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純文学・推理小説・恋愛小説・思想
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『司馬遷 史記の世界』 武田泰淳 (講談社文芸文庫)
題名に「史記」とあるところから、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』のような作品だと
期待すると完全に裏切られる作品。これは司馬遷の『史記』に対する純然たる批評
であり、単なる人物評判記からは程遠いテクストです。確かに、作者は同書におい
て”政治的人間”を描くことを標傍してはいるのですが、読んでいくうちに人間
自体よりも、むしろ人間と人間との関係性が問題になっていることに気付かされま
す。しかし、武田の凄いところは、「主体とは、社会的諸関係の結節点である」式
のステレオタイプな思考に全く陥っていない点にこそあると思います。
彼は中心の多数性に一方でこだわりながら、他方で人間を描こうとする態度を決し
て手放しません。あくまで政治的人間を描くことによって、読む者をいつのまにか
決定不能な状態へと誘い込むのです。この著書は太平洋戦争中に書かれたものです
が、今でもその新鮮さは全く失われていません。リニアな思考になれてしまってい
る我々日本人には、まさに必読の書でしょう。 |
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「破壊的性格」(『暴力批判論』所収) W・ベンヤミン (晶文社)
かなり難解ですが、読むものを元気づけずにはおかない秀れたエッセイです♪この
エッセイに描かれているもの、それは「破壊」です。しかも、何らかの理念や目的
を全く前提としない、まさに破壊のための破壊である。しかし、何も望まない全き
破壊であるからこそ、人を晴れやかにするのだとベンヤミンはいう。
破壊的性格は、自分が何よりもまず歴史的な人間だ、という意識をもっている。そ
の根本衝動は、ものごとの進行にたいするやみがたい不信であり、つねに「何もか
もだめになるかもしれない」と思って焦らない。破壊的性格とは、したがって、誠
実ということである。そして、ベンヤミンは最後にこう締めくくっている・・・・
破壊的性格が生きているのは、この人生が生きるにあたいするという感情からでは
ない。自殺はやりがいの ないことだという感情からである。 しかし、我々は彼
がナチの手から逃れようとして遂に果たせず、自らの命を絶ってしまったことを知
っている。この事実は、我々には実に重い。
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