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liyal false---first time
もう少しで夜が明けそうな白んだ空。街はまだ静寂を残している。
立ち並ぶマンション、多くの人々はまだ眠りについている。
その同時刻に、彼の規則的な寝息が止まった。
「ん・・・・・?」
ゆっくりと目を開けるが、薄暗い空間と元々の視力の悪さも手伝って何も見えない。
しかし、何故自分が目が覚めたか。その理由は彼は何となく気付いていた。
「・・・・・・何か用ですか・・・・・・?」
これが初めての事ではない。過去にも経験があるから、こんなに冷静でいられるのだ。
しかし毎度の事ながら、何故こんな時に来るのかは理解不明である。
「あ、起こしちゃった?」
楽しそうな声が聞こえる。「絶対わざとだな」彼こと、深崎 零は思った。
「起こしちゃったも何も・・・・、人の寝床に上がっときながら何言ってるんですか・・・・」
枕元に置いてる眼鏡をかけると、やっと迷惑な客の顔がぼんやり見えた。やはりか。
「遊佐さん、家宅侵入罪って知ってる?」
声だけで判断するが、勝手に部屋に入ってきて、人のベットの上に乗る男。自分の知ってる中では一人しかいない。
「合鍵もらってるんだから、いいじゃん」
彼の名は遊佐 真沙希。零は、これが仕事の相方だと思うと何だか騙されているような気分になる。たしかに騙されてこの世界入ったようなものだが。
「・・・・それじゃないと明け方からピンポンラッシュ始まるんで・・・今、何時なの?」
長めの前髪をかき上げると、眉間にしわを寄せて彼に問う。
「えーと、4時ジャスト・・・・電気つけて、いい?」
「・・・・・嫌だけど、いいよ。知ってる?俺寝たの今日になってからなの。4時間後にまた会いましょうね」
手短に経緯を説明するとまた布団をかぶる。直後に真沙希は電気をつけて、身体を圧し掛けてくる。
余程、こちらを寝かせたくないのか。どうせ、自分が寝てないのでその苦労を人に分け与えようとしてるのだろう。
「ちょっ・・・・俺なんて2日寝てないんだよっ」
真沙希が小柄だとはいえ、人一人乗っかられるのは居心地が悪い。
「それ、貴方が曲書いてなかったせいでしょ、・・・できたの?」
すると、彼は満面の笑みを浮かべて、背中のリュックからモノを取り出した。しまった。
「そうっ!よくぞ聴いてくれたね。深崎君。できたよぉーー、"Liyal False"の1stがっ。ほらっ、MDもここにっ!」
「・・・・・おめでとうございます。じゃあ・・・おやす・・・」
嬉しい事だが、場所と時と僕の性格を考えれば、この人の行動にもついていけない。と思う。
「ひどいねぇー・・・せっかく愛しの相方に真っ先に聴かせようと思って持ってきたのに・・・」
泣きまねをしつつ、すでにMDプレーヤーの準備は進めている。
「愛しいと思ってるなら、お願い寝かせて」
半分諦めかけてたが、最後まで交渉を続ける零を無視して、真沙希は声のトーンを落とした。
「でもねぇ・・・まだこれ足りないのがあるんですよ。聴いてみて」
「足りない?・・・音が?楽器が?」
「・・・・わかんない。だから、零の家来たの」
彼は相方が用意してくれた謎を、探してみる。が。
「別に、何の問題もないと思うんですけど・・・良い曲でしょ」
何も見つからない。至って問題はない。むしろ彼が作ってきた曲中で一番好きな感じだとも思った。
「零・・・・・・・・お願いっ、歌詞ナシでいいから仮歌唄って」
そんな零の気持ちを知らずに、真沙希はある提案を言い出した。
「は・・・?今?」
朝方に、何故そんなことをしなければいけないのか?という考えが頭の中に浮かぶ。
「イエスっ!!」
「どこで?今の時間に開いてるスタジオなんてないでしょ。ここじゃ近所迷惑だし」
最もな意見を言うが、真沙希にとって見れば、あまり関係のないことだった。
「だからっ、ちょーどいい場所知ってるのよ。・・・でもその前に、このMD。テープに落とさなきゃ」
まだ、朝の空気は適度に冷えていて、2人乗りの彼らの肌を軽く切り付ける。
「・・・・・まったく・・・・何で明け方に、君のチャリンコをこがなきゃいけないの?」
「悪いねー、あ、そこ左」
腰にしがみついてる真沙希の言うとおりに、来た事がない場所を走る。
