三月十七日、電車に揺られながら水上温泉・水明荘へ 三泊四日の旅に出た。この宿の魅力の 一つはホテルの一泊分でゆうゆう宿泊できることである。ただしタオル、寝巻の交換はなく、 床の上げ下げを自分ですることになっているが、自宅の延長で却って気楽であった。
撮影より休養を主にした二日目は 宿近くから定期バスに乗り 約30分の宝川温泉に出かけた。 乗客はたった一人の外人さんだけ。「今日は」と訛りのない日本語で私達を気さくに迎えてく れた。この友好的な態度に応え、通路を挟み 彼の隣に座り、相手の心境を察し 日本語で話し合う ことにした。流暢な日本語の理由を尋ねると、「東京・日本支社に7年間勤務していました」との こと。今回は22日の東京マラソンに参加するため1週間の休暇を取り昨日来日、今日はお気に 入りの宝川温泉に来たという。高い山の少ない英国では見られぬ残雪で覆われた山々、風景を 興味深そうにしげしげと眺めていた。
終点宝川温泉に到着後、彼と一旦別れ 初めて訪れる温泉地、雪の残る汪泉閣周辺を暫く歩いてみる。 その後、妻と別れ 別々に入浴。しかし ここには4つの露天風呂があり、婦人専用の摩耶の湯を除き あとは 皆 混浴になっている。三つ目に入った日差しの眩しい摩訶の湯で またイギリス人と会う。どうしてこんな 山深い温泉を知ったのか質問すると、英語のガイドブックに紹介されていて有名、これが3度目の宝川 温泉とのこと。彼は左膝が少し痛むので湯治を兼ねやって来たという。また帰りには 温泉から1キロほど 戻ったところの老婆の住む一軒家に立ち寄り、前回の写真を届けたいと言っていた。
1時間ほどの入浴後、少し早めの昼食を取り、次の停留所まで雪景色を撮りながら渓流沿に歩いた。 例の一軒家に近づいたころ 彼が私達に追い付いてきた。以前 ここの主人が描いていることも知っていた。 戸閉めで 無人のようでもあるが 玄関脇の電気メーターが回っている。彼は戸を開け大きな声で「こんにちは」 を繰り返すと応答があった。そこで また私達は一足先に坂上に見えるバス停へ歩きだす。
彼はにこにこしながら 通過時間数分前、バス停にやって来た。おばあさんから伊予柑1個、小さな招き猫 など あれこれ お土産を戴いてきたと満足げであった。私の質問に「文通をしているわけでもなく 突然の訪問、 お互いに名前も知らないでしょう」にはお互い大笑い。信頼、誠実、開放性などが年齢、国境を越えて異国の 二人を長く結び付けている秘訣と想像される。久しぶりに耳にした美談である。彼はロンドン郊外に住み 約1時間 かけ金融会社に勤務しているとのことだが、敢えて彼の名前の聞かず、また 自分自身のことも語らず、ある日 の楽しい思い出に残すことにした。(2009-4-1)
最後に 宝川温泉周辺の写真を2枚添付します。残念ながら混浴は撮影禁止。
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