双児のパラドックス
今回はアインシュタインの相対性理論に関するお話です。ただ、今回は軽くいきましょう。たまには息抜きも必要です。
タイトルの双児のパラドックスというのは、実はとても有名な話です。一般相対性理論によると、この宇宙の中に存在するいかなる物質(正確には物質だけでなく、それを含む空間そのものもです)も、それぞれに固有の時空間を持っていることになります。ここで時空間というのは、時間と3次元空間を合わせた4次元のことで、われわれの宇宙はこの4つの時空間から成り立っていることになります(注1)。この固有の時空間においては、それぞれ異なる時間の進み方をし、空間的な歪みも固有のものを持っていることになります。もう少し平たく言うと、あなたと他の人とは時間の進み方が異なるという訳です。ただ、その違いというのは、われわれの日常の生活においては検出するのがほぼ不可能な程小さなものです。ほぼ不可能という言い方をしたのは、実は実験で実際に検出することには成功しているからです。ずいぶん前のことですが、こんな実験が行われました。まったく同じ2つの原子時計を正確に同期させ(=時間を合わせ)、1つを地球上のある場所に固定させ、もう一方をアメリカの空軍機に乗せて世界一周をさせました。この2つの時計はそれぞれ固有の時空間をもっているので、1つの時計が世界一周をしたあとでは、2つの時計にずれが生じるはずなのです。果たして、世界一周をしてきた時計の方が、地上でじっと待っていた時計よりも数億分の1秒単位で遅れていたのです。
ここで本題の双児のパラドックスの話に戻しましょう。あるとき、このような実験が行われたとします。双児の兄と弟がいて、兄は宇宙飛行士として、光の早さに近いスピードのロケットに乗って宇宙旅行をしてきました。その間、弟は地球で兄の帰りを待っています。兄は10年程ロケットで飛びつづけ、また10年かけて戻ってきました。するとどうでしょう。兄にとっては20年の旅行だったのにもかかわらず、地球では数百年もの時間が経っていたというのです。もちろん、弟は遠い昔に亡くなっていました。ここで、兄(ロケット)と弟(地球)での時間の進み方が違うことはもうお分かりだと思います。でも、なぜ兄よりも弟の方が早い時間の進み方をしなければならないのでしょうか?相対性理論は、すべての時空間を平等に扱っています。2つの時空間を比べたとき、双方から相手の時間の進み方が違ってみえるはずです。それならば、兄にとっての20年と、弟にとっての20年は、なぜ兄の方が早く進んではならないのでしょうか?逆でもいいはずです。これが、いわゆる「双児のパラドックス」です。
実は、この兄と弟との時空間において、決定的に異なる要素が存在するのです。それは加速度です。兄が地球を離れ、ロケットを光速に近くなるまで加速させ、10年後今度は向きを帰るために減速(マイナス方向に加速)させました。地球に近付くと、再度減速させてロケットを地球に着陸させます。つまり、兄は最低でも3回の加速度を加えられたのです。時空間の歪みや時間の進み方には、この加速度が大きく影響します。加速度を加えられた時、時間はゆっくりと流れるのです。これに対して弟の方は、兄と比べて大した加速度を受けていません(正確には、地球の太陽に対する楕円運動による加速度は受けていますが、小さなものです)。そのため、兄に比べ時間が早く進んだのです。そして弟は兄の帰りを待たずに人生を全うしたわけです。
ここでひとつ誤解されないで頂きたいのですが、兄と弟の人生はやはり平等です。兄は弟にくらべゆっくりとした時間の流れの中で生きていましたが、兄自身の時間(彼の時間の感覚)もそれと全く同じようにゆっくりとしていたのです。弟は、早い時間の流れの中で暮らしていましたが、彼の時間の感覚も早かったのです。つまり、どのような時空間にいたとしても、本人にとっての時間の流れは同じなのです。兄の1秒は、他の人から観測したら100倍くらい長いものかもしれませんが、兄自身には決して100倍長いわけではなく、やはり1秒でしかありません。兄は、それだけゆっくりとしか時間を感じ取れないのです。ただ、兄は弟よりもずっと未来の地球を見ることが出来ました。これはある意味、兄の特典かもしれません。しかし、このときの地球が、兄にとって昔よりもいいところだと誰が言えるのでしょうか。やはり二人は平等に生きたと言っていいと思います。あなたなら、兄と弟の人生、どちらが幸せだと思いますか?
(終)
注1:正確には、我々のような生命体も含めた物質が直接かかわることのできる次元が4つしかないということで、実際には10次元(もしくはそれ以上)であるという考えがあります。超ひも理論と呼ばれる理論から発展したもので、大統一理論などの最新理論でも取り入れられています。また別の機会にくわしく説明します。