その少年がまだ小さい頃、都会から田舎の実家に引越した。

その日から父は単身赴任することになり、祖父と祖母、母と少年の4人の新しい生活が始まった。

都会っ子の少年は、当初、田舎の子達にからかわれたりもしたが、次第に打ち解けていった。

母親は、家にはいない父親の分も、よく少年の面倒をみたが、

優しさで溢れるような、子供にとって都合の良い母親ではなかった。

どちらかというと少年に対しては厳しかった。

しかし、その厳しさの中にも我が子に対する愛情があり、その少年もそれを感じることができた。

祖父と祖母も、少年をとても可愛がった。

祖母は、しっかりとした気が利く人で、少年を影でしっかりと支えていた。

祖父は、寡黙な人で、口に出しては言わないが、少年のことを案じていた。

時に少年は、家族と喧嘩することもあったが、それはどこの家庭にもあるようなものだ。

家族4人、いろいろありながらも、少年は不自由ない生活を送った。

少年はそれが極当然であるものと感じていた。

 

そして日を重ね少年・・・彼は大人になった。

 

彼は、不自由のない生活ができたのは、

そして、自分が大人になれたのは、

家族の特別な努力があったからだということに気が付いた。

 

それから間もないある日。

 

突然、激しい地盤沈下が彼の家を襲った。

彼の家は、少しずつ、それでもかなりのスピードで地中に沈み始めた。

家の中には母親、祖父と祖母がいる。

何がなんだかわからない彼だったが、

家族を助けるために、急いでみんなを探し始めた。

− 早くみんなを避難させないと −

祖父と祖母は台所に居たが母親は何処にもいない。

彼は早く避難するように説得したが、

二人はじっと立ったままで応じようとしない。

それではと、彼は二人に母親の居場所を訊いた。

すると、祖父は黙ってテーブルの上にある母親の免許証を指差した。

− なんだよ、こんな時に −

彼は焦りながらも、母親がいつも携帯している見慣れた免許証に手を伸ばした。

祖父はその免許証を見るよう視線で合図をする。

彼は、母親の免許証を見た。

そこにはいつもの母親の顔が。

だが、その免許証の期限は「昭和58年の誕生日まで有効」と書いてあった。

− 昭和って・・・今は平成の時代だろ・・・!? −

彼には何が起きているのかわからなかった。

昨日まで母親が使っていた免許証だ。

期限が昭和なはずがない。

しかし、その免許証に写っている母親は、現在の姿とまったく変わっていない。

− どうなってるんだ? −

困惑する彼に、黙っていた祖母が口を開いた。

 

あなたにはずっと黙っていたけれど。

あなたのお父さんとお母さんは、あなたがまだ小さかったころ事故で亡くなったのよ。

だから、身寄りのなくなったあなたはここに引っ越してきたの。

けれど、あなたのお母さんの魂は、幼いあなたのことが心配で心配で、一緒に付いてきてしまったのよ。

我が子を想う気持ちが余程強かったのね。

今まで、お母さんはあなたの面倒を良くみてくれたわ。

そして、あなたが立派な大人に成長してくれたことを、お母さんは見届けたのよ。

だから今、お母さんの全てが終わろうとしているのよ。

だからこの家も終わるのよ。

私達も。

大丈夫、こうなることはわかっていたのよ。

だってあなたが来てから全てが普通じゃないのだから。

異常の終焉が来たの。

あなたが立派に成長してくれて、おじいさんもおばあさんも嬉しいよ。

そして、あなたのお母さんはもっと喜んでくれてるはずだよ。

そこの車のキーを持って。

さぁ、行きなさい。

お母さんがあなたのことを待っているはずだから・・・

 

彼は全身に衝撃が走った。

魂って・・・幽霊・・・?

お母さんが幽霊・・・?

あんなに普通に話もしたし、ご飯も毎日作ってくれたじゃない。

お母さんとの良い思い出も嫌な思い出も全て・・・

僕が心配だから・・・?

お母さん、死んじゃったの・・・死んでたの・・・?

 

彼は全てを認められないまま、免許証の隣においてあった車のキーを手にとり、

じっと彼を見つめる祖父と、彼に手を振る祖母を後にして、

家を飛び出した。

 

家の前に止めてある車に乗り込み、走りだした。

バックミラーにはどんどん沈んでいく自分の家が見える。

これまでの自分が全て消されてしまうような悲しい気持ちだったが、

その気持ちをも振り落とすかのように走り続けた。

 

幽霊にまでになって

彼の面倒を見てくれた

母親の墓を探しに。

 


へんしゅーこーき

実際見た夢に結構脚色付けてるけど^^;

どこぞの映画の影響が出てなくもないですね。

でも、この夢見てからしばらくは激しくブルーでしたよ。

しかし、夢で良かったなぁと思いました。

 

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