惑星の大気の減少
最近太陽系外の惑星が相次いで発見されたり、冥王星が小惑星か惑星かなどと議論されるなど、惑星に関する話題が多く聞かれます。私達の住む地球やお隣の火星と金星のような地球型惑星、さらに土星や木星といった大形惑星など、ひとくちに惑星といってもいろいろです。その成り立ちや組成、質量や密度など、興味ある対象はたくさんあります。が、今回はこうした惑星の大気の減少についてちょっと考えてみましょう。
太陽のような恒星がその最期を迎えたとき、大爆発を起こしてその成分のほとんどが吹き飛びます(超新星)。吹き飛んだガスは宇宙空間を漂い、やがてそれらが自らの重力で集まってきます。そして中心部にガスが凝縮し、その回りにもいくつかのこぶのようなかたまりが出来ます。このこぶが惑星のもとになり、中心部には恒星ができるわけです。このガスの成分は(前の世代の)恒星の中でできた核融合の産物ですから、酸素やその他の成分を含んでいるのです。われわれの太陽系もこのようにして出来たのです。余談ですが、もともと同じ成分からできた惑星と太陽ですから、太陽の中にもすでに酸素や炭素、カリウムその他の成分が含まれています。それらは太陽の中心部にあり、現在まで起こった水素原子の核融合でできたヘリウムとともに“もえかす”としてのこっています。
惑星が星間ガスから生まれ次第に冷えてかたまってくると、火山活動や地殻変動によって内部にあったガスが惑星表面に吹き出してきます。これが惑星の大気となるわけです。本題はここからです。惑星表面に吹き出したガスは、どうして宇宙空間に逃げていかないのでしょうか?答えは簡単です。大気を構成する粒子(地球の場合は、主に窒素や酸素、二酸化炭素など)が惑星の重力によって惑星に引き止められているからです。しかし、惑星の大気には温度があります。温度とは、粒子の運動エネルギーのこと(注1)で、つまり大気を組成する粒子は相当のスピードで動いているわけです。このスピードがある限界を越えると、惑星の重力を振り切り、宇宙空間へと逃げ出していくことが出来ます。月(月は惑星ではく衛星ですが)の大気がなくなってしまったのは、はじめから大気がなかったのではなく、もともとあった大気が月の重力を振り切って逃げ出してしまったからです。(また余談になりますが、月の南北両極に氷りとして水が残っているかもしれないということは、気体ではなく固体だから可能性があるのです。)地球の大気はどうなのでしょうか?実は地球の大気も、どんどん地球から宇宙空間へと逃げ出しているのです!今、こうしている間にも、地球の大気はどんどんと宇宙空間に逃げ出しています。月の場合には、すでにそのすべてがなくなってしまいました。では、地球の大気の運命は?
とりあへず御安心ください。地球の大気がすべてなくなるまでには、太陽の寿命よりも長い年月がかかります。太陽の寿命が終わりに近付くと、太陽は膨張し地球を飲み込んで、火星の軌道くらいまでその直径を拡大させます。ですから、地球がある限りは大気もなくならないのです(人類が核を使わない、もしくは映画のように巨大隕石が地球にぶつからない限りはですが)。
地球から逃げ出す大気を、ではどうやって観測したり、なくなるまでの時間を計算したりするのでしょうか?実は、この現象を直接観測することはできません。時間、つまりどのくらいの割合で大気が現象しているかは、実は数学を用います。ガウス分布という言葉を聞いたことがあるでしょうか?統計の一つで、現実の世界の粒子の様子をあらわしているもののひとつです。地球の大気を構成する粒子は、すべてこのガウス分布にしたがってその速度が分布しています(図1参照)。あるものは大きな速度をもち、あるものは小さな速度しかもちません。大気中のほとんどの粒子は、たとえ大きな速度をもっていても、宇宙に飛び出る前に他の粒子に衝突するのでまず地球から逃げられません。しかし、大気のもっとも外側(注2)付近にある大気中の粒子が大きな速度を持った場合、そのまま宇宙へと飛び出してしまうのです。これによって大気が惑星から減少していきます。


地球全体の大気の量からみれば、宇宙空間へ逃げ出していく大気の量は微々たるものです。しかし、確実に大気は減少しています。先程も述べましたが、現に月の大気はそのような経緯で無くなってしまったのです。宇宙から見ると、地球の大気がいかに薄い層であるかが分かります。この貴重な大気をきれいに保つために、我々は自然に対してもっと気を配る必要があるのではないでしょうか。
(終)
注1:物理学や天文学において、温度の定義は一般の感覚とは異なります。温度は熱い、冷たいという感覚で現されるものではなく、粒子がどのくらいのスピードで動いているか(=粒子の運動エネルギー)によって表現されます。ひとつひとつの粒子についてその運動エネルギーを計算するのは不可能ですが、ある範囲内にあるいくつかの粒子全体の運動エネルギー(正確には、全体の平均値)を取り出すのは難しくありません。そして、その値がその範囲での温度ということになります。
注2:惑星にしても、恒星にしても、その最も外側がどこにあるのかを厳密に決定することはできません。地球の大気も、月に近いところまでゼロというわけではなく、非常に希薄ではあるものの切れ目はありません。太陽にいたっては、太陽風とよばれる太陽からの粒子の風が、太陽系のはるか外側まで延びており、これを勘定にいれると太陽の大きさは何万倍にもなってしまいます。そこで、先程のガウス分布の再登場となります。ガウス分布に従って存在している大気の粒子の数は、太陽や惑星の外側に行く程その数が減り、つまり希薄になります(図2参照)。このような分布をしている粒子の密度を適当なところで区切ります。そしてその区切りよりも外側は、希薄な大気があるにしても、もう太陽や惑星の大気の一部とは考えません。区切りの内側までを、大気であると“定義”するのです。科学や数学において、「定義」というのは一つの決め事です。事実がどうであれ、定義は都合のいいように作れるのです。実に人間くさい話ですね。
