第三回まめ知識講座

天体までの距離測定方法

天文学に関する本や雑誌、テレビ、その他いろいろなところで、「地球から○○万光年の距離にある」などという言葉がでてきます。この「光年」というのは天文学ではよく使用される言葉で、光が1年間に進む距離を「1」とした単位です。つまり、20光年といえば、光が20年かかって進むだけの距離ということになります。ところで光の早さは御存じですか?これは秒速(今度は「年」でなく「秒」です)にして約30万キロです。30万キロは、地球の円周の約7.5倍に匹敵します。1年は365日x24時間x60分x60秒ですから、1光年はおおよそ3千億キロメートル強ということになります。単位がキロの場合、3の後ろにゼロが11個つくわけです。ちょっとピンときませんね。

(ちょっと話が本題からずれますが、光の早さは正確には秒速30万キロ弱です。しかし、現実の計算では30万キロとしています。物理や天文学では、実験によって計測された正確な数値を使用することが基本であり、実験で計測するためには基準となるものさしが必要です。現在は「メートル原器」というものが基準とされています。これは特殊な合金で作られ、厳重な管理のもと温度や湿度、気圧、重力の変化の影響による伸縮を最小限にし、世界の「ものさしのなかのものさし」とされています。ただし、いくら厳重な管理をおこなっていても、原子レベルの変化を食い止めることはできません。そこでこのメートル原器の長さと同じ長さを、光の波長の長さで標記することになりました。つまり、ある光が数千億分の1秒間に進む距離を1メートルとするのです。これなら絶対にものさし自体の伸縮を心配する必要がありません。あとは原子を利用した、正確な時計で時間(=原子時計)を計ればいいのです。)

さて、ここからが本題です。光の早さが分かったところで、実際に他の天体までの距離をどうやって計測したのでしょうか?我々の銀河(注1)の隣にあるアンドロメダ銀河までは約230万光年あると言われています。でも誰がこの距離を計ったのでしょう?230万光年とは、光でさえ230万年かかる距離です。人類が科学と呼べる文明を持ってからわずか数千年。ちょっとサバを読んでも、人が計測するのは無理ですね。

三角測量という言葉を御存じですか?これは簡単な原理で、距離を測定するのに使われます。これを天文学に応用して、近距離の天体までの距離を測定します。ある地点AとBの距離を計測するのに、もう1カ所Cを利用します。AとCとの距離が分かっていて、Bの角度(b)が分かれば、三角形が2等辺三角形または直角三角形ならば、Aから(またはCから)Bまでの距離が中学の幾何でわかるのです(図1参照)。AとCが、それぞれ地球の半年おきの位置だとすると、地球の太陽からの距離(これは別の方法で、もっと正確に計測します。ここではその方法は省略します。)を半径として、その2倍の距離がAとCとの距離です。あとはAとCでの、Bへの角度を観測します。では、角度はどうやって計るのでしょう?

地球から非常に離れた天体は、地球が太陽の周りを公転してもその位置がほとんどかわりません。それは観測不可能な変化であるので、その位置は不変と言っていいでしょう。それに対して、地点Bにある天体は地球から比較的近くにあるので、地球が公転するにつれて、遠くにある天体(=背景)に対して位置がずれます。A地点ある天文台でBを望遠鏡で覗いたとします。そのときの望遠鏡の向きは、正確にコンピュータに記憶されます。半年後に、同じ天文台の同じ望遠鏡(つまりC地点)でBを再び観測します。すると望遠鏡は角度を少し変える必要があります。この角度が重要です。A地点では、望遠鏡を目的の天体に真直ぐ向けていたので、角度aは90度です。ですから、C地点からB地点を観測したときの先程の角度は、角度bと同じものになります(図2参照)。これで角度bとAからCまでの距離が分かったので、あとは簡単な三角関数です。こうやって天体までの距離が「直接」計測できるのです。

