ある夜のことです。2階の寝室で寝ていた母は、
「お母さん、お母さん」
という、隣に寝ていたはずの私の声で起こされました。
「どうしたの?」
眠い目をこすりながら、私に問いただしました。
「あのね、ばぁちゃんだよ」
そう言って私が指を指したのは、窓にかかるカーテンでした。
しかし祖母はその時もうすでに亡くなっていたのです。
祖母がいるはずがありません。
「ばぁちゃん、ばぁちゃん、ね、ばぁちゃんでしょ?」
無邪気に母に問い掛ける私は、寝ぼけている風でもなく、
にこにこと笑ったまま、カーテンの方を見ています。
「あれ〜?ばぁちゃんどこか行っちゃたよ」
しばらくして私がそう言うまで、
母は怖さのあまりその場で固まっていたそうです。
後日母が私に聞いたところ、 その時の祖母は入院する前に着ていた着物を身に付け、 私が指したカーテンのところに微笑みながらたたずんでいたそうです。 私の記憶の中にも、カーテンの前に立っている祖母がいます。 しかし、祖母の体が透けてカーテンの柄が見えていたことや、 消える前に私に手を振っていったこと、寂しそうな顔で微笑んでいたことも、 私の記憶の中におぼろげながら残っているのです。