アストローナ暦172年9月

 

じゃりっ・・・

瓦礫を踏むと、なんとももの悲しい印象がするのはオレだけだろうか・・・
「3日前の喧噪が嘘みたいだな・・・」
特に誰かに対して言った言葉では無かったのだが、今はそっと弥都波がオレの手を取ってくれる。温かな手だった。

 3日前、オレと弥都波は夫婦になった。そう、本当に楽しい結婚式だった。 そしてその直後、この戦乱のさなか、新婚旅行などとしゃれたもののつもりでも無かったが、オレと弥都波は二人でここルシアールに来ていた。  期限は一週間、その後はまたいつもの様に戦いの日々に戻ると仲間達に約束し、3日かけてここに来ていた。今日一日この街に滞在した後、またすぐに戻らなければいけなかったが、それでも弥都波は反対せずに付いてきてくれた。 ルシアール…オレが生まれた土地、そして弥都波と初めて出会ったこの街へ。
弥都波「お義父様やお義母様に挨拶したいですしね」
と、照れながら言ってくれた言葉が印象的だった。 そして今、オレ達は二人で、今は瓦礫の山と化したオレの家に来ていたのだった。

「何年ぶりだろうな・・・我が家に帰って来たのは・・・・、オレが家出中、旅先でランフォード家が夜襲を受けたと聞いて駆けつけた時、すでに今みたいなありさまだったよ。 そして、それ以来、ここには来ていなかったな。 そして、その時にこいつを見つけたのさ」
 オレは背中に背負った家宝の刀、『無命』を軽く鳴らして言った。 オレが見つけた時には焼けただれ、とても刀としては使い物にならなくなっておりオレは簡単な修繕だけ済まして持ち歩いていたのだが、結婚式の一週間前、高名な鍛冶屋「チェスター=ハイライト」に頼んで完全な形に修復してもらったものだ。
弥都波「どこが、リーダーの・・あ、いえ、カズの、部屋だったんですか??」
旅を始めてからずっとオレのことを"リーダー"と呼んでいた弥都波は、まだそう呼ぶクセが抜けていない。照れくさそうに言い直しながらオレに訪ねた。
「オレの部屋、って言ったって・・・見ての通りの瓦礫の山だぞ?」
弥都波「いいんです、知りたいから」
オレ達は少し移動して、元はオレの部屋の有った位置に案内した。
「この場所の2階部分がオレの部屋だったよ」
弥都波「へぇ・・・ふふっ、ここでカズは子供の頃から育ったんですねぇ」
弥都波は感慨深げに辺りを見回している、まるで子供の頃のオレを探しているかのようだった。
弥都波「ねえ、他の部屋も見てみたいです、案内してくださいよ♪」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべて弥都波がおねだりする。 オレは苦笑しながら家の説明を始めた。 ・・・ガキの頃よくつまみ食いをしてはメイドに怒られた厨房、よく家族でくつろいだ居間、壺を割って怒られた応接間・・・それぞれの部屋のあった場所を巡り、そして説明していると、しばらく忘れていたオレ自身の子供の頃の思い出が次々と浮かんできた。 そして、弥都波も興味深げに、説明の下手なオレの話を聞いてくれた。 そして、最後にオレの親父の部屋を訪れた。

「ははっ、ここもずいぶんと壊れちまってるな・・・面影なんてほとんど残ってない」
弥都波「ここは?」
「オレの・・・親父だった人の部屋さ」
弥都波「お義父様・・・どんな方だったんですか?」
「ふっ、最低の親父さ・・・、家族よりも家や誇りの方が大切な、先祖の栄光にしがみついていた人間だったよ。 ガキの頃からよく聞かされたものさ、『うちのご先祖様はな・・・』とか『お前はわたしの跡を継いでこの家を守れ』とかな・・・オレはそんな過去や形の無い物に捕らわれている親父が、大嫌いだった」
弥都波「カズ・・・」
 それきり二人の間には沈黙が降り、弥都波は今まで回ってきた部屋と同じく、あたりを見回していたが、少し大きな瓦礫の前で立ち止まった。
弥都波「これは??」
「ああ・・・そいつはさっき言ったうちのご先祖様の石像だとよ、親父が大切にしていたな」
そう・・・オレはこの石像が大嫌いだった。ガキの頃、この石像に触って親父にこっぴどく叱られたものだ。 そして親父に反発しだした頃、この像を大切にする親父を見て、オレはそんな過去の栄光にすがる親父を軽蔑したものだった。  しかし、その石像も今では上半分が完全に無くなっており、刀の鞘をつけた腰から下だけが立っていた。もはやその石像の顔を見ることは無い・・・オレは石像が嫌いだったはずなのに、そんな様子を見て、正直複雑な気持ちを感じた。


