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■ 異邦人「超常領域」改題  著:半村良 祥伝社 ノンポシェット 2000/4
「長編伝奇推理小説」
二人の物理学者が興味本位で作った 亜空間に一つの都市がまるごと閉じ込められる。 選挙違反で逃亡中の主人公はそれが閉じる寸前に飛び込み、最後の訪問者となる。 閉じ込められた人たちは、地図や歴史の記憶を消され 疑問を抱かない様に改造されていく。 本の地名の部分がまっしろになっていくところは 戦時中の検閲を受けた手紙や教科書を思い出させるものがある。
外界とのつながりが断たれた空間は あっというまに食糧危機となり、人が人を喰う修羅場と化すが、 ただ一人、亜空間の意思に反して疑問を持ちつづけ 外界の存在を認識しつづけた主人公が亜空間を作り出す装置を見つけて破壊する。 そして危機一髪で助かるというお話。 体制に流されず、自分の頭で考えるという基本からはずれなかった 主人公とその恋人だけが生き残る事ができるというのは 痛烈な社会風刺だと思う。 ともすれば横並び意識偏重になり、自分のものさしをなくしてしまいがちな 世の中に注意を促しているように思えた。


■ 浮気人類進化論  著:竹内久美子  晶文社 2000/3
「浮気人類進化論」
この本によると、動物学的にみて、がんじがらめにされている 厳しい社会よりも、抜け道や多くの選択肢をもつ いい加減な社会の方が柔軟で融通がきく。 それで重大な犯罪(子殺し)が防がれているらしい。
もちろん 動物の世界=人間世界と置き換えられる訳ではないが 共通する点も多々あると思う。 このいい加減な社会は、人間社会にも言えそうである。
浮気を奨めるわけでは無いが、子殺しよりはいい。 男性にとってはまことに都合の良い論理になる。


<<理科系男の逆襲>>

★話術の巧みさがものを言うあらゆる分野で成功を収めている男が 私生活上のスキャンダルをネタにせっかく築いた地位までも 危うくされているという事態が頻繁に生じている。

★男が口説きの能力を進化させたといってもすべての男が女たらしだというわけではない。 口べたで女にどう声をかけてよいやらわからないというウブな男もかなりの割合で存在する。 私が長年在籍してきて京大理学部など、まさにそういう男たちの巣窟であった。 こういう男は子孫を残す競争においてきわめて不利なはずである。

★そのハンディにもかかわらず彼らが今日繁栄を築くことができたのはなぜか?

★人類進化の2大要因であると考えられる狩猟と戦争 ここで道具や兵器を作ることが得意な理科系男は そのことによって血縁者の生存に大いに貢献できる。 アメリカに移住して諸手をあげて歓迎されたアインシュタイン、フォンブラウンのように、 戦時下においては優秀な科学者は敵味方にかかわらず重宝され生き残ることができる。

★つまり理科系男は、文化系男(言葉遣いがうまく浮気に精出すタイプ)が平和時に繁栄した分を戦争を通じて取り戻し勢力を挽回することができる。

★理科系の才能が兵役を免れることを保障するものであれば、 この才能は、早く開花しなければ意味がない。 つまり徴兵検査の年齢頃までには、である。 これを裏付けるものとして、理科系型の秀才は概して早熟であるという傾向を挙げることができる。 彼らはたいてい子供の頃から非凡な才能を発揮して周囲の人を驚かせたりする。 彼らの最大の業績がほとんど例外なく20才までか、遅くとも30代前半までになされた仕事であることを考えてもよくわかる。

