空を飛んでみよう

『お前ってさ、浮世離れしてるよな』
いつもこう言われていた。確かに僕には友達は少なかった。いや、多少会
話をする程度の友達ならいるが、お互い心を許し合った友達というのはい
ない。
 他の奴らが笑顔で話をしているのを横目で見ながら、ぼくにはそんなも
のは必要ないと思っていた。感情論などに流されるような古いタイプの人
間ではないと自分を弁護していた。
 違うんだよ。僕が浮世離れをしているんじゃないんだ。みんなが僕に着
いて来れないだけだよ。僕はみんなと違うんだ。ぼくはみんなのようなも
のは必要ないんだ。友達なんていらない。他人の人生に介入してしまえば
背負わなくてもいい問題まで背負い込んでしまう。他人の人生に興味を持
ってしまえば、それだけ自分の今までの人生が惨めに思えてしまうから。

 待てよ。なぜ僕は自分の人生を他人と比較して惨めに感じてしまうん
だ? 僕は他の誰と比較しても決して見劣りのすることのない素晴らし
い人生を歩んでいたはずだ。それなのになぜ惨めと感じる? なぜ一人で
孤高に生きていくことが惨めなんだ?
 そうだ。素晴らしいことじゃないか。他人との馴れ合いを一切排除した
ぼくのこの人生は誇るべきものだ。生まれたときから友達なんかいなかっ
たし、必要だと思ったこともなかった。必要なことは全部自分で出来た。
自分一人ですべて事足りたんだ。今更なぜ僕が他人に好かれる努力をしな
ければならなかった? なぜ一生懸命になってみんなのご機嫌を取らな
ければならなかったんだ? そうまでして友達というのは必要なのか? 
そんなもの僕はいらない。

 じゃあ今、こんな高い場所から飛び立とうとしているのはなぜだろう? 
心地よいビルからの上昇気流が僕の頬を撫でていく。僕には翼がないけど。
今なら飛べる気がするんだ。いや、そうじゃない。別に飛べなくてもいい
じゃないか。それなのになぜ僕は空を飛ぼうとしているのだろう?

『お前、もっと友達作ったほうがいいんじゃない?』
いつも言われていた。僕にはそんなもの必要ないと思っていると何度言え
ばこの人はわかってくれるのだろう。

 じゃあその言葉がとてもうざったく感じる反面、心に染み渡ってとても
うれしかったのはなぜだろう? 

 心地よい風が頬をすり抜けていく。ないはずの翼を一生懸命羽ばたかせ
てみたけど、所詮無理な話だった。
 地面が近づいてきた。空が飛べる気がしたのは所詮気がした程度にしか
過ぎなかったみたいだ。

 今気がついた。やっぱり僕も欲しかったんだ。一緒に他愛ない話をして
笑ってくれる友達が欲しかったんだ。
『いらない』
この言葉は僕の悲しい強がりだったんだ。どれだけ努力をしても友達が出
来なかった僕自身に対する弁護であり、慰めだったんだ。
 なぜあの言葉がうれしいか分かった。あの人が心底僕のことを心配して
くれていたからだ。あの人は僕の友達になろうとしてくれていたんだ。

 でも、気がつくのが遅かった。