まめ知識講座特別講議

科学者はうそつき?

今回は特別講座として、過激にも「科学者はうそつき?」などと題してみました。うそというと、ちょっと大げさになってしまうかも知れませんが、これはれっきとした史実でもあり、忘れてはならないことだと思います。特別講座だけに、通常の『まめ知識講座』よりも少し内容が難しいかもしれませんが、「ふ〜ん、そうなんだ」とでも思っていただければ十分です。リラックスしてお読み下さい。

話は8年前に遡ります。 私がアメリカに留学して天文学を勉強していたときのことです。それは天文学ではなく物理学の授業でしたが、内容はあのアインシュタイン先生(注意:アインシュタインは博士ではありません。彼は大学しか出ておらず、博士号は取らなかったのです。)の「相対性理論」についてでした。一般には E=mc**2 (**2 は二乗を意味します)として知られている、あの理論です。(これについて今ここで詳しく説明するつもりはありませんが…)

この理論は実にいろいろなことを教えてくれるのですが、その中でも最も重要なものの一つに「この宇宙のなかで光よりも早く運動するものはない」というものがあります。そしてその理由として、「物体は速度が増すにつれてその質量も増加し、光の早さに近付くにつれその質量は無限大に近付く。物体の速度を増すには、その物体に対して力を加える(加速させる)必要があるが、その力の大きさは物体の質量に比例する。光の早さで移動する物体の無限大になった質量に加える力は、無限大でなければならない。これは不可能である。」ということが一般には広く信じられていました。(もう少し分かりやすく、あとで説明します。)ところが…です。この説明は正しくはなかったのです。

その物理の講議をしていた先生によると、「…質量も増加し、…」というところが間違った表現だと言うのです。正確には、間違いではないかも知れないが正しくもないといったところです。何が正しくないかはちょっと置いておいて、私が驚いたのはこれがわざとそのように一般の人に説明されていたということです。つまり科学者は故意に、物理学にあまり関わらない人々に正しくない説明をしていたのです。。

ここまでの話が、一発で理解出来なくても、心配する必要はありません。ただ分って頂きたいことは、そういった事実を曲げた説明を科学者がしていたということです。しかしその内容を説明しないわけにはいきませんので、もう少し噛み砕いてお話します。

まずうそではないが、正しくない説明の部分から話をしていきましょう。物体 X が質量(ここでは重さと言ってもいいでしょう)M を持っているとします。そしてこの M はゼロではないとします(注:質量がゼロという粒子は実際に存在します)。X は初めある速度 v で動いていたとすると、X にある力をその運動している方向に加えてやれば(つまり押してやれば)その速度が早くなります。この時どのくらいの力を加えれば、どのくらい速度が増えるのかは一定のきまりがあります。ここでは、力を加える(押してやる)度に増える速度の大きさを常に一定にしてみましょう。たとえば、初めの速度が0.1(単位は、光の早さを1とします)で、一回押してやると速度が0.1ずつ増えていくとします。二回目に押した時は、すでに速度が0.2になっていて、そこに0.1速度が増えるのですから、結果として速度は0.3になります。これをくり返していくと、速度はどんどん増えて、光の早さ1に近付いていきます。

しかし、毎回増える速度の大きさは同じ(毎回0.1)でも、毎回加える力の大きさは同じではありません。この力は、速度が大きくなった割合(例えば二回目に増えた割合は、0.2から0.3なので50%です)以上に毎回大きくなる(50%以上)必要があるのです。

アインシュタインの相対性理論によると、物質が速度を増すと、その物体の(質量ではなく)運動量 p が速度の割合以上に増加します。運動量 p とは、物体の質量 M とその速度 v を掛けたもので、

p = γ*M*v (* はかけ算の意味)

と書くことが出来ます。ここでγ(ガンマ)はローレンツ収縮といって、物体の速度が光の早さに近付くにつれ大きくなる数です(つまり定数ではありません)。

この式によると、運動量が増加するということはイコール質量が増加することではないということが分かります。数学上は、この式を

p = (γ*M)*v

として、v は勝手には増減しない(力を加えない限り)ものだから、p が増加することはつまり (γ*M) が増える、ゆえに質量が増えるという言い方が出来ます。実際科学の世界では、この (γ*M) を、M と区別して計算をしますし、通常は (γ*M) 自体を M 、速度がゼロの状態での質量を M。(静止質量)として扱います。しかしながら、これはあくまで数式上の区別であって、誰も運動量が増加するのは質量が増加するからだとは言っていません。あくまで運動量 p が、速度 v の増加分以上に大きくなるということなのです。

そしてこのことと、前述の F との関係ですが、次のような関係式があります。

F = dp/dt (/ は割り算を意味します)

dp/dt はいわゆる微分というやつで、みなさんあまり好きではないかもしれません。でも微分だとか積分だとかいうことよりも、ここでは F と p とが比例的に関係しているということを見ていただきたいのです。運動量が増加すると、それに伴って物体X に加える力も増加するということです。

以上のことを整理すると、次のようになります。

  1. 物体 X が質量 M で、速度 v の状態である時、
  2. 物体 X に力 F を加えることで、物体の速度が増加するが、
  3. 速度の増加した割合よりも、物体の運動量の増加した割合の方が大きくなる。
  4. 速度が次第に光速に近付くにつれ、物体の速度を増すために必要な力は無限大に近付き、
  5. 光速に至ってしまった物体の速度を増加させるには無限大の力が必要となる。
  6. これは不可能であるため、どのような物体も光速を越えることは出来ない。

この中で物体の質量が増加するという必要性はどこにもありません。しかし運動量という概念があまり日常の生活には関わらないものであり、うそをつく程の事実の彎曲をするわけではないという理由から、運動量と質量を入れ替えて説明しても結果には大差がないのです。だからこれでいいやとしてしまったのが、科学者のうそということになります。(お分かりになってでしょうか?)

私が初めに科学者がうそをついていると言いましたが、これは約半世紀近く前の話です。アメリカの科学アカデミーが、一般の人に相対性理論を説明するのは難しいので、このように説明しても差し支えないだろうとの見解で出されたものでした。その後訂正がされましたが、その混乱は現在でもいくつかの解説本などに見られます。こうした誤解や間違った認識が、どのように将来人々に影響するかは重大な問題です。私はそれがとても心配です(天文学だけでなく、生命倫理などの分野ではこうした問題が現実に起こっていると思われます)。小さなことかも知れませんが、科学をきちんと理解するためには、その方が簡単だからとか分かりやすいからといった理由だけで正確な情報を提供しない学識経験者のやり方は許せないのです。

私はこのことを8年前の物理の授業で強く感じ、本当の事、本当の自然の姿を知りたい、間違っているかも知れない科学を自分の目で確かめたいと思ったのです。科学とは何でしょう?みなさん考えたことはありますか?これは私の個人的な定義ですが、「科学とは、自然を理解するための道具である」と思います。自然は、既に事実としてそこに存在し、人間はそれを理解するために科学を発展させ、利用するのです。その使い方を間違えれば大変なことになり、よく使い方を理解しないと取り返しのつかないことにもなりかねません。だからこそ、本当の事を知る必要があるのです。

(終)

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