楽と薬&果と菓宮 (中島 節) -2009. 7. 1-


 

 梅雨も真っただ中、ご機嫌いかがですか?  栗田君の「美術に興味を持つようになったきっかけ」を最近の寄稿文で知り 気恥しい次第です。 これを読み、最近、ある作家が「小説を書くときは 暗闇の中にボールを投げるようなもので、 読者の反応は期待していません」と語っているのを思い出しました。 確かに考えてみると ある言葉が人生を揺るがすことも、 夢や希望を授けてくれることもある。その逆もあるようだが。

 今月は梅雨を吹き飛ばすどころか鬱になりそうな内容なので、 先月9日箱根の湿生花園で撮ってきた花をお見せします。 お暇と漢字に興味のある方はこの後をお読みください。 表題の漢字二組を漢字研究で日本中国、 古今を通じての第一人者 白川静『常用字解』などを参照しながら 漢字語源の受け売りをしてみます。 (白川氏は2004年に文化勲章を受章され、2006年96歳で逝去された漢学者)

 「楽」の元の文字は「樂」で左右の糸飾り「幺」と 中央の白と木(両文字で柄のある鈴をかたどった象形文字)から成り立っています。 舞楽のとき 糸飾りのついた鈴を振って 神を楽しませるのに使った。 また巫女がこれを振って 病魔を祓い 病気を治すのに使用されたという。 神々や病魔を楽しませる鈴は 楽器の役割を担い、 「樂」は「おんがく」、「たのしむ」を意味する文字として使われるようになった。

 そこで 病魔を楽しませ、 あるいは病気を治す薬草を表す文字として草冠を付けた「薬」が考案されました。 中国では薬とは薬草のことで 化学薬品ではなかった。 草冠の元字は 草の象形文字「艸」です。 なお参考までに書き添えますと「楽」は音楽に関係する連語:楽団、楽器、楽譜、雅楽、管弦楽では「がく」、 「たのしみ」を意味する楽天家、行楽、楽勝、楽園、文楽座などの場合は「らく」と読まれます。

 次は「果」、これは木の上に実が付いている象形文字から発達したもので、 「木の実」を意味しました。 花が終わり果実になることは 果樹の成長、 つまり「はたす」に通じることから任務を「果たす」、 結実することから「結果」等にもこの文字は使われるようになりました。 語源、転義には本当に尽せぬ興味が隠されていますね。

 「菓」は字形から草の実を表していますが、 日本語ではなぜか菓子の意味に使われようになりました。 というのは日本では果を「くだもの」、菓を「かし」の意味で使い分けていますが、 『岩波 中国語辞典』によると 本家の中国では菓、果はグオと発音され果物の意味でのみ使われ、 口語では水果儿(日本語の水菓子に相当)とも言います。 そして 菓子は果子とも表記されます。 また興味深いことに『和英語林集成』J.C.ヘボン、 1886でMizugwashiの項を引くと「ミヅグワシ 水果子」が載っています。 とにかく果物を加工したものが菓子の元祖だったらしく、 江戸時代に 菓子と果物を区別するため果物を「水菓子」と呼ぶようになったらしい。

 最近、読めない間違いやすい漢字、漢検等が関心を集めているようです。 お暇な時 机上の片隅で埃を被り欠伸をしている漢和辞典を引っ張りだし、 漢字の生い立ちを読んでみてください。 面白い発見が脳の活性化を図ってくれること間違いなしです。では梅雨を元気に乗り切ってください。

 最後になりましたが、栗田・沼田両君の広大な稲植宅訪問記、 同道したような気分で楽しく読ませていただきました。 この時期に相応しい梅雨空を忘れさせてくれ 晴れのレポートに万歳!(2009-07-01)