アストローナ暦171年 2月後期
オレは宿のベッドに寝転がり、天井を眺めていた。『可哀想』・・・あのとき、あのアルテナという神官が呟いた言葉が頭から離れない。いったい、オレの何が・・・。
テーブルの上に置いてあった短剣を手に取ってみる、あのとき、あの神官が残していったものだ。 手に取って見てみるとずいぶんと使い込まれた品らしいが、手入れが行き届いていてその輝きは鍛えたばかりであるかのようにさえ思える。 しばらくその刃に自らの目を映して考えた後、オレは仲間に少し外出する旨を伝え、街に出た。
「ここか・・・」
街外れの教会、確かあの神官はそこにいると言っていた。ちょうど、説教の時間なのだろうか?何やら女性の熱の入った声が中から聞こえてくる。 オレは扉を押し開け、中に足を踏み入れてみると、思った以上に多くの人がその弁に聞き入っていた。演台を見ると、説法をしている神官はあの神官だった。 オレはとりあえず一番後ろで壁にもたれて終わるのを待つ。
アルテナ「神はみなさんの祈りに応えてくださいます。 しかし、それは努力を伴わない祈りでは意味がありません。 なぜなら、神はわたし達を幸福にするためにおられるのであって、決して我々楽をさせるが為におられるのではないのです・・・」
最後に神官も長椅子の人々も静かに頭を垂れて祈りに入る。オレはその様子を眺めながら、今は亡き家族を思いだしていた。 確か、オレの家族も毎晩、食事の前にこうして・・・
アルテナ「もし・・・」
ふとオレは声をかけられ、我に返るといつのまにか説教は終わったらしい。 そして、あの神官がオレの前に立っていた。
アルテナ「先日はどうも」
アルテナが深々とお辞儀をする。オレもつられるように会釈をする。
アルテナ「立ち話もなんですし、奥に入りませんか? お茶でもお出ししますから」
長居するつもりは無かったが、オレも彼女に聞きたいことがあったのでその言葉に甘えることにした。 応接間のような部屋で、オレはその神官と向かい合って座っていた。
「あんたに、こいつを返しに来た。なにやら大切そうな物だったんでな」
そう言って、オレはテーブルの上に彼女の残していった短剣を置く。
アルテナ「そうですか。それはどうもありがとうございます。」
アルテナは神官らしく丁寧なお辞儀をする。と、そこにノックが聞こえお茶を持った男が入ってきた。 オレは椅子から立ち上がり刀の柄に手をやる。なんと、その男は先日のディアス兵であった。
アルテナ「おやめ下さい。 教会内での武器の使用は御法度です。」
初めてオレがアルテナの声を聞いたときのような凛とした声に制止される。オレは仕方なく刀からは手を放さずに男を睨み付けたまま椅子に再び腰掛ける。 男はお茶をオレ達の前に置くと、一礼をして部屋から出ていった。
アルテナ「どうして貴方はその様に彼に敵意を向けるのですか?」と、静かにアルテナがオレに問いかける。アルテナは男が持ってきたお茶に口を付ける。
「オレには、ディアスのやつなんかと馴れ合っているあんたの方が信じられないが」
アルテナ「彼は初めから我々に敵意など持ってはいません。 それは彼の目を見れば貴方にもお分かりになるはずです。」
「しかし、やつはディアス兵だ。 ディアス兵は敵だ、生かして置く訳にはいかない」
アルテナ「わたしは彼から色々とお話を聞きました。彼が望んで兵士になった訳では無いこと、彼は元々、静かに暮らす農民であったこと・・・」
「まあ、そんなとこだろうな。 兵士の全てが訓練を受けている訳ではなく、下級兵の大半はディアスも、他の国々も農民から臨時徴兵された者がほとんどだ。 しかし、それでもやつがディアスの戦力であることには変わりはない。」
アルテナ「確かに、非常に哀しいことに、わたし達の国はディアス国と敵対関係にあるのかもしれません。ディアス国の行っている行為は、許すことの出来ない事があるかもしれません。 しかし、ディアス国は確かに敵対国なのかもしれませんが、そこにいる全ての人間が悪では無いのです。」
