まず「チップ(心付け)」から。 英語では tipと書きますが、1.先端、頂点、2.(野球)軽打・チップなどを意味する英語も tipですが語源は別です。 また ポテトッチップ、シリコンチップなどのチップは chip(かけら、薄切り小片)ですから混同しませんように。 ところで「心付け」を意味する tipの語原はどの辞書を見ても不明としてありますが、 最近「紅茶の文化史」春山行夫を読んでいたら、この語源について以下のような興味深い新たな見解が述べられていました。
イギリスでは大変な紅茶ブームが18世紀初期に起こった。 コーヒーハウスに行っても順番待ちで、なかなか飲めなかったらしい。 そこでトワイニング店の経営者は、店内の壁にいくつかの小箱をつるし、 それに to insure promptness(早いサービス保証)と書いた紙片を貼っておいたそうです。 つまり 小銭を入れてくれたお客には優先して紅茶をサービスしますという意味です。 この三単語の頭文字から新単語 tipが造られという説です。
ところで 紅茶というと、トワイニング茶とか リプトン茶があまりにも有名ですが、 前者は英国最古(18世紀初期)の紅茶会社の創立者、トーマス・トワイニング氏、 後者は茶の栽培から製造、販売まで手がけた19世紀の千万長者トーマス・リプトン氏に由来しているとのこと。
次は 紅茶の器について一言。 つい最近まで日本人が食べ慣れぬ洋式食事の席に着いたとき、フィンガーボウルの水を飲用水と勘違いし 飲んでしまうので、 欧州人や洋食通のひんしゅくをかったことがあります。 一方、紅茶には受け皿が必ずついてきます。 紅茶は最初 中国で作られ 中国製の茶器と一緒に輸入されていたので、イギリス人は受け皿の用途が理解できませんでした。 そこで 熱い紅茶は受け皿で冷ましてから飲むのであろうと誤解し、そのようにしたそうです。 もちろん 受け皿は熱い紅茶でやけどしないように添えられるものです。
最後は夏目漱石について。 彼はイギリスに4年ほど留学し、イギリス人の生活にも精通していたと思われるが、彼の小説の中で 紅茶に触れた箇所は一つもない。 単語が一回だけ「虞美人草」の中で「・・・給仕 紅茶を持って来い」という呼びの中に出ているだけだそうです。 漱石研究家がいろいろ詮索しているようですが 解けない謎だそうです。 奨学金が少なく コーヒーハウスへ行く金銭的余裕がなかった、勉強一点張りで時間的な余裕がなかった、 生真面目で気晴らしなどに関心がなかった等々。 (2013-05-01)