鼠経(ソケイ)ヘルニア手術
(中島 節) -2004. 1.28-
「二度あることは三度ある」。
1月のヘルニア手術で、悪運強く開腹手術三度の体験者になった。
ご参考までにこの病気と手術の話をしたい。
成人鼠経ヘルニアとは有り体に言えば脱腸のことです。
原因には老齢化その他色々あるが、「前立腺切除手術も多少関係している」
と私の入院したところの病院長(外科)は説明する。
大きな開腹手術は筋膜(内臓を包む膜)縫合のとき、どうしても他所の筋膜に無理がいくらしい。
手術法にも色々あり、腸が飛び出さないようメッシュ(網)を挿入するだけの日帰り手術もあるらしい。
でもここでは一番安全確実な従来方式を踏襲するとのこと。
ソケイ部、盲腸手術跡の5センチ下を4〜5センチ切開し、
脱出した腸を腹の中に戻しその腸を包んでいるヘルニア嚢を切除する。
そして再発予防のため臓器を包んでいる筋膜と脚の付け根の靭帯を縫合する正味1時間の手術。
次に私の事例を述べます。
12月4日夜、風呂場で右下腹部が小粒の鶏卵大に膨れ上がっているのに気づき不安になった。
翌日早々、以前前立腺を手術した病院を訪れ受診。
医者は開口一番「これはソケイヘルニアですね。外科の診察を受けてください。
直ぐ書類を外科に回しますから」。
外科医も異口同音、「典型的なヘルニアです。完治するには手術しか手はありません、、、、、 」。
5日後の10日は泌尿器科の定期健診を受けてから外科に回り、詳細に手術についての説明を聞く。
急ぐこともないので、年明けの1月14日午後に入院、15日手術に決め、
諸検査(心電図、x線検査、血液検査など)を済ませてから帰宅した。
15日から食事なし。10時の浣腸を済ませ、点滴をしながら午後1時の迎えを待つ。
予定より若干早目の迎えを受け、家族、看護婦さんたちの激励の言葉に見送られ手術室へ。
背中を2,3度入念にアルコール消毒し、先ず皮膚部の麻酔注射、やや間を置いて脊椎の局部麻酔に移る。
剣山みたいな針、氷を下腹に当て麻酔度を2,3回確かめ、準備完了。
いよいよ手術開始。
「御願いします」と医師2名、看護婦2名はさわやかに言葉を交わし、
程なくプーンと肉の焦げたような臭いが漂ってきた。
「これは電気メスを使っている臭いですか」と枕もとの看護婦に尋ねると、
「はい、そうです」と屈託なく答えてくれた。
胸元に手術の様子が見えないようにタオルのついたてが置かれていた。
意識は終始鮮明、医師の頭の動きまで天井灯に映って見えるが話し声は聞き取れない。
血圧計は5分おきくらいにジーンと鈍い音を立て自動的に稼動している。
手術も最終段階に入り先輩医師が若い私の主治医に縫合の仕方を教示しているのが耳元に届く。
間もなく先輩医師は私の枕元に来て「もう少しで終わりますから」と優しく言葉をかけてくれた。
医師、看護婦全員の「ご苦労さんでした」で手術終了。
手術前後に交わすこの簡素な、しかし重みのある挨拶、労りの言葉に患者の私は感動した。
心強い、嬉しい音波となって暫く心地よく私の鼓膜に鳴り響いていた。
術後も針、氷で麻酔からの覚め具合を数度確かめてから、ストレッチャーに移された。
「有難うございました」と挨拶しながら私は手術室を後にした。
家族、病室看護婦の迎えを受け個室に戻った時はちょうど2時半。
その後、暫く家族と雑談。
疲労、眠気もなく大相撲初場所をテレビ観戦しながら興奮気味の一時を過ごした。
夕方の回診「異常なし。寝返りは自由にしてください。ガスが出たら水を飲んで結構です」。
しかし実際は、導尿管の使用、動く時の痛みでそう簡単にはいかない。
午後7時頃、寝返りすると運良くガスが出た。
でも喉の渇きはなく、直ぐ水を飲む気にはならなかった。
次第に麻酔は切れ、足、指を徐々に動かせるようになったが完全回復は夜9時近になった。
なんとなく腰は重苦しく、寝苦しい一夜であった。
翌朝9時半回診。
患部に異常のないことを確認し、ガーゼを交換。
導尿管の除去。
「昼から食事をとってもらいましょう。普通食。散歩もしてください」
と とんとん拍子で回復軌道に乗ることが出来た。
一人でこの喜びを噛みしめる。
その後の治療は点滴、医師の朝晩の回診、看護婦による体温、脈拍、血圧の測定だけ。
幸い点滴は時計の針が17日を指した途端に終了、真夜中、いや極早朝に点滴の針を抜くことが出来た。
これで束縛物は一切なくなり本当に自由の身となり、暫く安眠することが出来た。
17日朝の回診時、20日退院、22日外来抜糸に決まる。
直ぐ朗報を妻に連絡。
というわけで概して快適な日々を過ごすことが出来き、
入院中に三島由紀夫の小説を青春時代に帰り、心躍らせながら二冊読み上げることが出来た。
もちろん朝晩の英語ラジオ講座も聞く。
抜糸は医師の都合で23日に延期になったが無事終了。
長い3本の糸、瞬間的にチクッと痛みを下腹部に走らせ抜き取られた。
この晩から入浴が許され、久し振りに心身ともにやっと我に返った感じ。
その後通院の必要はなく大いに助かる。
退院後はソケイ部に負担をかけぬよう暫く重いものを持ち上げない、
自動車運転をしないの二点が注意された。
急ブレーキは思わぬ力を患部の筋膜、靭帯にかけるとのこと。
患部の腫れが消えるまでには数週間かかるらしいが、もう毎日早足で颯爽と散歩を続けている。
(了)