セイシュン・フイルム。
【Cut 1】
運命ってこういうことだと思う。
電車の中でなに聞こうと思って、自分は出がけぎりぎりまでうろうろうろうろと悩んでいた。
家から学校まではたったの一駅、トータルでも20分ちょい。とはいえ、なんの音もないままにすごすのはけっこうツライ。CDを散らかしながら考える。
「水上の音楽」。
いくらなんでも朝っぱらからこんなのを聞いた日には、テンションが異様にあがりそうだ。
きらびやか〜なトランペットの音は嫌いじゃないんだけど、今朝の気分じゃないよな。「おとぎ話」。
ここ最近のお気に入りとなりつつあるメトネルのピアノ曲。
どこか懐かしい感じのする素朴なメロディーが自分のツボにはまって、このごろではこのCDばかり聞いてる。
ただ、朝に聞くにはちょっとしっとりしすぎてるかなあ。夜にならちょうどいいんだけど。「火の鳥」。
大好きだけど、こう長い曲だと自分の短い通学時間では最後まで聞けない。
この曲の一番おいしい部分は最後の最後、ホルンが華やかに鳴りひびくところにある。
ということは、自分の通学時間ではおいしい部分まではたどりつけないということで、それってやっぱりつまらない、・・・
朝にクラシックは向かない。
「恭一、ちょっと支度できたの?」
「なにやってるの?」
「遅刻するわよ!」
朝から大きな声をはりあげる母さんの声にうんざりしつつも、自分はしつこく迷っていた。
朝に聞く曲は重要だ、・・・その後の気分が左右される。ただでさえ今は梅雨。
こんな雨の日になんの音もないまま学校になんか行ったら、気分がめいる。で、なやんだあげく、クラシックはやめた。
もってでたのは、とあるバンドのアルバム。好き嫌いの激しい自分は、気に入ったとなるとそればっかりずーーーーーっと聞きまくる。
去年の秋はこのバンド一色だった。ぱっと見、ビジュアル系っぽいのがなんだったが(だって買うときに恥ずかしくない?)、とにかくカッコよかった。ヴォーカルの力のある声も、ギターやシンセが重なりあう音も。
回心。
その時の気持ちを言葉にしたならば、大げさだけど、まあそんな感じ?
小さい頃からクラシックにどっぷりつかって、ロックなんてばかにしていたし、正直な話、バンドに夢中になってるやつらのこともくだらないと思っていたけれど。
それって間違ってる。
電車は例によって大混雑で、目の前のおじさんの肘が肋骨の下にくいこんで、「今日こそ死ぬ、・・・」と真剣に思った。
どうせ一駅しか乗らないんだったら皆のように自転車通学にすればいいのだが、あいにく学校のすぐ手前には急な坂がある。あれを毎日上り下りするかと思うと、なかなか自転車通学には切り替えられない。かといって、毎日こうなのもなあ、・・・・・
メビウスの輪にはまっていると、突然、ずしんと響く低音が耳に入ってきた。
ヴォーカルの声をも圧倒するような、音。「???」
身動きの取れないまま、いつもとまるで違って聞こえるCDに耳を傾ける。
かっこいい。
って、それは去年はじめてこのバンドの曲を聞いたときにも、さんざんアルバムを聞きたおしていたころにも思ったことだけど。
とにかくかっこいい。語彙の少なさがもどかしいけど、そうとしか言いようがない。
改札口を抜けて異常な人ごみからようやく解放されたところで、手許のコントローラーを見る。
「あー、これかあ」
ベースが強調されて聞こえるような、そんなボタンがいつのまにか押されていたらしい。
大発見した気分。
今まで声とギターとにかき消されて気づかなかったけど、ベースってこんななんだ。
よく響く低い音は嫌いじゃない。しかもけっこう激しく音が動いていて、なんていうの、地味派手ってやつ?
まるっきり自分の好みだ。もうふつーのモードではCD聞けないな。
そしてこれが自分の運命の日。
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【2】