★ではもし戦争が打ち続き長期にわたり世情が理科系男に有利に働くとどうなるか? 理科系男どうしの競争が激しくなりちょっとやそっとではその科学的才能がちやほやされなくなる。兵役を免れることさえ難しくなる。 信用度の高い理科系男の急増は、女の男に対する警戒心を解きほぐす効果があるかも知れない。 真面目で仕事一筋、女は女房一人で十分、男とは大概そうしたものだという認識が女のあいだで広まることになる。そうなると俄然はりきってくるのが、口のうまい文化系男たちである。彼らはやすやすと警戒心を解いた女を騙し、いたるところで成功をおさめるはずだ。そうして増えすぎた文化系男に再び女は警戒心を強め理科系男が株を上げる。。。。というサイクルが繰り返される。


これはほんの一部分にすぎないが、私はとても偏った乱暴な見方だと思う。 竹内久美子自身も男のタイプだけを問題にし、 女に関してはまったく言及していないのは片手落ちだと言っているし、 人間のタイプが理科系と文化系ですまされるはずはないと言っている。 ただ、京大の理学部に在籍し研究者としての生活が長かった著者が その生活の中でつちかった価値観がむき出しになっているようで おもしろい。本人の一番得意な話題でのびのびと書いているような印象を受けた。 不特定多数に媚びたり気遣ったりせず、書きたいことを書く方が良い。 どう判断するかは読者に任せればいい。 私はここを読んではじめて竹内久美子に好感がもてた。 彼女が結婚しているのかどうか知らないが もし結婚していたとしたらたぶん寡黙な理系男に違いない、そんな気がする。


■ 小さな悪魔の背中の窪み  著:竹内久美子  新潮社 2000/3
「小さな悪魔」とはカッコウの雛で、その「背中の窪み」は 託卵先の鳥の卵を背中にしょって巣の外に運び出してしまうためにある・・・ タイトルの説明ではじまって、血液型と性格の関連、 どんなタイプが長寿かなど興味深い話題ばかり。
なるほどと思ったのは、P式血液型判定。
血液型物質の糖鎖の違いがP1型とP2型に分けられるというもの。
P1が低不安、P2が高不安、ちなみに★日本人は、3対7の割合で高不安が多い、
★白人は8対2の割合で低不安が多い、
★黒人は9対1の割合で低不安が多いという数字が出ている。
P2型の人は@心配性で、A情緒不安定、B物おじする、C自己統御能力が低い (葛藤に陥りやすく、衝動的になりがち)、D緊張しやすいと書いてある。
私も日本人の7割を占めるP2型に属しているに違いないと思う。
次に、「ネオテニー的」この本を読んで初めて知った言葉、 日本語に翻訳すると「幼形成熟」。
その特徴とは、@毛深くない、Aアゴが小さい、B頭が大きくて丸い、 C肌がきめ細かい、D頭髪がしなやか、Eしばしば泣く、F強情、G我侭、Hシャイ、I内気、 J好奇心旺盛、K想像力豊か、L放心癖、Mうわの空、N思考が柔軟である。 こういう人が長生きする、 子供時代の長さがトータルとしての寿命を引き伸ばすらしい。
比較的長生きの職業である生物学者、画家はネオテニー的性質を持った人が 多いからではないかと書いてある。どう考えてもサラリーマンは短命だと思った。


■ 園芸家12ケ月  著:カレルチャペック 小松太郎訳 中央公論社 2000/2
どのページをめくっても庭に、執着するあまり滑稽な行動をとる園芸家の様子が面白可笑しく書かれている。 期待していた雨が降ったかと思えばどしゃぶりの災害。 はげちょろけの畑を見つけて新しい苗を買い込んできたかと思うと そこには何か新しい芽がビッシリと出そろってるといった具合。 底辺にあるものは「失敗する可能性のあるものは必ず失敗する」 というマーフィーの法則だと思う。 本人はいたって真面目で一生懸命でもやってることがことごとくマが抜けていて ひどい有様になっていると、気の毒を通り越して大笑いしたくなることがある。 この本は全体がそうなってる。 訳注の「厩肥」の項が可笑しい。ちなみにここは土にやる肥やしの説明。訳注まで笑える本も珍しい。