「だけど・・・よくそんな恰好で自転車のってこれたよね・・・」
真沙希の服は小柄な体型も手伝い、男物のサイズが合わないのである。
そしてセンスがいいのか、悪いのか。FANからはカワイイと叫ばれるような服ばかり持っている。
さすがに完璧に女性だけの特権のような服は持っていないが、だが着たところで何ら問題がなさそうなところが怖い。
「別に、普段着でしょ?・・・・まぁね、タクシー呼ぶほど、遠くないし。かといって零呼んだら怒るかなぁって思って」
「うん。絶対迎えにいかないよ」
そのうちに真沙希が声を上げる。
その声に反応して零が顔を上げた先は、都内では珍しい雰囲気だった。
「・・・・・・ここ?」
初めは疑った、こんな所でやったらバチが当たりそうだとも思った。
「うん、ここだったら誰も来ないでしょ」
二人の目の前には、今の空のように紅い鳥居が立っている。
「たしかに・・・そうだけど。でも何で君がこんな町外れの神社知ってるの・・・」
「先週、探検してたら発見したの」
お気楽な声で歩調は軽く、その境内の中に入っていった。
「・・・・そう」
「曲、覚えた?」
テープをラジカセにセットする。
「来る時、何回か聴いたから大丈夫だとは思う」
言われた当初、零はいいのかと何度も考えた。しかし、もうどうでもよくなってきた。どうせ、相方しかいないし。
相方は、こんなんでも大真面目だし。
「一介のアーティストが、あんまり境内でラジカセ持って仮歌とらないよね」
それを提案者が言うか?と思わず言いそうになったが、とっとと終わらせようと軽く受け流す。
「まぁ、いいんじゃない?・・・・・んじゃ、いきますよ・・・・」
眼鏡を外す。
「ん、おっけーです」
再生のスイッチを押す。
−静寂が消え去る瞬間−
旋律と共に、声が、この空間の隅にまで走る。
ちゃんとした歌詞がなくても、真沙希が創った5分の世界を彼は表現していた。
いつもの落ち着いた彼とは違う。真沙希の曲の中の人間になっていた。
「・・・・・・・・何だ、そうかぁ・・・」
俯くと軽く括ったゴムを取る。
ダークブルーの髪がぱさっと解かれた。
問題が解決した時に、その行動をするのは彼の癖である。
「わかったんでしょ?」
真沙希の元へ行き、眼鏡をかけて、また冷静な顔に戻る。
「え?」
「君が髪解いてることは解決したんでしょ?」
「うん、まぁ・・・・・」
「何だったの?足りないモノは」
真沙希のもどかしい態度が、気になる。
「いや・・・・うん・・・・わかったけど・・・」
「どーしたのさ?」
そして、零に言った言葉は、意外な言葉だった。
「えーと・・・ねぇ・・・・・零の声だったみたい・・・」
目を一つ瞬かせて、その間に考えをまとめる。軽く沈黙の後。
「・・・・・・・。あの・・・・そりゃ、オケでは僕の声は造れないことは、君は今更・・・・」
零の言葉半ばに必死で弁明する真沙希。夜はもう明けていた。
「いや、だってさっ。零の声でちゃんとした曲作るの初めてだったしっ!
今まで、たくさん曲作ってきたけど、こんなの初めてです。
曲と声が一体になったのって言うのかな・・・じゃあ帰って仕上げしよっ!」
誉めてくれていることは、すごくわかる。でも何だか疲れたのは気のせいであろうか。
零は一息ついて、これがこの人なんだな、と改めて確認した。
「・・・。じゃあ、その足りないモノ、早く完成させなきゃな・・・・」
ぼそっと呟いた言葉が届いてるか、どうかはわからない。すでに出口の所に真沙希は移動していたから。
「零ーーっ」
呼びかけられた名前。人がいたら迷惑になりそうなくらいの声量。
「何です?」
「がんばっていこうなっ!!深崎 零は俺が惚れたボーカルなんだからねっ、絶対他の奴にはやんない」
ニコリと笑った彼の笑顔は、とても24歳とは思えないくらいの無邪気さだった。
「・・・・・それ、言葉に語弊がありますよ。でも。まぁ・・・・・がんばっていきますか、相方さん」
これからがどうなるかは、その時になってみなきゃわからないけど。
朝が始まる。
動き出す人たち。
動き出す街。
動き出す日常の中に僕たちの音を侵入させよう。
「じゃあ、帰ったら"神社でロケット花火。99'(仮)"の詞、頼むよ」
「・・・それ仮とはいえ、・・・いいの?」
→next music?
カンソウ。