「・・・偽善だな。 現実に奴らが兵士として戦争に駆り出されている以上、それはオレ達にとっては敵だ。」
アルテナ「では、それが戦う意志の無い者でも貴方にとっては敵なのですか? 殺さなければならない理由がどこにあるのです?」
「・・・・・」
アルテナ「貴方の瞳には、どこか、哀しい光があります。 あなたにとってこの戦争は、この国を守る以外の理由があるからなのでは無いのですか?」
「・・・・」
アルテナの言葉がオレの頭を駆けめぐる。そして、無惨に殺されていった、オレの家族達の顔も・・・
アルテナ「良ければわたしに話してみませんか? 不肖ながら私とて神官です。」
・・・・オレはぽつりぽつりと家族の事、自らの戦う意味を彼女に話した。 彼女を信用したわけではないが、彼女の雰囲気がそうさせたように思う。
アルテナ「そうですか・・・その様な事が・・・。貴方の家族のご冥福をお祈りします」
「死んだ家族の幸せを祈るなんて事はいらない。 しかし、オレは無惨に殺された家族の為に、ディアス国を倒す!」
アルテナ「それは貴方の家族の為、なのですか? 貴方自身を許せないから、それでディアス国そのものを憎んでいるのでは無いのですか?」
「・・・」
アルテナ「貴方の家族が、そうして貴方が復讐の為にその身を染める事を望んでいると思いますか? 貴方に家族が居るように、貴方がディアス兵を殺してしまったら、それは同じ悲しみをこの世界に増やしてしまうことになるのではないですか?」
「・・・あんた、オレに戦いをやめさせたいのか? そいつは無理だな、オレは今のディアス国を許しておけるほど・・・」
アルテナ「いいえ、是非とも戦い続けてください。」
にっこりと微笑み、アルテナがオレの言葉を遮る。オレは彼女の言葉に面食らう。
アルテナ「貴方は今まで自分の悲しみを紛らわすため、多くのディアス兵の人を殺し、多くの悲しみを生み出してきたのでしょう? ならば、貴方はその贖罪としてこれからも戦い続けてください、ただし、これから先の戦いは同じ悲しみをこれ以上生み出さない為に。」
「?」
アルテナ「これは貴方にしか出来ない戦いだからお願いするんです。 哀しみを知っている貴方だからこそ、これ以上同じ哀しみが増えることを止められるはずです。」
しばしの静寂が部屋を包む・・・
「・・・負けたよ、あんたには。」
苦笑してオレが答える。
「オレにはまだ、ディアス国の奴らを許せるとは思えない。 でも、オレだって、こんな哀しみを止めなきゃいけないって事くらいは分かる・・・・、やってみるよ、あんたの言うその戦いを。」
アルテナ「ふふ、ありがとうございます。 それでは、教母の名において、貴方を聖フェルアーナ教会のテンプルナイトに任じます。」
「って、あんたがここの教母!? ち、ちょっと待ってくれ、それにオレは別にここに入信するとかいうつもりも・・・」
不意の事にオレは慌てふためく。まさかこんな若い(*)女性が教母だなんて思わなかった・・・。
アルテナ「別に貴方は教義に縛られたり、貴方の生き方を束縛するつもりはありません。貴方がお嫌ならどうぞ受けて頂けなくても構いません。」
「・・・分かったよ、まあ、これも何かの縁かもしれないしな。受けてや・・・いや、お受けしますよ、ただし、見習いでね」
苦笑しながらオレは手を振って答える。
アルテナ「そうですか、それでは貴方はテンプルナイト見習いに任じます。これは誓いの印として受け取ってください。・・それと、今まで通りの言葉遣いで結構ですよ」
にっこり笑って、教母アルテナが差し出したのは、オレが届けに来た彼女の短剣だった。
注(*見た目は若い女性ですけど・・・アルテナさんのキャラデータを見ると、年齢がものすごい事にっ!? Σ( ̄□ ̄;) (笑)
種族が違うとかなんだと思いますけど・・・そこんとこはどうなんでしょう?アルテナさん(笑) )