●大船の本屋

むやみに長文

 今、大船には本屋が6軒ほどある。“ほど”と曖昧な言い方をするのは、大船と一口に言ってもいささか広いので、もしかすると私の知らない本屋もあるかも知れないからってだけだ。
 6軒のうち3軒はインストアショップ。スーパーのサティとイトーヨーカ堂、駅ビルであるルミネウイングの中に入っている(もっともサティの住所は横浜市栄区になるので、正しくは大船はもちろん鎌倉市の本屋でもないことになってしまうのだが)。そして、6軒のうち3軒は半径100メートルに集中している。ヨーカ堂の店だけ少し離れているが、それでも半径1キロ以内に6軒の本屋があることになるだろう。
 大船という街は、ゴチャッとしていて下世話な雰囲気が持ち味のくせに、その実、本屋なんて文化的な店も充実していたりする。

 ところで、現在の大船の駅周辺は、駅前再開発によって、前述のルミネウイングという駅ビルができたり、駅前から鎌倉芸術館に至る道路が整備されたりと、かなりキレイになりつつある。その再開発が始まる以前、今から約10年以上前になるが、メチャクチャごちゃごちゃしていた。特に、このJRとモノレールの駅、バスターミナル、タクシー乗り場の周辺は。
 その頃、JRの改札を出て、右手にある階段を降りると、正面と右手に本屋があった。正面の本屋はルミネが建ってからしばらくして、再開発によって横浜市栄区に移転を余儀なくされた。今、その跡地にはKOBANが建っている。
 右手にあった本屋は、中学生の頃から私のお気に入りだった。が、ルミネを建てるために取り壊されてしまった。とにかくものすごい本屋だったから、店が無くなった時、私はすごくさびしかった。何がすごいってその外観。壊される以前に、自然崩壊しなかったのが不思議なぐらいボロかったのだ。閉っているその店を見たら、廃屋かせいぜいしもた屋にしか見えなかっただろう。
 記憶がかなり曖昧になっているが、確か焦げ茶色の木造2階建てのその本屋は、1階部分が店舗となっており、2階は恐らく在庫置き場にしていたのだと思う。どう考えたって、人が住めるようなところじゃなかったから。出入り口は2カ所。一方は半間の(確か)引き戸がバス通りに面しており、駅の階段側にあるもう一方の出入り口は一間ぐらいの幅、つねに開放されていた。店舗の広さはおよそ6畳ぐらいだったと思う。実際にはもう少し広かったのかも知れない。でも、縦方向に3本、横に1本走る通路以外には床から天井まで書棚があり(正確には中央の書棚は平積み用だったので低かったと記憶しているが)、その書棚には本が「これでもかっ」というぐらいに詰まっていたので、とにかく恐ろしく狭かったという印象しかない。通路もすれ違うのがやっとという狭さ。しかも暗かった。電気代をケチッていた訳ではあるまいが、いつも薄暗かった。
 そんな店だったので、一見の客にはどこに何があるか、見当もつかなかっただろう。でも、当時、商店街がみな早じまいをする中で、11時ぐらいまでオープンしていた根性のある店だったので、常連客も多かったのだろう、いつも店の中は満員だった。もっとも満員て言ったって、せいぜい15人も入れるかどうか…。

 さて、この店にも当然ながらレジはあった。レジは店の奥、狭いほうの出入り口の横にあった。そこに。よく言えばラフなスタイルの、はっきり言えば貧乏そうな格好の中年男性(もしかすると若かったのかも)がいつも暇そうに座っていた。もう2人ほど店員がいたような気がするが、強面と言ってもいいような無表情な顔つきのこの店員が、妙に印象的だったのだ。そのレジの横に、旧型の石油ストーブが1年中、置きっぱなしになっていた。今、主流となっているファンヒーターではないヤツ。なんとその上にも板が置かれて、商品の本が詰まれていた。どんな小さなデッドスペースも作らないという、見上げた経営方針の店だ。
 年中、開けっ放しのこの店は、冬になるとムチャクチャ寒い。モノ置き場と化していたストーブは、やっとその本来の役目を果たすことになる。でも、やはり、火がついているストーブの上にも、相変わらず本は置かれていた。…実に怖い風景だった。本屋と言えば、燃えやすい紙だらけ。そのうえ、店自体も燃えやすい木でできていたのに…。もっとも解体されたその日まで、火事を出すことはなかったけど。
 こんな店の何が気にいっていたのか、かなり足繁く通っていた。だから、無くなった時には親友を失ったような悲しみ(大袈裟だけど)が胸をふさいだ。と言っても、いつも立ち読みしに行ってたんだけど。ヤな客だったな。ほとんど買わなかったし。

 店が壊されてから数年後、私もその店への愛着を忘れかけていた頃、ようやくその跡地にルミネがオープンした。その6階には『アニール』という大型書店とは言えないまでも、中型ぐらいの書店が入っていた。店舗面積はそこそこ広いし、品ぞろえもなかなか充実していた。何しろ駅とつながったショッピングビルの中にあるっていうのは、便利このうえない。寒い思いも暑い思いもしなくて済むし。あの古い本屋(古本屋ではなく)とは大違い。
 ところで、初めてアニールを訪れてからしばらく経ったある日のこと。私は、そこで驚くべき人物を見た。あの無表情な店員が、レジに立って若いバイトを指示していたのだ。しかも、スーツなどを着込んでいる。あんな貧乏そうなカッコしかしていなかったのに…。レジの前に本を持って並んでいた私は、しばし呆然としてその店員を見つめていた。…見知らぬ女に熱い(わけじゃないが)視線を送られて、さぞ薄気味悪かっただろうな。
 どうやらあのボロい店は、中型書店・アニールとして華麗なる復活を遂げたらしい。文字通り『ウダツ』が上がらなかった旧友に再会したら、その友人がなんと大出世を遂げていたっていうような気分。いや、あのボロ屋にも屋根はちゃんとあった(はず)だけど。

 余談だが、最近、大船の6軒の本屋の一角を担っていた『鎌倉書房』が、古本屋に変わってしまった。今の不景気では、こんなに本屋が立ち並ぶ中では普通の経営の仕方じゃおっつかなくなってしまったからか? 以前からよくいろんなモノに手を出す本屋ではあったけど。レンタルビデオを始めたりね。あれは瞬く間に撤退したっけ。古本屋になって悪いとは言わないけど、普通の本屋だった頃の文庫やオタクな漫画雑誌の品ぞろえは、結構好きだったのに。


追記:サティとイトーヨーカ堂の中に入っていたインショップスタイルの本屋が、99年8月、9月と相次いで閉店してしまい、99年11月9日現在、2軒減って4軒となっています。

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