「お年寄り」と「性」
最初にこの言葉を関連づけようとしたときに、どうしてもこの2つの言葉が結びつかなくて困った。
それまでの私の頭の中には、この2つの言葉が「結びつかないもの」という観念しかなかったから・・。
しかし、私の考えは甘かった。
人はどうやら死ぬまで「男」と「女」で、どうやら「性」に関する問題も一生持ち続けるものらしい。
ここに、私が今まで出会って考えさせられた「性」に関するエピソードを記したいと思う。

その1.Yさんの求めているもの
Yさん(70代前半女性)は知恵遅れがあり、3歳程度の知能だと記録にはある。
夜間、大声を出されるようになり、私たち職員はあの手この手で彼女の大声をやめさせるために、対策を考えた。
3歳程度の知能だということから考えて、「寂しいのでは??」とあるスタッフから声があり、その日のうちに「抱き枕」を購入してみた。
2,3日抱き枕を抱いて、Yさんは良眠された。
「やっぱりさみしかったんだねぇ」
スタッフの間に安堵感が漂い始めた頃、Yさんは又以前と同じ状況に戻ってしまった。
いくら抱き枕を勧めても、「そんなものいらない!」と言った顔。
かわりに「抱き人形」を借りてきて「赤ちゃんと一緒に寝てね」とお願いしてみたりと、再び「あの手」「この手」を尽くしたが効果はなかった。
そのうち、又スタッフから声が上がった。
「誰かが添い寝して見たら?」
そして1日目は看護婦さんが、翌日は私が「添い寝作戦」を試してみることとなった。
YさんのベッドにもぐってYさんとお布団をすっぽりかぶった。
そして子どもを抱いて眠る母のように、Yさんの背中をとんとんたたきながら眠りの世界に誘う。
Yさんは最初、私と言う「奇妙な侵入者」に気を取られていたようだったけれど、そのうちにその状態に慣れて眠りにつかれた。
「結構、楽勝だァ・・」
とうぬぼれていた1時間から1時間半くらいの頃、私はYさんの動きにはっとして目を覚ました。
Yさんは私の身体に抱きつき、私の身体を触られていた。
最初,私はそれを「母を求める子どもの仕草」のようだととったのだが、その動きはしだいにエスカレートし、いつのまにかYさんは自分の下半身を私にこすりつけるような動作に及んだ。
Yさんはしっかり覚醒し、興奮されているようにもとれて(いや確かに興奮されていたと思う)はっとした。
Yさんは知能的には3歳程度かもしれないけれど、本能である「性的欲求」はしっかりあるのだと。
ショッキングだったけれど、このYさんの本能を何か別のことに向ける必要があるようだとしみじみと思った。
次の日、私はスタッフにこのことを話した。
そして、Yさんには日中なるべく長い時間車椅子に乗っていただき、スタッフのよく通る場所にいていただくことにした。
スタッフができるだけYさんに声かけをして、コミュニケーションを多くとろうということになったのだ。
やはりYさんの叫び声はしばらくは続いたけれど、それからスタッフの努力もあり少しづつ状態が変わって行ったように思う。
とりあえず、現状では落ち着いた様子である。

その2.私の知らない世界
まだ、以前勤務していたフロア−でのこと。
朝のラジオ体操に私は、2,3日前に入所したばかりのNさん(85歳くらい、男性)を誘おうと訪室した。
Yさんのベッドの脇のカーテンが半分しめてあり、Yさんがベッドに横たわっている気配を感じたので、声をかけようとするとなんだかちょっとだけいつもと様子が違う。
声をかけるのが悪いような、声をかけてはいけないような・・。
それでも、めげずに私はYさんに声をかけた。
そのとたん、私の目に飛び込んできたもの・・・
それは、自慰行為だった。
どきんとした。
驚いてしまって声も出なかった。
「私の知らない世界」を覗いてしまったような,なんとも言えない気持ちだった。
「お年寄り」と「性」がどうしても結びつかずに、ショックだけを感じてしまった。
スタッフにこのことを話すと、先輩寮母に
「初めて見たの?だって珍しいことじゃないのに・・」
と。
いくら「お年寄り」といっても「性」に関する興味はあるんだということをその時にしっかり確信した。
そして、その後Iさん(70代前半、男性)と話をする機会があり、偶然そういう話になった。
そのなかでIさんの言われたことがとても印象的だった。
「男はなぁ、一生男だわ。女もそうだと思うよ」
私の見た光景(Yさんの件)の話もして見たけれど、そう驚きもされなかった。
入所型の24時間体制の施設で働いていると、その人その人の生活に直接触れることが多い。
見るべきものではないものを見てしまったり、思いがけぬ場面に遭遇したり・・。
考えさせられることも多いのだ。

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