
わかくさ森の入り口に大きな木が一本ありました。その木には、一羽の母鳥が三つのタマゴをあたためていました.「ピッチ、トゥイッチ、プランプ。私のかわいい子どもたち。早くすがたをみせておくれ。外はとてもすてきなところですよ。ピッチ、ティッチ、プランプ。」
母鳥は、やさしい声で三つのタマゴに呼びかけました。
「ピ......、ピ......。」
小さな小さな声がタマゴからきこえてきました。カリカリカリッと音がして、タマゴにひびがはいりました。そして、二羽のひなのすがたがあらわれました。
「まあ、かわいいわたしの子どもたち、はじめまして、ピッチ、トゥイッチ。」
母鳥の声にこたえるかのように二羽のひなはピーピーなきはじめました。けれども、そのひなたちの横の一番大きなタマゴは、なかなかひながでてきません。
母鳥はしばらく、さいごのタマゴをあたためていました。でも、先に生まれた二羽のひなたちはおなかがすいて、大きな声でピーピー鳴き出しました。
「ごめんなさいね。ピッチ、トゥイッチ。お母さんは、今からえさをさがしに行きます。だから、少しの間、待っていてね。」
母鳥は、わかくさ森の方へえさをさがしに出かけて行きました。
母鳥がいなくなって間もなく、残りの大きなタマゴからカリカリと小さな音がきこえてきました。やがて、タマゴに穴があき、中からひなのくちばしが見えました。ピッチとティッチはひなが早く出れるように、タマゴをわるのをてつだってあげました。
「バキッ、バキ、バキ。」
タマゴがわれて、最後のひなの顔が出てきました。
最後のひなは、あまりにも大きかったので、タマゴのからがバリバリっとわれてしまいました。そして、重たそうな体ごと、ゴロンとあおむけに、たおれてしまいました。
「た、たすけて。」
大きな大きなひなといっしょに、ピッチとトゥイッチもタマゴのからの中に落ちてしまいました。
「ピィエー、ピィエー。」
生まれたばかりのひなは、ひっくり返ったまま、足をバタバタさせて、大きな声でなきだしました。ピッチとトゥイッチは、いっしょうけんめいおこそうと、背中で持ち上げようとしました。でも、あまりにも重たくて、持ち上がりません。
「カァー、カッカッカ。」
大きなわらい声が、上のえだから聞こえてきました。まっ黒のカラスが三羽のようすをみてわらっていたのでした。
「大きなタマゴだなーと思っていたけれど、なんてふとっちょなひよこなんだい。カァー、カッカッカッ。」
「カラスのおじさん、わらっていないで、ぼくたちをたすけておくれ。」
ピッチとトゥイッチはたのみました。
「カァー、カッカッ。一人でおき上がれないなんて、そんなんじゃ、大きくなったって、空も飛べやしない。」
カラスのおじさんは、えだの上でひっくりかえって、わらいつづけました。
ふとっちょなひなは、ちょっぴりかなしくなりました。どんなに動こうと思っても、足しか動かないのですから。
やがて、カラスのおじさんより小さなかげが三羽のひなのいる巣の前におりました。
「まあ、まあ、かわいいおちびちゃん。やっとタマゴから生まれてきたのね。」
母鳥が森から帰ってきたのです。そして、やさしく、ひなたちの体の下にはねを入れて、持ち上げてくれました。ふとっちょなひなは、はじめて、タマゴのからから出ることができました。
「かわいい、かわいい私のおちびちゃん、ピッチ、トゥイッチ、プランプ。みんな元気に生まれてきてくれて、お母さんは、とってもうれしいわ。」
母鳥は、三羽のひなをやさしくなでて、言いました。
「しっかし、そんなにふとっちょじゃあ、木から落ちたら、のらねこニャーダに食べられてしまうぞ。カァー、カッカッカ。カァーカッカッカ。」
そう言うと、カラスのおじさんは森の方へとんでいってしまいました。
「さあ、かわいいおちびちゃん、ごはんをもってきましたよ。かわいいお口をあけてちょうだい。」
母鳥は一羽ずつ、口の中にえさを入れてあげました。さいごのプランプには、ほかの二羽よりたくさんえさをあげました。それでもプランプは、おなかがいっぱいになりません。プランプは、おなかがすいているのだけれど、これ以上ふとっちょになりたくないのでがまんしようと思いました。すると、母鳥はやさしくつばさでなでてくれました。
「プランプは、やさしいから、みんなよりおなかがすくのですよ。」
