アストローナ暦171年 2月前期
その日、オレが単独でライカの街外れ近辺を歩いているときだった、ふと気が付くと何やら街の外壁付近で何やら3人の男達がひそひそと話し合っていた。
服装こそはライカの町民だが、それにしてはやけに目つきの鋭い男がこちらから見える。確信は持てなかったが、こいつらは怪しいという直感がオレにはあった。
そこでオレは奴らに気取られぬよう、そっと奴らの話し合いがぎりぎり聞こえる位置まで忍び寄った。
目つきの鋭い男(男1)「だからよ、こいつで・・・」
男2「でも、オレ達の任・・は偵察でそこ・・は・・・」
途切れ途切れに聞こえる会話から察するに、どうやら奴らはディアス国の偵察兵らしい。オレは刀の柄に手をやりさらに近づいてみる。
男1「ちっ、そんなこと言ってるからお前は昇進できないんだよ。」
男3「で、でも、おらぁ、人殺しはしたくねぇだ・・・」
男1「うるせえっ、下級兵の意見なんざ聞いちゃいねえ!」
男3「ひっ・・」 男1「いいか?お前はこの毒をこの街の水源に行ってまいてくるだけだ。下級兵は下級兵らしく言われた事だけやってりゃいーんだよ。」
!?
奴ら、この国の水に毒を盛る気らしい。確かにライカの軍がディアス国に破れれば、ディアス国の海軍に勝てる国は無い、一気に形成が逆転しかねない。これは見過ごす訳にはいかない・・・もっとも、元より見逃すつもりも無かったが。
男1「ほら、さっさと行って来い、この、のろまっ」
「おっとそこまでだ。それをこっちに渡してもらおうか」
男2、3「!?」
男1「おいっ、ずらかるぞっ」
オレが出るや否や、リーダー格の男ともう一人の男が脱兎のごとく逃げ出した、「ちっ、逃げ足の早い奴らめ・・・」。見ると、下級兵と呼ばれていた男が一人、毒の入った袋を持って腰を抜かしている。
「ふん、仲間に見捨てられたか」
男3「お、おら、おら・・・」
男は後ろに這いずるように下がるが、すぐに街の外壁に背中が当たる。
「毒か・・・、ディアス国もずいぶんなりふり構わない事をするようになったもんだな。ゲス野郎め・・・死ね」
男3「ひいぃっ」
カッ !
見るとナイフが男の手に持った毒の袋を貫き地面に刺さっている。男はどうやら気を失っている。
「だれだ?」
オレは刀を抜いたまま、その相手に向き直った。
「殺生はいけません」
凛とした声が響く。女だ・・・それも、かなり若い。服装を見たところ僧侶の服に見える。シスターかなにかのようだが・・・しかし、この妙な雰囲気、それに先ほどのナイフの腕前、この女、かなりの腕前だ
「どうして止める?こいつらは・・・」
女性「その人の目には、戦いの意志は感じられません。それでも貴方はこの人を殺そうというのですか?」
「そいつはディアスの偵察兵だ。生かして帰すわけにはいかない!」
女性「可哀想な方・・・」
!? 女の頬に一筋の涙が零れる・・・
女性「この人は私が教会で介抱いたします。良いですね」
「・・・・・」
オレの返答を聞くまでもなく、女性はオレの横をすり抜け、男をその背中に背負う。
「あんた、名前は?」
刀を納めながら、去っていこうとする女性の背に向かい問いかける。
女性「アルテナ・・・、そこの教会でお務めをしています。」
そう言い残して、アルテナと名乗った女性は去っていった。 その場には立ちすくむオレと、一振りの短剣が残されていた・・・。