[夢見草−Lost realmoon/980411]  


独り、満開の桜を見てた。
近づく月の光は何もかもを見透かすほどに明るかった。

「キレイ」
その言葉しか思い浮かばないほどに、でも
「コワイ」

「桜の樹の下には死体が埋まっている」
誰かの小説だったっけ………?
「何してるの?」
耳に残る声
後ろを振り返ると、彼の黒い髪がさらりと揺れたのを感じた。
刹那によぎった、いつかの出逢いと同じように。
「えっ………?あ、「キレイ」だなぁ。と思って」
「キレイか………」
何かを思わせる口調
「………知ってる?この桜っていわく付きなんだよ……」
彼は音もなく近づき、壊れ物に触るかのようにそっと顔に手をあてる。
「いわく?」
澄んだ瞳を逸らすことなくそう問いた

「この桜は人を狂わせるんだって………」
柔かな笑みが妖艶な笑みにすりかわる。
「え………?」
一瞬の沈黙。鋭い視線。紅い髪に触れる白い指。
………そのまま激しく接吻を交わし合う。

散りゆく花びらが降るまま
薄れゆく理性と絡み合う熱い吐息に何かを奪われた。
「………………オマエの事をずっと想ってた………。でも、もう帰れないから………忘れてほしくなかった」
呪文のように何度も唱える一つの言葉

そして、花びらが彼の躯を攫ってゆく
その横顔は月光に照らされ、この樹の美しさがとりついたように「奇麗」であり「怖く」もあった。



感覚がまだ残ってる。
口唇には一枚の花びら
そして最後の傷の刻印………。

「………信じてれば、あの時、此処で抱きしめていたら………君を無くすなんてことはなかったのに……ね」

一筋の雫が流れて薄紅の花びらに紅く零れてゆく。
もう手を伸ばしても掴めない君の躯

夢見草--------
堕ちていき、壊れた夢でも貴方と共に見ていたかった。