■ ガラス病  著:御木達哉  1999/11
世界で15例くらいしか症例がないという奇病、タイピストやキーパンチャーではなくピアニストに多く発病する。指先からだんだん硬化がはじまりしまいには心臓に達してしまうという、硬くなった指は透明になり、合わせるとコツコツと音がする・・・・ここまで聞くと怖いでしょう?でもご心配なく!これはフィクションですからね。内容紹介はここまでにして、この本の著者の経歴がユニークです。法学部に学び、独文科に学び、ドイツに留学して3年間カフカを研究し、帰国後医学部に学び、医学博士となる。現在、某大病院の副医院長。現場の医者として感じている矛盾が本音で書かれているようで興味深い。まじめな医療行為が社会の仕組みに阻まれたり、患者はときとして医者の研究者としての名声を上げるための犠牲になったりすることなどなど。。。ガラス病という奇病を通じて象徴的に描かれている。おすすめです!!!


■ バナナフィッシュ  著:吉田秋生 全11巻 小学館文庫  1999/9
ひさびさの長編アニメ。 漫画苦手の私が一応最後まで読み終えることができた。 バナナフィッシュとは、麻薬のような薬で外からのスリコミ、マインドコントロールが可能になるという、 恐ろしい薬のこと。 バナナフィッシュに出会ったら自殺したくなるという言い伝えにちなんで命名したという下りもあるから、 実際にそういう名前の魚がいるのかも知れない。この著者は女性、知らなかった。

「バナナフィッシュ」はsakuraさんのお薦めだったんです。 コミックだったけど、3日で11巻一気に読みました。 最初の3巻くらいまでは、フーン漫画だくらいでタカをくくっていたのですが 読み進むうちに、完全にアッシュに惹かれ始め英二との男性同士の愛にも似た信頼関係がとても心地よく感じられてきました。 アッシュは、自分が殺られそうになるから、相手を殺さなければならなかった。 多くの人間を殺してしまった。いやこれからも殺さなければ自分が・・・・。 その苦しみから解き放たれたのは自らの死によってしかなかった。 不思議に、彼が死んでも「あ、これでよかった」と思えるのは、英二の愛がアッシュに永遠の幸せを与えることが出来たと思える事。 読了後にしばし余韻がのこり、あまずっぱい不思議な気持ちになりましたね。


■ 柔らかな頬  著:桐野夏生 講談社 \1800  1999/9
直木賞受賞作品。こういう受賞作品はいままでハズレが多かったので 積極的には飛びつかないようにしているが、 テレビでとても後味の悪い本だという紹介をしていたので なんとなく興味があった。 内容は、行方不明の娘が最後まで見つからないというストーリー。 でも、描きたいことの中心はそんな娘を持つ母親の気持ちの移り変わりとかそれを取り巻く個性的な人々の孤独や不安であって謎解きの推理小説ではない。前評判ほどの不快感はなかった。むしろ読み始めたら引き込まれるような感じで最後まで一気に読める、力作という印象だった。

主人公のじれるくらいの孤独感はよくでてたけど。なんで共感できないんだろうっ て考えたら、たぶん主人公がひどく自分勝手なので腹がたってしまうんだと 思った。自分にそっくりの我が子がいなくなってしまった「喪失感」はよくでて たけど、生き方そのものがひどく自分勝手で、周囲の人間にひとかけらのおもい やりもない。その象徴が「自分にそっくりな子」なんじゃないかなあ。 「自分の子どもにも愛情の多少がある」みたいな表現が出てくるけど、その通り 自分に似ていない子には本当に冷たい。夫にも愛人にも、自分の思い通りにならない となるとばっさりと捨てているし。 それが現代における「孤独感」であり「喪失感」なのかなと、かなり肌寒い思い をした。 主人公の孤独感って「だれもわかってくれない」って深くなるけど、自分は全然 わかろうとしないし、かなり攻撃的でもある。