弥都波「あら??」
「どうした?」
弥都波「いえ・・・ちょっとおかしいな、って」
「はあ? 別にただの壊れた石像だろう?」
弥都波「でも、この石像ってとても大切なものだったんでしょう? それなのに・・・ほら、内側がほとんど"がらんどう"なんですよ。 本当に大切な像なら1つの石を削りだして作った方がずっと丈夫で楽ですよ。」
言われてのぞき込んでみると確かに中はがらんどうのようだった。
「もしかして、中に何か入ってたのか? そしてディアス兵の奴らに奪われてしまったのか・・・?」
弥都波「その可能性も・・・否定できませんね」
と言いつつも、弥都波はその壊れた石像が気になるのかなおも念入りに調べている、この辺はシーフの血が騒ぐのだろうか? 見ているのもなんなので、オレも一応一緒に石像を調べていた。
弥都波「んん〜〜〜〜〜っ」
弥都波は石像を押そうとしたり、回そうとしたりしていた・・・が、石像は少しも動かなかった。オレも手伝ってみたが結果は同じだった。
弥都波「おかしいですよ、これ。 こんなに中はがらんどうなのに少しも動かないなんて」
「床に固定されてるんじゃないのか?」
弥都波「いえ、ほら、見てください」
弥都波は懐から紙を取り出すと、石像の下に滑り込ませた。確かに石像と床の間には固定されていないようだ。 弥都波は石像のあちこちを調べながら、考え込んでいる。
弥都波「ねえ、この鞘って剣が刺さってました?」
オレは子供の頃の記憶をたどってみる・・・
「そういや、同じく石造りの刀が刺さってたな」
弥都波「ねえ、ここ見てください。 ほら、石造りの鞘なのにきちんと中が空洞なんですよ。刀も石ならわざわざこんな抜き差しできる作り方にする必要なんて無いのに」
「なるほど・・・いや、オレ自身、その石の刀が抜けるようになってるとは思いもしなかったな」
 今は石造りの刀が無いところを見ると、おそらくこの石像をディアスの奴らも調べたんだろう。
弥都波「たぶん・・・鍵はそれです」
と言って弥都波はオレの背中の『無命』を指さす。
弥都波「この石像は、最初のその剣の持ち主の人なんでしょう? 確か、その剣は確かカズが『家宝で先祖代々伝わってる』って・・・たぶん、これ以上の鍵は無いんじゃないですか?」
「まさか、この刀が・・・?」
オレは、弥都波の話に引き込まれるように聞いていて鼓動が早くなっていくのを感じた。確かに弥都波の話は筋が通っているが、まさかこの石像にそんな秘密が有ったとはにわかに信じがたかった。   そして、それを確かめてみる手段は1つ、この刀『無命』を石像の鞘に刺してみることだった。

 オレは背中から『無命』を抜き、ゆっくりと石像の鞘に納めていく・・・・刀は何の抵抗も無く石像の鞘に入っていった。 ・・・かちっ・・ そして完全に刀を鞘に納めたとき、何か金具の外れるような音がした。 弥都波は2、3度、石像を触っていたが、にこっと微笑みをオレに向けた後、石像の一端を軸として今度は簡単に回転させた。
「こっ、これは・・・・」
弥都波「・・・入ってみましょう」
石像のあった位置には黒々とした穴が空いており、地下に向かってはしごが降りていたのであった。

 

<続く>

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