むかし、農家で飼われていたペットと言えばネズミ対策用の猫ぐらいである。
犬は非常に珍しい存在であった。
私の家でもオス、メスに関係なく「タマ」と命名された猫が飼われていた。
私は五人兄弟の末っ子なのでネコが私の唯一の弟(妹)であった。
小学校から帰ると留守番のタマは決まって「ニヤー、ニヤー」と体を摺り寄せ私を迎えてくれた。
夜になるとタマは文字通りの猫なで声で「一緒に寝させて」と鳴きながら私の布団の中にもぐりこんできた。
ぬくぬく暖かく気持ちの良いものであるが困ることが一つあった。
雨上がりの外出から戻り、何食わぬ顔でもぐりこんできた翌朝である。
目を覚ますと布団の中にはすっかり乾燥した小さな土くれがごろごろしていた。
ある朝のこと、悪さ(多分ひよこの捕食)を繰り返したためカマスに入れられ自転車で捨てられることになった。
私は悲しくて、辛くて涙を流した。
これを素早く見て取った母は「悪いことをするネコだから、仕方ないでしょう」と慰めてくれた。
2)カナリヤ。
この小鳥は多分、堀江君から頂戴したと記憶する。
人参をすりおろし食べさせると羽に赤みが増すなどと教えられながら、4,5年飼った。
土浦に引っ越してからも玉を転がすような美声で私たちを楽しませてくれた。
土浦に転任した年かその翌年、塩原に3泊4日で旅行することになった。
困ったのはカナリヤの処遇である。
その上、私たちのミスで鳥籠を地面に落とし、片脚に障害を持つカナリヤになっていた。
餓死させるわけにもいかず、結局住み慣れた籠から解き放し自力で生き延びてもらうしかなかった。
暫く庭先で自由を楽しんでいたが、いつしかどこかへ飛び去ったようで一応ほっとした。
旅行から帰宅したときはどこにもカナリヤの姿は見当たらなかった。
可哀想にカラス、あるいはモズの餌食になってしまったのかもしれない。
3)犬。
現住所の天川に引っ越してから、長男が雑種犬の子犬を友達から貰ってきた。
犬の面倒は兄弟二人ですることを条件に飼うことを許した。
デラックスを短縮し「デラ」という立派な名前をつけることにした。
それから1,2ヶ月経った頃、「オスワリ」、「オテ」、「オアヅケ」の芸は簡単に習得させることが出来た。
次は「ボール拾い」である。たまたま蒲鉾板があったので、これを放り投げてみた。
美味しい臭いが染み付いていたせいか、デラは喜んで追いかけそれをくわえてくれた。
後はそのまま出発点に戻ってもらうだけ。意外な素早い成功に一人悦に入ったものである。
ボール拾いの訓練は蒲鉾板に限る。
犬にも色々ありけりだが、毎日来る新聞、郵便配達人を吠えることはなかった。
また私の帰宅を一番早く感知するのはデラだと家内は教えてくれたことがある。
4,50メートル先の足音、臭いに気づくと、身を起こし「クン、クン」鼻を鳴らし始めたらしい。
この愛犬の世話もすっかり私の仕事になった頃、ついにヒラリヤにかかってしまう。
散歩の途中ばったり倒れ、痙攣を起こし哀れな眼で私を見上げることを繰り返すようになった。
ある日早く帰宅すると、真っ先にデラの死を告げられた。
強い日差しを避けるように家内のさしかざした洋傘の下で静かに横たわっていた。
近所に酪農を営むOさんの好意で即日柿の下に埋葬することが出来た。
4)鯉。
家を建てて間もなく畳一畳半くらいの池を作ってもらう。最初は金魚を飼った。
循環式濾過器も取り付けたが金魚を産卵から孵化、成長までこぎつけたのは一度だけであった。
途中で卵が腐敗したり、食べられたりして孵化させるのは難しい。
間もなく錦鯉だけ4,5匹を飼うことにした。
金魚、鯉はどうしてもイカリ虫に取り付かれたり、白点病、尾腐病にかかったりする。
この予防には定期的に薬剤を投入しなければならない。
があるときは養鯉専門家の勧めで買った染料マラカイトグリーンの分量を間違えて
鯉を全滅させてしまったこともある。
この粉末薬品を池に入れるとまるでマジックをかけたように一瞬にして池の水は鮮やかな緑色に変色した。
でもその時の緑は確かに濃すぎた。
またあるときは家内の与えたキャベツの葉で、またしても鯉全滅の憂き目をみたこともある。
知り合いの養鯉業者から鯉は草食魚だから好物のキャベツを時々やるようにと教えられていた。
そこで私はキャベツを切り刻んでよく餌に与えていたが、それは私たち人間が食べる内側の葉であった。
これを外面的にだけ見ていた家内は廃物利用の一策と誤解し外葉を与えてしまった。
強烈な農薬がこんなにも残留しているとは夢にも思わなかっただけに、驚きも大きかった。
ある春先のこと、土管の中で冬篭りと思っていた2匹の鯉が生存していないのを知った。
猫に捕獲されないよう水位を調節していたのだから、犯人はイタチに違いない。
これを潮時に魚の飼い方について色々勉強の機会を与えてくれた池を壊した。
そこを花壇に変え、現在は錦鯉より綺麗な花を四季折々楽しんでいる。
(了)