母鳥のそばにいると、プランプはとても安心できるのでした。
「ニャーゴ、ニャーゴ。ニャーゴ、ニャーゴ、ニャー。」
夜になると遠くの方から、何かの声がきこえてきました。
「お母さん、あの声はなあに。」
ピッチが母鳥のつばさの下から、顔を出して聞きました。
「のらねこニャーダの声ですよ。」
「のらねこニャーダって、どんなすがたをしているの?」
今度は、トゥイッチがききました。
「大きな目をしていて、くちばしのようなかたい歯とつめを持っているの。鳥がだいこうぶつで、地面におりてきた鳥をいつもねらっているのよ。」
母鳥がそうこたえると、プランプはカラスのおじさんが言っていたことをきいてみました。
「木から落ちたら、のらねこニャーダに食べられてしまうの?」
「だいじょうぶですよ。お母さんが、あなたたちを守ってあげるから。」
ピッチとトゥイッチとプランプは、母鳥のあたたかい体によりそって、ふかいねむりにつきました。
三羽のひなたちは、ずんずん大きくなって、母鳥と同じぐらいの大きさになっていました。母鳥は、三羽のえさをさがすため、毎日毎日、森の方へとんで行きます。休むひまがありません。
「ぼくたちが自分でえさを見つけられるようになれば、お母さんも休めるのに。」
ピッチが言うと、
「でも、まだ空をとべないよ。」
と、トゥイッチが言いました。
「お母さんと同じぐらい大きくなったんだものもう、とべるかもしれないよ。」
プランプは、はねをバタバタさせて言いました。そのあとプランプは、カラスのおじさんのことばを思い出しました。
『木から落ちたら、のらねこニャーダに食べられちゃうぞ。』
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
プランプは大きな体をゆさゆささせて巣から出ました。他の二羽とえだにならんで、はねを大きく広げました。
「一、二、三でとぶよ。それじゃみんなで、一、二、三!」
バサ、バサ、バサッ!
ピッチとトゥイッチはいっしょうけんめいはねを動かしました。はじめは、地面に落ちそうでした。でも、そのうち二羽は木の上までとべるようになりました。
「あれれ、プランプがいないよ。」
ピッチがまわりを見わたして、言いました。
「ねえねえ、プランプは、まだあのえだにいるよ。」
トゥイッチが下の方をさして言いました。
「おーい!まっておくれよ。ぼくはここにいるよー。」
プランプの声は、巣があるあたりからきこえてきました。プランプは、こわくて、とぶことができなかったのです。
プランプは自分のことを一番体が大きくて、ピッチたちとくらべて、一番強いと思っていました。でも、とぼうとしたとき、カラスのおじさんに言われたことを思い出して、こわくなってしまったのです。
ピッチとトゥイッチはすぐもどってきました。
「空をとぶって、すごくつかれちゃうんだ。」
とピッチが言うと、
「でも、とっても気持ちがいいんだ。」
とトゥイッチも言いました。
プランプは、ニ羽がうらやましく思えました。母鳥が帰ってくると、さっそく、ピッチとトゥイッチは、母鳥がるすの間、ほんのちょっぴり空をとんだことを話しました。
母鳥は、目をまるくして、子どもたちの話を、聞いていました。そのあと、いつものようにやさしい声で言いました。「はねの力がついていないから、とぶには、まだ早いのよ。これから少しずつ、お母さんと練習しましょうね。」
ピッチとトゥイッチは、つまらなさそうでしたが、プランプは少しホッとしました。
その夜、プランプは、となりの木のかげに二つの光の玉をみつけました。
「お母さん、お母さん。あの光の玉はなあに。ずっと、こっちを見ているよ。」
プランプは、母鳥にききました。
「あれは、のらねこニャーダの目ですよ。でも、だいじょうぶ。この木のえだまでのぼってきませんよ。ニャーダは、えものを見つけると、あんなふうにかくれて、しずかにねらっているのよ。だから、声がしなくても、気をつけないとね。」
二つの目の玉がギラッ、ギラッとするので、プランプはこわくなりました。すると、母鳥がやさしくはねで、プランプの体をつつんでくれました。プランプは、安心してねむりにつくことができました。
母鳥は前にもまして、巣にいることが少なくなりました。三羽のひなのために、森へ行くことが多くなったからです。
