Kさんの思い出


〜精神を病む入所者と接して感じたこと〜










先日Kさんが亡くなられたという知らせを聞きました。
Kさんは、私が以前勤務したフロア―の入所者だけれど、Kさんの思い出はかなり印象深く私の中に残っていました。

Kさんには被害妄想、虚言癖、妄想、幻覚、幻聴等々数々の精神病の症状が見られました。
高齢であったため、もちろん痴呆も入っていたかもしれません。
けれどとにかく、Kさんはミーティングの話題にもよく上る方でした 。



Kさんのご趣味は「書きもの」でした。
月末になると、大判の居室用のカレンダーを職員がめくるのですが、Kさんはよくそのめくったカレンダーを欲しがられたものです。
目も不自由だったため、書き物をするにはできるだけ大きな紙が必要だったようです。
その用紙に書かれていた内容はというと・・・。
それは、あるときは「被害届」あるときは、「遺書めいた内容のもの」、あるときは信仰する神様への自分の思いのようなものでした。
被害届はとにかく具体的な内容でした。
○○警察署長様という宛名で始まり、被害内容の羅列が続きます。
時計・・・ロレックス1個(200万円)。
不動産・・○○区の土地(1億円)
現金・・・500万円
こんな感じでそれは、用紙いっぱいに続いていました。
それが訪室するたびに、Kさんのベッドの周りに整然と置かれ、Kさんはとめどもなく書き物を続けられるのです。
その姿はあまりにも真剣で、一種独特で奇妙なものでしたが実は、Kさんがじっと居室にいらっしゃるのはいい方でした。
Kさんは突発的な外出や、思いつき(本人の中では、自分の中の何かが本人に命令しているらしいのですが・・)での電話(警察署、区役所、消防署等々)もよくされました。
私の施設では施錠をしないし、大きな施設であるためKさんはよくうまくすり抜けて外へ出て行かれたものです。
しかも、職員の手の薄いとき(夜勤の朝や食事時にばたばたしている時間帯)を見計らって・・。
公共交通機関も普通に利用できる方であったため、かなり遠くに行かれることもありました。
私たちはそのたびごとにハラハラ、ドキドキさせられました。
落ち着きのない時期には予防策として、居室の窓と扉を外から縛って明かなくするようにもしてみましたが、賢いKさんにはそれは何も意味をなさない事でした。



閉鎖的で自分の殻に閉じこもって生活する事を好まれるKさんは他の入所者の方とかかわりを持つ事もなく、私たち職員と接する事もほとんどなく過ごされました。
それでもお盆とお正月の前になると、「職員さんへ・・」とたくさんのお菓子を詰所に持ってこられたものです。
最後まで心を通じ合える事はありませんでしたが、Kさんにとって「施設」という共同生活の場は暮らしにくい嫌な場所だったのでしょか?どんな思いで生活されていたんでしょうか?
精神を病む入所者の方には、個別の処遇、特別な処遇が必要になる場合もあります。
けれど、できるだけ普通の状態でおだやかに日々を過ごしていただくためのお手伝いも、私たちが「介護」の仕事をする上で大切な課題の一つかもしれません。






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