この方法の欠点は、実はかなり近距離の天体しか計測出来ないということです。それ以上(銀河系外)になると他の方法を使います。一つは変光星を使った方法です。変光星とは周期的に光度を変化させる恒星で、いくつかの種類(変光、つまり光度の変化する周期の違いによる種類です)がありしかもその種類毎の絶対光度(注2)が決まっているのです。例えばある銀河にタイプAの変光星があり、我々の銀河系内にも同じタイプの変光星があれば、まず我々の銀河系内の変光星までの距離を上記の方法で計測し、今度はその光度とある銀河の中にある同じタイプの変光星の光度を調べます。光度と距離の関係は、距離が増えた分の二乗で光度が減少していくので、簡単に距離がわかります。ただしこの方法は、我々の銀河と観測している銀河の中に同じタイプの変光星があり、その変光星を、観測している銀河の中で単体として識別出来る距離の銀河までしか使えません。それ以上の距離の場合には、光のドップラー効果を利用します。

音のドップラー効果は御存じですね。光にも似たような現象があり、光源(この場合は天体)の運動に応じて波長がのびる(ずれる)のです。どの銀河にも必ず水素やヘリウムといった基本的な分子が存在し、そうした分子(正確にはイオン化してますが)が電波を発しています。分子の放つ電波のスペクトル(光をプリズムにあてた時にできる、虹のようなものです)を調べると、輝線(もしくは暗線)と呼ばれる分子それぞれに特有の波長領域があります。分子が静止している場合の輝線(もしくは暗線)の位置(=波長領域)は実験室で簡単に調べられます。もし分子が運動していると、この輝線(もしくは暗線)の位置、つまり波長の位置がその速度に応じて変化するのです。

宇宙が膨張していることは、既に事実として認められており、その膨張によって地球から遠い天体ほど早く地球から遠ざかっています。そこで、距離を計測したい天体中の分子から放射されている電波を観測し、その輝線(もしくは暗線)の位置(=波長領域)を調べます。この結果と、分子が静止しているときの輝線(もしくは暗線)の位置とのずれを比べると、その天体が地球から遠ざかっている速度が分かります。宇宙はハッブルの定数に従って膨張している(地球からの距離と地球から離れていく速度が一定の割合である)とすると、天体の運動速度から距離が分かるわけです。こうして非常に遠くにある天体の距離を「間接的」に計測するわけです。

余談になりますが、この光のドップラー効果を利用すると、天体の地球から遠ざかる速度のみならず、その天体の3次元的な運動状況が観測できます。そうやって我々の銀河の天体を20年以上にも渡って多数調査した結果、私の恩師である天文学者は次のような発見をしました。それは「天体の銀河中心に対する運動は、中心に対しての楕円運動を、螺旋状に行っている」というものです。たとえば我々の太陽ですが、銀河の中心に対しての楕円運動をしているだけでなく、その楕円軌道のまわりを螺旋状に回っているのです。しかも地球をはじめとする惑星の重力や、他の恒星や天体の重力の影響をうけ、フラフラしているというのが実際の運動状態なわけです。このふらつきについて考えられるすべての重力の影響を計算しても、実際のふらつきと合致しません。これは銀河内の見えない物質(ダークマター)の影響もあると思われますが、その学者の驚くべき主張はこうでした。「アインシュタインの相対性理論に誤りがある。」これを支持する観測結果もいくつかあり、もしこれが事実だとすると大変なことになります。まだまだ宇宙というのは、科学の力では計り知れない程奥の深いものです。

(終)

注1:昔はアンドロメダ星雲とも言いましたが、いまは「銀河=Galaxy」を使います。単に「銀河=Milky Way」という時は、われわれの銀河を指します。

注2:絶対光度は、恒星を1パーセク(=3.26光年)先から見たときの光度のことです。つまり、地球からみたときの明るさではなく、実際の星の明るさのことです。


第二回まめ知識 へ
天文まめ知識 TOP へ戻る
第四回まめ知識 へ

 

Copyright(c)1999 -2003 Deja
All rights reserved