この地に合弁会社があり 会議のために何度もモンテレーに行く機会があった。 3時間程の会議のために 日本から4日間掛けてこの会社に出張する。 欧州にある会社とは TV電話などで日本にいながら会議をすることもあるが、 アメリカ、メキシコは 時差の関係でこれも出来ない。 成田空港からモンテレーまで 直行便が無い為 アメリカ、ダラスまたはヒューストン経由で 行く場合が多い。 日本から長旅で やっと辿り着いたモンテレー空港の税関がユニークだ。
1997年11月中旬、成田からダラス経由で 初めてモンテレー・マリアーノ・エスコベード国際空港に到着した。 合弁会社の会議の為 日本から関係者2名と一緒に出張した。 飛行機を降りて 入国審査での手続を終えて 税関検査の前にやって来た。 10名ほどが前に並んでいる。同行者は何度かこの地に来ており 私は二人の後に並んだ。 同行者の一人が、「ここで 今回の出張の運勢が決まります。」と私に言った。
良く見ると 入国者は全員 税関を通る際 係官の横のポールに付いているボタンを押している。 その度 ポールの上のランプが青になったり 赤になったりしている。 同行者の二人のランプは青だった。 私の番になり 係官にボタンを押すように言われ 押してみると赤いランプが点灯した。 その後 直ぐ所持しているスーツケースを開けるよう指示された。 係官は 開けたスーツケースを念入りにチェックしたが 何も課税するものが無かったので 無罪放免となった。 同行者は「今回の出張は 何か不運なことが起こるかもしれませんね。」と嫌なことを言った。
ここの空港の税関検査は 赤いランプが点灯した入国者のみが 所持品を調べられるアトランダムチェック方式である。 世界広しと言えども こんな空港は見たことがない。 しかし 公平といえば公平である。成田空港のように 人相が悪いと調べられるようなやり方ではない。 日本の税関では 全ての入国者が係官に、どこから帰国したのかとか、 申告するものはあるか とか、一言二言必ず訊かれる。 こんな国も珍しい。だが麻薬の密輸なども多い日本では やむを得ないのかも知れない。 寧ろ 日本でこのモンテレー空港方式を採用すれば 摘発率が向上するやも知れぬ。
アメリカの空港の場合、入国審査は かなり念入りにやっていたが、 税関での所持品の検査は殆どなかった。 ヨーロッパは もっと自由で ドイツなど一部の国を除いて 入国審査ではパスポートすら見ようともしないし、 税関には係官も立っていない。日本の鉄道の駅の改札口を通るより楽である。 一度、折角フランスまで来たので その証ぐらい残したいと思い、 シャルルドゴール空港のイミグレーションを出た後 引き返して 係官にパスポートに入国のスタンプを押してくれ と頼んだこともあった。
翌年の3月中旬に 再度モンテレー空港に降り立った。今回は一人での出張である。 税関の前で並んで 前の人たちのランプの色をチェックしていると 4人から5人に1回赤ランプが点灯する。 前の4人が青だった。前回と今回で ここの仕組みは分っている。 恐らく次は赤になるだろう と思いながら覚悟してボタンを押した。 くじ運は昔から強い方ではない。 税金を取られるようなものは何も持っていないが、こんなところで余計な時間を取られたくない。 八百万の神に祈りながら押したボタンは幸運にも青だった。
どういう訳か その後何度も この空港のボタンを押したが これ以来 全て青いランプが点灯した。 くじ運が強くなったのか、それとも面倒な荷物検査をせずにすむよう、 税関の係官が楽をする為に 極力赤ランプが出ないように装置を調整したのか、 はたまた ランプ点灯装置が老朽化して 赤ランプが滅多に点灯しなくなったのか、未だに不明である。 (了)