
今回の団体旅行は珍しいことに往路のチェックインは各自銘々にすることになっていたの
で、トイレに便利なところを希望すると、二席並びの席を後尾に確保をしてくれた。間も
なく神奈川の農協団体のお客が右隣席に座ったが左側には十分な空間もあり誰に遠慮する
ことなく新聞を広げたり、脚を伸ばしたりのんびりと11時間の旅を楽しむことが出来た。
眼下に陸地が見えてくる。地図通りの入り江が現れ、ニュージーランド南島上空に差し掛
かっていることが直ぐ分かり、ほっと救われた気分になる。暫くすると冠雪した山脈が朝
日を浴びいっそう美しく見えてくる。そしてその東側は黒味を帯びた雲海にすっぽり覆わ
れていた。ニュージーランドは秋になりつつあることは知っているが、山脈についての知
識はほとんどなかった。空港の入国検査を済ませ仲間待ちをしているとき、迎えの運転士
から昨日まで三日間山に初雪が降ったことを知らされ驚く。
クライスト空港の手荷物受取所でたまたま麻薬犬の活動振りを見る機会があった。二人
の女性警官に伴われた犬はただ無言のママ鼻をクンクン
させ客の手荷物を嗅ぎまわる。怪しいものを嗅ぎつける
と手荷物の中に鼻を入れお座りしてしまう。そこで警官
がお客に言葉をかけ荷物の中を調べさせて貰うという段
取りになっている。別グループの日本人で嫌疑をかけら
れ取り調べられたが何事もなく本当に良かった。犬もと
きとして過剰反応することもあるのであろう。
待つこと20分、客を
運んできた列車によじ登り(ホームも脚立もない)、他の団体客数十人と一緒に指定車両に
乗り込んだ。ゴールドラッシュ時代は唯一の人間、物資資材の輸送ルートであったが、今
日ではその大半が取り壊されサイクリングコースに模様替えされ、プケランギからダニー
デンまでの最終区間(走行時間1時間45分)だけを一日二往復の観光用鉄道として保存
している。雄大な渓谷の中を走る8両編成の小さな列車は、ときに最徐行し観光客にカメ
ラタイムを与えてくれる。終着駅に近づくにつれ線路脇には黄色に咲き誇るエニシダが多
くなり疲れた乗客を慰めるのに充分であった。
彼は日本に留学した
ことも来たこともないが結構立派な日本語を
話すし、英語のガイドも務めるとのことでし
た。彼から枝にぶら下がっているコケの一種
old man's beard(老人のあごひげ)、日本のコ
ーンフリーの葉に似たold man's tobacco(老
人のタバコ)、ツワブキに似た葉をもつ
Mt.Cook lily(マウントクック百合)、トゲを持った潅木のwild Espanola(野蛮なスペイン
人)、白い花をつけるリンドウ・・・など沢山教えてもらったがとても覚えきれない。日本の
ジシバリ似た花があちこちにたくさん咲いているので、花の名を尋ねてみると「タンポポ」
と教えられたがどうも腑に落ちない。いずれにせよ両者はキク科の植物でありごく近い親
戚なのであろう。残念なことに春夏、綺麗に咲き誇っていたであろう野草の花はもう屍を
残すだけであった。白リンドウがトレッキングコースの道端のあちこちに見たとき仲間は
皆一様に驚いたが、野草に白い花が多いのは、夕方、受粉の仲介役をする蝶に目立つよう
長い年月をかけ自然に変化したと説明を受け、自然の偉大さ
を再認識させられた。同じようなことはダチョウにも言える
とのこと。昼間抱卵するメスは白色、夜抱卵するオスは保護
色の黒だから敵から身を守りやすい。おまけに雌雄の区別が
簡単で人間にとり非常に便利である。私たちが氷河の破片が
流れている川辺での岩に腰を下ろし、気持ち良い涼風を浴び
ながら昼食弁当を食べている間に、ガイドは岩陰で湯を沸か
し私たちの希望に応じ紅茶、コーヒーのサービスをしてくれ
た。またいつの間にかすくい上げた20キロほどの氷河片を
私たちのところに持ち運び、氷河の密度、重さ、光沢を実体
験、さらに氷河を砕き味見までさせてくれた。流れに浮かぶ2〜300キロ級の氷河も一
週間ほどで溶けてしまうだろうとのこと。
クック山は太平洋プレートとオーストラリアプレイトが互いに重なりせり上げて作られ
た山で標高は富士山より20メートル低い3,754メートル、N.Z.最高の山である。温
泉が南島になく北島だけにあるのはプレートの重なり方が違うためらしい。また氷河が溶
け流れ込む湖水の色が見事な紺色、トルコブルーに輝き、闇の中でもうっすらと銀色に染
まっているのは、ロックフラワーという岩の成分が含まれているためらしい。
藍色の海、遠くに望むクック山、氷河の侵食によ
って形成された三角の山々、深い入り江。
北欧をしのぐ壮大なフィヨルドと言われて
いるがノルウエーの実物を見てない私には
判断の仕様もない。両岸の岩山は金銀など
の貴金属を多く含有しているが、国立公園
のため発掘はご法度である。この日は運良く十数メートル先に数頭のアザラシが岸辺を遊
