ある冬の日のこと。 長らく光を遮っていた雲が流れ、冬の太陽が現れた。 それはまだ高いところにあった。 通りは照らされて、オレンジ色にまぶしく輝き、 俺たちのいる路地裏の影はその濃さを増した。 頭上の太陽は、夏の日のそれと同じように明るい陽射しを 投げていたが、あたりの空気は氷のように冷ややかだった。 そしてそこはとても静かだった。 俺たちの話し声だけが、微かに響くだけ。それはまるで、 休日の午前中、誰もいないのをいいことに、日のあたる 台所の陰でこそこそやってるネズミの声みたいに響いた。 「なあ」 相棒のカシスがオレンジ色に輝く通りを見つめながら言った。 「何だ」 「アイスクリーム・・・」 「何だよ」 「あの夏みたいな陽射しを見てたら、食べたくなってきた。 もう久しくあの甘美な味に出会ってない」 「この寒いのに、妙なこと考えるな」 俺は奴とは全く別のことを考えていた。 もうずっと前のこと、まだ俺が小さかった頃のこと。 俺は今と同じようにこの路地裏にいて、母親が通りで買い物を 済ませるのをじっと待っていた時のことを考えていた。 その時も今と同じようにここは全く静かだった。 そこは全く静かだったが、俺たちは争いのさなかにいた。 昨日一緒に仲良く食事をしていた奴が、今日は銃を持って 襲いかかってくる、そういう争いの中にいた。 それは、いろんなもの、ありとあらゆるものを破壊した。 それはこの小さな町に尊厳を与えていた何百年も前からの 古い(貴重な)建物を破壊し、観光客でにぎわっていた界隈を 見るも無残な姿に変えてしまった。 今いるここも―――そこはとても静かだったが――― 建物の激しい損壊は免れていたものの、壁には真新しい 弾痕の跡が痛々しく残されていた。 俺は通りの向こう側の傷ついた壁をじっと見つめていた。 太陽は地上に、目の前の通りに、明るい陽射しを投げていた。 そこはとても静かだった。 俺は天を見上げた。 崩れかけた建物と建物の間、はるか高いところに、 青く澄んだ空が見えた。 俺は海の底にいるみたいだった。 海の底の岩の間にくっついてる貝みたいだった。 貝は海底から海面を、その上にある太陽の光を、じっと 睨んではいるのだが、誰かが来ない限り、ここから外へは 永遠に出ることが出来ない。まさしく俺はその貝だった。 「なあ、奇蹟はあると思うか」 「何だよ、いきなり」 「神は存在するかってことさ」 カシスは突然の質問に面食らったようだった。 奴とはもう長い付き合いになるが、今まで神や奇蹟に ついて話題にしたことなど一度もなかった。今まで俺は 神を必要としていなかったから。教会にだって、何度か 礼拝につきあわされたきり、行ったことがなかったし、 それ以前に神について、考えたこともなかった。 「そうだな、俺は信じてるけどな。そのほうがまだ希望が 持てる気がするから―――今は夏になったらかわいい 女の子と一緒にアイスクリームでも食べながら、浜辺を 散歩できるとか、そういう奇蹟を起こして欲しいと思うね」 カシスは小さく笑っていった。俺も笑った。 「夏か、夏になればな」 夏になれば、ここから出られるだろうか。 俺は再び天を見上げた。 太陽はまだ高いところにあった。 通りは照らされて、オレンジ色にまぶしく輝いていた。 俺たちのいる路地裏の影は、あたりの空気を 氷のように一層冷ややかにしていた。 そこはとても静かだった。 そこは全く静かだった。 そして信じられないほどゆっくりと、時間が流れていた。 |
update:2000/01/21
眠れぬ夜、サティを聴きながら頭に浮かんだことを書き出してみました。
無茶苦茶です。何せ初めて書いたもので。読んでる本の影響出まくりで、
どこかで見たことがあるようなものになってしまった・・・。
アイスクリームが出てくるのは単に食べたかったからです。
漢字や語句の間違いを教えてくれる親切な方募集中(他人任せ)
中身のほうは、空間がうまくでてるかな。でてないな・・・。
皆様の想像力で補ってください。出直して来ます・・・。