ポケットの雑記帖



満月

夕暮れ後、東の空に現れた球体。ほんのりと、頬紅をのせたような色をしている。

なぜ、こんなに大きく見えるのか、赤く色づくのは何故か、
子供の頃から不思議だった。
科学的には、光の屈折とかいろんな説明ができるのだろうけど、
今日は、そんな理屈は聞きたくない。

早く見つけて欲しいから大きくなるんだよ、とか、
今日はきっと良いことがあったんだよ、とか、
そんなおとぎ話の魔法のような言葉が欲しい。

そのくらい、今日の月は格別だった。

1999.10.25


硝子ペン

以前から、手にしてみたいと思っていた硝子ペン。
初めて実物を目にした。

日本で唯一の硝子ペン職人の方が、一本一本作り上げているという、優雅なペン。
ショウケースの中で琥珀色に優しく輝き、主の訪れをそっと待っているかのようだった。

ああ、この曲線は、手の中でどんなふうに馴染むのだろう。
このペン先は、紙をどんなふうに滑るのだろう。
柔らかく透き通った硝子を、秋の光はどうやって通り抜けてゆくのだろう。

今の私には、とても高価で手が出ないけれど、
いつか、日々の生活の中で使いたいと思っている。

1999.10.21 


金木犀

この季節になると、裏の邸宅に植えられた金木犀の香が、
夜闇をぬけて、ひんやりとした風とともに部屋の中に漂ってくる。
甘い香りは、よどむことなく散ってゆく。虫音も絶えた深秋の静寂が心地よい。

少し寒いのを我慢しつつ窓を開け、特等席となる窓際の椅子に陣取って、
あれこれ思い巡らす時間が、たまらなく好きだ。

1999.10.12 



バイトの話 〜その1〜

大学1年生の秋から3年の秋までの約2年間、某有名ホテルの中にあるレストランでバイトしていた。
面接ではじめてそのレストランに足を踏み入れたとき...うわっ、場違いな場所に来てしまったぁっっと、非常に焦った。
古風な高級旅客船をイメージした装飾。
薄暗い照明の中に、浮かび上がる巨大な絵。
中央には、木目を生かしたシックなグランドピアノ。
30卓程のテーブルには白いテーブルクロスがかかり、銀器と絵皿が整然とおかれ
ぱりぱりにノリを効かせ、タケノコみたいな形に折り畳まれたナプキンが、
行儀よく並んでいる・・・そこへ私はGパンにTシャツ。

どぎまぎしながら面接へ。6名ほどが入れる個室にて、1対1で面接を受ける。
緊張しすぎて、もう、どんな話をしたのかおぼえてない。

翌日、大学の友人にこう言った。
「もう、あの場所に腰掛けることができただけでも、満足だ。」と。

一週間後、採用を知らせる電話があった。
「ピンヒールの黒い靴を用意してきてください」とのこと。
とりあえず、靴屋に向かった。

1999.9.23 



銀河鉄道の夜の旅

親元を離れ東京に引っ越してきた最初の年の夏、
宮沢賢治の足跡を訪ねる旅に出た。

往復の電車と最終日のみ友人と行動を共にし、あとは気ままな一人旅。
花巻を中心に、東北各地を転々とした。

柔らかな風が、ゆったりとした河の流れを越えて、頬に触れ、髪を撫でてゆく。
桜の大木の下に降りそそぐ木漏れ日。
藍い山に沈んでゆく夕日。
夜空いっぱいの星の輝きと、足下を行き交う蛍の碧い灯の群。

それら一つ一つが私の心を癒してゆくようだった。

ああ、こんな風景に触れながら、賢治はあれらの作品を生み出していったのか。

賢治が見たものとは、ずいぶん様変わりしてしまったのかもしれないけれど、
自然の囁きはきっと同じはず。

ふと、涙がこぼれた。

*-*-* *-*-* *-*-*

久石譲氏による、CD「銀河鉄道の夜」をオススメ書棚』にて紹介中

1999.9.20 



人のことば

何ということはない、ほんのひとこと。
雑談の中の、通り過ぎてゆくことば。
普段なら、気に留めることなどないはずなのに、今日はとても嬉しかった。

人のことばの力は大きい。

1999.9.10 




秋の空

「空が、秋めいてきたね。」友人にそういわれた。
「そうだね。」 
そうか、東京にも空があったんだよな。白く濁った空が。

秋なのに、こんなに低い空だなんて...

高原のあの空に、ふと、会いたくなる。
あの風の香りを体で感じたい。

1999.9.1



夜の風 〜晩夏〜

夜露にしっとりと覆われてゆく草木。
その合間に響く、虫たちのかすかな声。

ひんやりと湿った風が、わたしの体の中まで夏夜の空気を浸透させてゆく。
その心地よさにゆるゆると誘われて、
裸足のまま戸外に出、星空を見上げる。

〜*〜*〜*〜

私の中の夜の風のイメージをよく表しているもの、
映画『1999年の夏休み』の中の1シーン。

ランプに照らされた室内の窓辺に下げられた白いカーテンを
突然の強い風がはためかせる。はっとする少年の表情...
そして、暗やみに消えてゆく少年

これはもしかすると、私の中で作り上げられた幻想の風景かもしれない、
そんな気持ちさえしてくる。
実際、この映画の中にそのようなシーンがあるかどうか、自信がない。

〜*〜*〜*〜

1999.8.31




鉱石

透明な鱗片、硬質な榴の一粒、砕けた藍い硝子片

鉱物に興味を持ちはじめたのは、ここ数年のことである。
かといって、すすんで収集するわけでもなく、鉱石店に足を運んだことさえ、ほとんどない。

この類いの物に関しては、能動的に集めることは好きではない。
偶然の出会いが、愉しさを増長させる気がするから。

図書館で見つけた、鉱石に関する本をオススメ書棚』にて紹介中

いずれは、鉱物にまつわるコンテンツも作りたいと思っています。

1999.8.28



記念すべき (?) 一頁 

文章は、あまり得意じゃない。
詩のスペースとか用意してあるけど、ホントはまるでダメ。

心にしみるような風景に出会って、
「この情景を誰かと分かち合いたい」とか
「誰かに伝えてみたい」とか思っても、納得いくコトバにすることができない。
どこかで聞いたことのあるコトバ。誰かが言ってたコトバ。
そんなものの羅列じゃ、自分の思いなんて伝わらない。
だから、文章は苦手。

でも、最近、思うようになった。
もうちょっと気楽に考えようって。

 誰かが言ってたことだっていいよ。
 最初から納得いくものなんて、できっこないし。
 思ったことを、素直に書いてみたらいいんだよ。
 誰かのマネだって、構わない。
 そのうちきっと自分らしい表現に出会えることがあるもの。
 カッコ悪くても、まとまらなくっても。
 とにかく、好きなように、思うように書いてみよう。

だから、このページは、わたしがコトバの練習をするために作ったようなページです。
このページに来てくださる、すべての皆さまが、私の先生だと思ってます。

1999.8.27


古書 雲雀屋
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