■■畸型楽園 III:昇天 ■■







 
僕は歩いていた、
−−どこを?
白い広大な雪原、灰色の分厚い雲が低く垂れ込める空の下を、たぶん、東へと。
強い風に押し返されながら、たった一人で、西域の珍しい品々の入った袋を背負い、都市王の都を目指してたぶん、東へと。

仲間とはぐれて、もう三日がたつ。僕はすっかり凍っていた。
くだらないことで言い争いなんかしなければよかった。
意地になってお互い顔を背けて歩いているうち、吹雪がおそってきた。
このままではまずい、そう思って声をかけようとしたときには遅かった。
僕の周りにはもう、誰もいなかったのだ。
仲間がどこに行ってしまったのかはわからない。
僕がどこに向かって歩いているのかもわからない。

狂暴なまでに雪の吹き荒れるなか、やせた白樺に囲まれた小さな家を見出したときには、それこそ天にも昇るほどに喜んだ。
窓から零れる暖かな灯火に向かって、僕は駈けだした。
これで死なないですむ。
ここで嵐をやり過ごせば都に行くこともできる。
仲間たちも無事に都にたどり着いていたなら、謝ってもう一度やり直せばいい。
よかった。本当によかった。

その家の老夫婦は、僕が西域から来た商人だと知ると、喜んで中に入れて暖めてくれた、
・・・熱い湯を張った大鍋になげこんで。
「ゆっくりつかって暖まってください」
老爺はそういって湯になにかをたらした。
いい香りがたちのぼる。
老夫婦の意図にも正体にも気づかずいい気持ちで湯につかるうち、凍りついた僕はとろとろと溶けて、ついに影もかたちもなくなった。
そうして僕を溶かし込んだ湯気は音もたてずに灰色の空へと昇っていった。
 


fin  99/02/14