ピッチとトゥイッチは、母鳥がとぶ練習をしてくれないので、イライラしていました。巣の中で、はねをバタバタしたり、プランプをつっついたり。
ピッチとトゥイッチは、ヒソヒソそうだんしてからプランプに言いました。
「ぼくたちは、お母さんがいない間、とぶ練習をするよ。」
プランプはびっくりしました。
「まだ早いって、お母さんは言っていたよ。それに、のらねこニャーダがいるかもしれないし。」
プランプはお母さんのことばを思い出して、言いました。
「ぼくたちは、この前、ちゃんととべたよ。ニャーダの声もないし、だいじょうぶだよ。」
ピッチがそう言うと、二羽は、はねを広げてとぶじゅんびをしました。
「それ、一、二、三!」
ピッチは、巣からとびたつと、はねをいっしょうけんめいバタバタさせました。あまり、とぶのが上手ではないので、体はどんどん地面に近づいて行きます。
ダダッ、ダダッ、ダダッ。
となりの木のかげから、走ってくるものがありました。のらねこニャーダです。
ニャーダは、バッと地面の近くをとんでいたピッチにとびかかりました。プランプとトゥイッチは、おどろきました。
ピッチはいっしょうけんめいにげたのですがとうとう、ニャーダにつかまってしまいました「ピッチー、ピッチー。」
プランプとトゥイッチがさけんでいると、ニャーダの目がギロリとプランプたちの方をにらみました。トゥイッチは、巣の中でブルブルふるえていました。でも、プランプは、ピッチをたすけたいと思い、巣のふちに立ちました。
ニャーダは、ピッチをくわえて、森の方へ帰ろうとしていました。その時です。
どぉーん。大きな音が、ひびきました。
「ギャーオー。」
ニャーダの頭にプランプがぶつかったため、ニャーダはくわえていたピッチを落としてしまいました。
「シャーアー、シャーアー。」
ニャーダは、おこりました。毛はさか立ち、歯をむきだしています。ニャーダのつりあがった目は、プランプたちをにらんでいました。プランプは、こわくて、ぶるぶるふるえていました。けれども、ピッチの前に立ち、はねを広げて、ピッチをまもりました。
「ギャー!」
のらねこニャーダは、とつぜんころがりだしました。母鳥が、空からいきおいよくとんで来て、ニャーダの目をつついたのでした。
「さあ、早く、ニャーダが来ないところにかくれなさい。」
母鳥はそう、プランプたちに言うと、何度も何度もニャーダの目をつつきました。
「ニャーオー、ニャーオー。」
ニャーダはするどいツメを母鳥にむけてふりかざしました。
「お母さん、あぶない。」
プランプはぜんそくりょくで走って、ニャーダにとびかかりました。足のツメをたてて、ふとっちょな体をニャーダのおなかにぶつけました。
「ギャオー、ギャオギャオー。」
プランプはニャーダがのたうちまわったはずみで、とばされてしまいました。
とんとんとん......。
でも、だいじょうぶ。フサフサしたプランプはけがをせずにすみました。
母鳥とプランプが、ピッチを守っているのを見て、トゥイッチも木からとびおりました。そして、母鳥といっしょにニャーダの体をつつきました。
「ニャーオーン、ニャオー。」
とうとうニャーダは、鳥たちをあきらめて、森へにげていきました。
ピッチは、はねにけがをしましたが、大きなけがではありませんでした。母鳥が、やさしくなでてくれたので、がさがさだった、ピッチのはねは、きれいになりました。プランプとトゥイッチは、あとから来たカラスのおじさんにたすけてもらって、巣にもどることができました。
「ふとっちょさんが、いちばんあぶないと思っていたけれど、なんと、なんと。こんなにゆうきがあるとは。その大きな体が役にたってよかったよかった。カアー、カッカッカ。」
母鳥がありがとうございますと頭を下げるとカラスのおじさんは、森の中へかえっていきました。
母鳥はピッチとトゥイッチとプランプをはねでやさしくつつんで言いました。
「よかったわ、おまえたちがみんな無事で。」
プランプは、母鳥のやさしい声を聞いて、とてもホッとしました。
それから、何日かすぎて、ピッチのはねのきずがきれいになおったころ、三羽のひなは、母鳥からとぶ方法をおそわりました。今では、三羽とも、とても遠くまでとべるようになりました。
もしかしたら、あなたの家の近くの木に、プランプたちが、とんできているかもしれませんね。*おわり*