泳しているのを見かけたが、私たちの船が接近すると海中に姿を消してしまった。絶景を
堪能し船を下りると、約4時間また同じ国道をバスで戻ることになったが、羊、馬、牛が
ゆうゆう草を食んでいる牧場、山、林の夕景色もまた観光に値する一駒であった。オプシ
ョンの軽飛行機(所要時間45分、料金12000
円)で帰ったリッチな仲間は6名だけだった。
眼下の黒い林の上にはほんのりとテカポ湖が銀色に
光って浮かんでいるように見えた。
N.Z.でも星空の美しい町として有名なこのテカポには
世界最南のマウント・ジョン天文台が設置されているが、そのドームは数百メートル離れ
た丘の上に静まり返っていた。
湖を見下
す丘に作ら
れたここの
庭園もまた
立派であっ
た。大きな
ホクシャ、
背の高いジキタリス、アマリリスに似たベルドナ
百合などがひときわ美しく咲いていた。大きな蕗
に似た葉をもつ植物は細長い筒状の実をつけ
ているだけだったが春にはピンクの大輪の花を咲か
せとても綺麗だとそこに働く庭園師から教えられた。
またヤマモモ似たオレンジ色の実がとても素敵だっ
た。仲間のあるカップルが口にし「甘酸っぱくて食
べられそうだ」と言いながら吐き出す。すると庭園師が「それは毒だよ。ではサヨウナラ
を言いましょう」とおどけ通り過ぎていった。彼の言
葉を通訳するとカップルは一瞬真に受け唾液まで吐き
出す始末。私も美味しく色づいたのをもぎ取り、齧っ
てみたが問題はなさそうだった。先ほどの「グッドバ
イ」は多分小鳥達の楽しみにしている餌を横取りしな
いでという間接的な注意かもしれない。
ここのホテルは小さな小さな石造りの「善き羊飼いの教会」の近くにあり、本館は三階建
て、隣接して二階建ての別館もあるが外観はパットしない。でも内部は一応満足であった。
コーヒー、紅茶などのサービス設備はどこのホテルにもあった。ただ困ったのは水道の湯
が右蛇口から出ることであった。これをホテルの従業員に質してみると、これがN.Z.の標
準だと云っていたがそうでない事実をあちこちのトイレやホテルなどで体験した。テカポ
の中心街は片側に十軒の食堂、喫茶店、パン屋、土産店、ヘリコプター申込所、ガソリン
スタンドなどが並ぶだけで静かな田舎町である。ホテルの前には手持ちぶさたの消防署も
あった。
テカポから車で約3時間半、黄金に彩られるワ
ナカを期待して行ったが、まだその時期にはなっ
ていない。ワナカ湖畔でバーベキューの昼食を取
ってから45分近く、カメラの対象物を探し続け
たがたいした獲物はなかった。こんな風光明媚な
山間での雷はどうなるか急に気になり、メイドさ
んに尋ねてみると、雷は冬になりますとの意外な
返事に、冬に雷の多い新潟地方を思い出す。
これを見学しないでこの町に来る意味がどれだけあるのだろう。駆け
足で集合時間までにやっとバスに戻り、この発見を居合わせた仲間に話すと、皆残念がっ
ていた。「なぜこの歴史的建物の存在を教えてくれなかったか」と添乗員に大声で文句を言
うと、「皆さんお土産が買いたかったのではないですか」の返事には開いた口が塞がらなか
った。なんと観光客を小ばかにした言葉であろう。なるほど定刻に遅刻する女性が二人い
たが。
N.Z.の輸出はオーストラリアにつぎ日本
が二番とあ
って、外国
語学部では
日本語学科
が一番人気
があるらし
い。ここの
ガイドは日
本人でガイド業の個人経営者。元日本の高校英語教師でダニーデンに短期留学中、現地の
女性と親しくなり結婚し在住7年になるという活発な方であった。参考までにどのくらい
の経費でこの町に一ヶ月滞在できるか訪ねてみると、少し考えてからマンションと食費代
あわせ20万円ぐらいでしょうと意外に安い返事が返ってきた。ちなみに三泊したクイー
ンズタウンでは最近の不動産ブームで郊外の一戸建ては4,5千万円するらしい。お隣の
オーストラリアでも住宅の値上がりは現在大きな話題になっているようである。
最後のオークランドは二晩とも夜が遅く市内をぶらつ
く気力・体力もなく、とりたて書き記すこともない。純
白の帆が彩る国際港町と謳われていても、夕方ハーバー
ブリッジをバスで往復しそこから紺碧の湾内に停泊する
数百艘のヨットを眺め、それから中心地のイーデン山、
標高183メートルに行き、市街地を見下ろしただけで
はその実感は全く湧いてこない。綺麗な夜のスカイタワ
ーと最初で最後のお土産を買った免税店ぐらいしか思い
出に残っていない。それに1章で述べた大渋滞ぐらいか。
そうもう一つ書き足したいことがある。それはツチボタ
ル見学から戻るとき、オークランド手前40キロあたり
から中央分離帯2,3キロにわたりコスモスが綺麗な花を咲かせていたことである。花は
どこに咲いていても旅行者ばかりでなく一般人の疲労回復、また健康管理・増進にとり最
高のセラピーである。