加代はまだ辺りをきょろきょろ見回していた。けんの姿はまだない。分かっているのはグレーのコートを着ているという情報だけ…。人通りの激しいこの道でグレーのコートを着ているのは腐るほどいた。その度に加代はいちいちドキドキしていた。こんなに考えてもしょうがない。加代はもう人の姿を見ないことに決めた。うつむきながら時が過ぎるのを待つ。もしかしたらけんは遠くの方から私を見ているのかも知れない。加代は次々と新しい想像を膨らましていた。
改札へ向かった谷野の視界の中にこの寒いのにミニスカートをはいている女性が飛び込んできた。遠くから見るだけでも妖艶な感じがにじみ出ている。
(この女性が…?)
谷野は慎重に周りを見渡した。加代らしき人物は他にはいない。谷野は改札の端から加代らしき人物をしばらく観察することにした。線は細いが出るところは出ている。谷野の想像をはるかに越えるスタイルのいい女性がそこには見えた。しかし、うつむいているため顔はあまり見えない。ロングの髪に顔が隠れていたが、知的っぽい感じはする。谷野はこれが加代かどうかを悩んでいた。
加代はまだ考え事をしていた。ひょっとしたらけんはもう私の顔を見て帰ってしまったかも知れない。携帯を手にとる。連絡はないようだ。時計を見るがもう9時を回っている。不安になって周囲を見回した。グレーのコートだけを探した。人通りが激しくてよく見えない。ふぅと一息吐いてからまた携帯を見ようとしたその時、改札口の端で加代のことを見ている人影を発見した。グレーのコートを着ている。加代は心臓が激しく鼓動を繰り返し始めたのに気が付いた。
(あの人…?)