵送質問紙法により横断的調査を行ったので、今回は、性別・年令・学歴・滞在/永住の別・滞在年数・就労・文化変容・カルチャーショック・ストレスフルな出来事と、精神健康度、QOLとの関係について解析した結果を報告する。

【対象】
 シドニーおよびメルボルン在住の一般邦人人口から無作為抽出し、回答を得たそれぞれ140名と330名、計470名。
【方法】
 現地の電子的個人別電話帳から日本人の姓をethnic identifierとして検索した。シドニーでは、先程の発表で述べた方法で414世帯を無作為抽出した。メルボルンでは、日本人の姓上位1,000種までを使い887世帯を無作為抽出した。なお、上位1,000種の姓というのは、日本国内の場合、約72%の人口にあたる。シドニー、メルボルン併せて、1,301世帯へ、返信用封筒を同封した自己記入式調査票を送付した。

 評価に用いた主な尺度としては、文化変容尺度はASQを用いた。自分のことをどのくらい日本的と思うかとか、現地の人のやり方をどのくらい受け入れられるようになったかという、conceptualな項目のscoreを解析に用いた。点が高いほど文化変容度が強い。
 カルチャーショック度はCulture Shock Questionnaire を用いた。これも点が高いほどカルチャーショックの度合いが強い。

 精神健康度はGHQ-12を用いた。点が高いほど精神的に不健康であることを表し、とくに4点以上は何らかの精神的問題を持つことが多いとされている。
 QOLはWHOQOL-26を用いて測定した。これは点が高いほど、QOLが良いことを表す。

【結果】
 シドニーで37.3%、メルボルンで40.4%の回答率を得た。二都市の回答者の属性(性比、年齢、滞在年数、永住者の割合、大学卒者の割合、就労率)に有意差が無く、以後の解析は全回答者470について行った。

[パス解析結果]
 性別、年齢を独立変数とし、教育水準、永住/滞在の別、滞在年数、就労の有無、文化変容度、カルチャーショック、ストレスフルな出来事を従属変数として、重回帰分析を行った。結果を図示するとスライドのようになる。パス係数が0.1未満のものは図から削除している。
 精神的健康へ寄与率が高い変数は、カルチャーショック、ストレスフルな出来事の二つ、QOLへ寄与率が高い変数は、カルチャーショックと精神的健康であり、その他の変数は、パス計数が0.05未満あるいは寄与率が0.1%未満であった。 図では見にくいので、これらを表に書き直すと、ノ

[精神的健康度へ影響する変数]
精神的健康へ寄与率が高い変数は、カルチャーショック(β=.313, r=.397, 寄与率12.4%)、ストレスフルな出来事(β=.141, r=.268, 寄与率3.8%)で、性別や年齢の影響はごくわずかであり、その他の因子は無視できる。

[QOLへ影響する変数]
 QOLへ寄与率が高い変数は、カルチャーショック(β=−.374, r=−.556, 寄与率20.8%)、GHQ(β=−.337, r=−.488, 寄与率16.4%)であり、教育歴、永住/滞在の別、滞在年数、就労などは、β<.05あるいは寄与率が0.1%未満であった。

【考察】
 昨年の本学会での発表では二者間の比較を行った。即ち、性別によって2群に分けると、男性が女性より、有意に年齢が高く、大卒者が多く、就労率が高いという、まず属性の違いがあり、逆に女性は男性よりCSQとGHQが有意に高いという結果であった。
 また、滞在者か永住者かによって2群に分けると、滞在者は永住者より、有意に年齢が若く、滞在年数が短く、大卒者が多く、就労率が低く、カルチャーショックは高いという所見が得られていた。
 しかし、今回、性、年令、永住/滞在の別、滞在年数等の交互作用を考慮した解析を行うことにより、これらは見かけの相関であることが判明した。精神健康度やQOLには、性別や滞在年数などよりも、カルチャーショック度やストレスフルな出来事のほうが大きく関与している。

【結語】
 精神的健康度は滞在期間の長短と相関しない。したがって、滞在が長いからとか永住者であるから、外国暮らしにも慣れて精神的不健康の度合いは低いであろうという論はなりたたない。
 これまで、海外在住邦人の精神保健問題と言えば、駐在員や留学生のそれを中心に論じられることが多かったが、今回の調査の結果からは、永住者や長期に滞在の邦人もまた同程度に精神保健上の問題を抱えているであろうことが示された。

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