奇遇三題 at 奥日光
 (中島 節)   -2005. 9. 5-



 先月末、妻と奥日光に2泊3日の旅に出でた。 宿は例により竜頭の滝脇の「幸ノ湖荘」。 第2日目は5時少し前に宿を飛び出し、朝靄のベールをまとう木々、 ぼんやりと左右に聳える山々の間を縫って車をゆっくり走らせた。 1時間前まで降っていた雨のせいか、大自然界の静寂、新鮮さが身に染み入るようであった。 霧、日の出を考慮し先ず戦場ヶ原、それから光徳沼での朝景色を2時間余かけたっぷり撮った。

 光徳沼には男女2人の先客がいた。 「こんなに綺麗な景色ではどこをどう撮ったらよいか分からない」と妻はぼやいた。 長靴履きの中年の女性は沼の中で三脚を移動しながら何かをさかんに撮っている。 朝露と寒さで飛べない赤とんぼを撮っていることが分かった。

 岸辺には三脚にカメラを載せたまま何も撮らずにあたりを眺めているだけの老人。 沼に映るアブラガヤを撮るため霧の立ちこめるチャンスを狙っているとのことであった。 彼は日光市在住の方でカメラ教室講師をしているとのこと。 薀蓄を傾け私たちにたっぷり講義してくれた。

 朝食は食堂へ直行して取る。部屋にもどり一休みしてから車で数分の赤沼に急いだ。 ここから電気バスに乗り換え小田代が原へ出た。 ほぼ満員の客を乗せバスはゆっくりと林の中を潜り抜け目的地に到着。 今度で三度目の訪問だが、前回と様子が少し気落ちした。 水は全くなく、湿原一面が草で覆われ、例の貴婦人は片腕(枝)を下げ、何か荒涼としたものを感じた。

 三脚を広げ始めると見知らぬ初老の女性が私たちに言葉をかけてきた。 「折角の小田代が原を素通りすることは無茶だ。是非ここで降り歩きなさいと運転士に言われたが一人旅。 熊も怖いし、ご一緒お願いできますか」。「私たちは写真を撮りながらの一周ですから時間がかかりますよ。 別のお客さんとご一緒したほうがいいじゃないですか」と家内は答えた。 しかしなぜか私たちに歩調を合わせ、おしゃべりしながら歩くことになった。

 彼女は良い人にめぐり遭い素晴らしい時間をすごすことが出来たと感謝の言葉を何度となく漏らしていた。 原生林の木漏れ日の中を吹き抜ける涼風は実に快感。 時計を見ると12時、昼食は中禅寺湖畔のカナヤホテルのレストランにしようと思っていますと告げると、 「よろしかったら私にも是非ご一緒させて下さい」と弾んだ返事が返ってきた。

 上品な彼女はDという旧家出身の医師に嫁いでいるようであった。 彼女から食後の美味しいケーキとコヒーをご馳走になり、互いに厚くお礼を言って別れた。

 3日目の朝、食卓に座ると、「隣にいるのはOさんじゃない」と妻が言う。 横を見ると紛れも無くかつての写真クラブの仲間、Oさんであった。 ここはOさんの常宿、こんなことも予想はしていたが驚きであった。 半年振りの再会、写真情報を交換し彼らは先に席を発った。(2005-9-5)