きっと


 当初は激しく動揺した。気が狂うかと思うくらい。 取り乱して、一日中泣いていた。泣き疲れて寝たことも、 何度かあった。今はそんなことすら出来なくなった。 あの人に対する感情は、何かはあるけど、それが 何なのかわからない。ひどく情熱的なことではないのは確かだ。 恨みつらみでもなさそうだけれど、愛情はもう感じられないのかも しれない。ただ、やはりまだ、心の奥には、優しくされたいとか そういう気持ちが残っていて、必要最小限しか喋らない あの人の声を、それ以上に求めていたりする。 この後の及んでまで、まだあの人に優しさを求めている自分が、 やけに健気でいやになってくる。この後に及んでまで、 まだあの人に対してイイコを装おうとしてる自分が、 やけにいやらしくて、ちょっと笑った。

 でも、もう力が尽きた、という表現が当てはまるかもしれない。 あの人のことをどうこうする気力がもうなくなってしまった。 きっと、最後の最後に悪あがきをするくらいで、 それ以外はもう、あまり考えたくなくなっている。 考えると、辛いから。やっぱり涙が出るから。 一気に疲れるから。もうこれ以上泣くのは空しいから。

 一日中あの人のことを考えて、何十回も電話して、 気が気じゃなかった頃が懐かしい。もう、私からは電話できない。 もっと早く話ができたらよかった。そうしたら、 もっと違う話が出来そうな気がする。今では私の心のなかには ひとつの言葉しかない。それが覆えることもない。 今の私を揺さぶるものをあの人は、もう兼ね備えてない。 心が動かない。私も、もうあの人を求めれない。 苦しくて苦しくて、苦しすぎて、頭のなかが真っ白になって。 それで、なくなってしまったんだ。 きっと、時間が経ちすぎたんだ。




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